Webデザインの終焉

ウェブサイトの間では、以下のあらゆる点で、見た目で独自性を出そうとか、変わったデザインにしようといった傾向にかげりが見えてくるだろう。

  • 視覚的デザイン
  • 用語とラベリング
  • インタラクションデザインとワークフロー
  • 情報アーキテクチャ

こういった変化の元になっているのは4種類の違ったトレンドで、これらすべてが同じ結果に結びつく。

1. インターネットユーザエクスペリエンスについてのJakobの法則

ユーザは、大部分の時間を他ののサイトで過ごしている。このため、ユーザにとっては、彼らがすでに知っている他のサイトと同じように、あなたのサイトも動作してくれた方がありがたい。

この法則は決して未来のトレンドなどではない。すでにウェブを何年も支配してきた法則なのだ。ビジネス経験が豊富なウェブサイトほど、そのデザインは標準化してくるというのは、古くからよく知られた事実だ。YahooやAmazonのことを考えてみてほしい。「ショッピングカート」はどうだろう。テキストリンクはブルーにするというのもそうだ。

2. モバイルインターネット

モバイルであることと引き換えに、画面は小さくなっていく(持ち運びを簡単にするにはそれしかない)。グレイスケールになることもまれではない(バッテリー節約のため)。モバイルでの帯域幅は、有線での帯域幅に比べて圧倒的に制約が大きい。とはいっても、私は現世代のWAP電話機には期待していない。もっとましなデバイスが出回るようになれば、モバイルインターネットはたちまちビッグになると確信している。だが、次世代のモバイルでさえ、PCよりは画面がずっと小さい。このために、コンテンツとソリューションにフォーカスが向けられることになる。どうしても必要なものを除いては、ナビゲーション機能のために画面スペースを割くべきでない。ナビゲーションのスペースが狭くなると、どこへ行くのか、各種オプションをどう説明するのかといった点に関して、標準的な慣習に従う必要性はそれだけ増大する。

3. ネットワークコンピューティング

ネットワークこそがユーザ体験だ。それは場所やデバイスの壁を乗り越えて、コンピュータや情報機器の数々を統合し、継ぎ目のない一体感ある運用を可能にしてくれるだろう。だが、違ったデバイスを利用するたびにルールが変わっていたら、継ぎ目のない運用などはたして可能だろうか?モバイルインターネットがシンプルになるべきだとすれば、有線のインターネットだって同様のことがいえる。

複数のデバイスを対象としてサービスを提供する場合、同じサービスであることがユーザに理解してもらえるようになっているべきだ。どのプラットフォームでもほとんど同じ機能が提供できるようでありたい。とはいえ、中には、その機能を実現してもあまり意味がなかったり、ユーザビリティを確保したまま提供するのが難しいというデバイスもある。こういったものでは、省略されたり、後回しになる機能があっても仕方ない。こうしたことに頭を働かせていると、ものごとの見た目よりも、それが持つ意味論の方に目を向けざるをえない。

4. コンテンツ、およびサービスの配給

ウェブサイトはみな兄弟、と言う時代が過ぎ去ってずいぶんになる。1993年から1998年ごろにかけて、ほとんどのウェブサイトはローマ軍のキャンプのようだった。キャンプの住人たちは、慎重な計画を立てて、バリケードを建造した。このファイアウォールの登場が、自制の時代に終止符を打った。外界にあるものはすべて野蛮で、サイトとはつながりがない。

これと正反対なのが、1991年から1993年にかけてのウェブの創生期だ。どのサーバ上のコンテンツにも、サイトの内部だとか、その他のウェブだとかいう分け隔てはなかった。ウェブはひとつであり、どこかのサイトのページだけが特別扱いを受けることもなかった。

1998年ころから、双方向のコンテンツ配給を利用するウェブサイトが一般的になってきた。複数のウェブサイトで発表予定のコンテンツを作るなら、デザイン上、あまりこった仕掛けを使うわけにはいかない。どこでも使えるように、見出し、箇条書き、強調付きのキーワードといったものに限定する必要がある。

同様に、機能やコンテンツの大部分を他から取り込んでいるウェブサイトでは、資源を節約し、取り込んだものをサイト内の他の要素と調和させるために操作する必要がでてくるだろう。

アプリケーションサービスプロバイダを利用するウェブサイトも、あまり変わったデザインを維持することは難しくなる。ウェブサイト内の機能のうち、いくつかが他のサイトに設置されているということは珍しくなくなってきた。これらのサイトは、メーリングリスト、検索、カンファレンス予約、ショッピングカート、宣伝、クーポン券管理といった特定の機能に特化し、これを他に提供している。アウトソースされた機能を利用するユーザには、ある機能を利用するときだけ違ったサイトに一時的に移動しているなんてことを意識させないのが理想だ。単一の、スムーズなインタラクションとして一貫した感覚を持たせるべきである。

現在のところ、ASPでは、クライアントサイトとできるだけページの見かけを似せるための編集手段を限定的に提供しているが、通常、アウトソースしたページを、ローカル側のページとまったく同じように見せることは難しい。この両者ともが、ごくシンプルなデザインを採用しているなら話は違ってくる。

熟練ユーザのためにサイトは主導権を手放せ

過去5年間、ウェブは初心者ユーザにフォーカスすることを余儀なくされてきた。基本的には、いつだって、どんなウェブユーザだって初心者だったのだ。熟練ユーザといえるくらいにひとつのサイトを使い込んだ人なんて、ほとんどいなかったのだから。

上級ユーザといえるくらいしょっちゅう来るユーザがいるサイトでも、初心者をターゲットにせざるをえなかった。初めて来たユーザが数秒のうちに使い方が理解できるようになっていなければ、そもそもウェブサイトに入ってもらえないからだ。

経験を積んだユーザはより高度な機能を求め、初めての訪問者は極端なまでのシンプルさを求める。この矛盾するニーズを解決するためには、まず上級者向けの機能をブラウザ、あるいはその他のクライアント用ソフトに移行することである。単純な例を2つお目にかけよう。それは「Back」ボタンとブックマークだ。この両者ともうまく機能している。なぜならこの両機能はいずれもサイト側からは削除されたがゆえに、どこでも同じように動作するようになったからだ(愚かにも標準に従わないサイトは別だが)。

上級者向けの機能があらゆるサイトで標準化されるか、あるいはクライアントソフトでサポートされるか、いずれにせよ、上級ユーザにこういった機能を提供するために、サイトデザインで視覚的に訴える必要はなくなる。このため、初心者の学習を妨げることはない。反対に、そのサイトに初めて来た人でも高度な機能が使えるようになるのだ。他のサイトで学んだことがそのまま役立つから、特定のサイトについて学習しなおす必要はない。

ウェブデザインに残されるもの

ウェブサイトがさらに共通化され、見た目のデザインはさらにシンプルになるとはいえ、個々のサイトのユーザビリティを最適化するためには、まだまだたくさんのデザイン上の決断が必要だ。

最も重要なのは、あらゆるインターネットサービスは、そのサービスを利用するユーザのタスク分析と、彼らのニーズにもとづく必要があるということである。標準化されたユーザインターフェイス要素でも、その組み合わせ方はたくさんある。ある問題に関して、ユーザはどんなアプローチをとりたいと考えるか。これをサポートするサイトがよいサイトだ。

例えば、検索は「Search」であって、単純検索も高度な検索の違いはいつも変わらないと考えているかもしれない。だが、問題は、あるサイトにとって、高度な検索というものが意味があるのかどうかということだ。

コンテンツデザインがなくなることもないだろう。製品の説明はみんな違う。どの意見/作品も同じではない。情報ユニットの表現としてベストなアプローチは何か決めるというニーズは、なくなることはないだろう。

情報アーキテクチャも、一部は標準化されるだろう。例を挙げると、企業ウェブサイトの「About the company」エリアなどは、ほとんどがすでにそうなっている。このエリアを見たユーザは、誰でもその下部サイトとして経営陣、社史、財務情報、投資家向け情報、PRとプレスリリース、採用情報などが存在すると期待するだろう。だが、会社の性格によって、これらの下部サイトの構造は違ってもいいはずである。同様に特定の製品やサービスに関連したエリアは他にもたくさんあるだろうし、サイトごとに違った構造になっているエリアも多いだろう。

2000年7月23日