ユーザへの課金:
2001年の予想を振り返って

広告収入に依存したウェブサイトは、近いうちに過去のものになるだろう。1年前に予想した通り、2001年にはサービスに対して課金するサイトが出始めてきた。ほとんどのサイトはまだ課金をうまく処理できていないが、2002年にかなり有望なのが、ヨーロッパでの2つの画期的プロジェクトだ。

2000年のクリスマスイブに2001年のウェブ:有料顧客と題するAlertboxコラムを発表したが、新年の予想がこれほど的中したケースも珍しい。「2001年には、ウェブサイト運営者たちの間に合意が形成され、サービス料を顧客から徴収するようになるだろう」

2001年には、毎週のように課金式のサービスを立ち上げるウェブサイトが出現した。The End of Free (http://www.theendoffree.com/: リンク切れ)という専門のウェブサイトでは、以前は無料だったが、今年になってユーザに課金し始めたたくさんのサービスを継続的に記録している。

広告: 間違い

今、ベンチャーキャピタルに、ウェブ広告の収入をあてにしたビジネスプランなんかを持ち込もうものなら、大笑いされて、Sand Hill Road (訳注:シリコンバレーでベンチャーキャピタルが集中する街路の名前)に放り出されるのが落ちだ。

私が1997年から言い続けているように、ウェブでは広告はうまくいかない。目的指向のナビゲーションというユーザ体験の基本的性格に反するからである(検索エンジンの広告と3行広告は例外である:いずれもユーザの目的を邪魔せず、むしろサポートするものだからだ)。

広告会社の重役の中には、いまだにこれを認めず、ウェブを救うには、もっと広告を押し付けがましく、わずらわしいものにするしかないと考える人もいる。間違いだ。ウェブサイトでのユーザ体験があまりに低いと、人々は近づかなくなるだけだからだ。ポップアップがひどすぎて、もう訪問する気のなくなってしまったサイトが私にもいくつかある。

会員制: 間違い

有料サービスの現在の流行は、会員制でユーザに課金するという形だ。年間10~25ドルというのが一般的だが、中にはもっと高額なものもある。1997年から言っているように、会員制というのもやはり間違った考え方だ行動の自由と発見という、もうひとつの基本的ウェブ原則を踏みにじるものだからである。

会員制でうまくいくサイトもいくつかはあるだろうが、使えそうなインターネットサービス全部に対してこのような料金を支払えるユーザなどありえない。20ドルの会費が5、6件も集まれば、ほとんどの人にとってたいした金額になってしまう。ところが、ウェブサイトや音楽ダウンロード、その他、多くの人が使いたくなるサービスは、まだまだ他に山のようにあるのだ。

最近開催された Online News Association のカンファレンスで、Variety誌の編集者 Travis Smith は、会員制でサイト収入を得る方法について解説した。結構なことだ。だが、Variety 誌は、高度にターゲットを絞り込んだ業界誌である。エンタテイメント業界の中には、そこで提供している情報を必要とし、会費も払うという人が一定数存在する。一方で、Smith 氏は、Variety他のウェブサイトがリンクしてくれなくなったと、こぼしてもいた。無理もない。サイト制作者としては、ごくわずかな少数派にしか利用できないハイパーリンクなど、読者に提供したくはないだろうから。

会員制はリンクを殺し、検索エンジンの有用性を台無しにしてしまう。この2つの手法は、ユーザがブックマークしたサイトから、さらにその先にある豊かなウェブを探索し、発見するためのメインとなる手法なのだ。

マイクロペイメント: OK(やりかたさえ間違えなければ)

その答えはマイクロペイメントにある。これならウェブサイトへの収入が確保でき、しかもリンクやナビゲーションの自由をさまたげない。

残念なことに、マイクロペイメントについてはたくさんの誤解があるようだ。特に、リンクに出会うたびにユーザがいちいち立ち止まって考え込んでしまうのではないか、というのがそうだ。

本当のマイクロペイメントシステムは、目に見えないように働く。そして、いちいちクリックのたびに明確な確認を求めることなく、毎月の支払いとして蓄積していくのだ。電気料金や長距離電話料金とまったく同じ仕組みだ。確かに、オペレータと料金の相談をしてからでないと長距離通話がかけられないということになれば、あまり使う人はいないだろう(もちろん、長距離オペレータと話さなければならない場合、後でかけ直してもらって、通話ごとの料金を教えてもらうことはあるだろう)。いずれにせよ、電話会社は単に通話料を加算していって、すべてを1枚の請求書にまとめてくる。電話を使ったり、電気をつけたりすればお金がかかるということは頭でわかっていても、誰かと話をしたいときはやはり電話を手に取るし、部屋が暗ければ電気をつけるのだ。電気代を確かめるために、何分かごとにメーターを確認しに出ていったりはしないだろう。

重要なのは、マイクロペイメントがユーザがいちいち介入する必要さえないくらいの少額であるという点だ。勝手に課金されるのである。こっちで1セント、あっちで1セント。月末には、20ドルの請求が来るかもしれない。だが、それで2000件の記事が手に入るわけだ。

本当に少額なマイクロペイメントに加えて、中には20セントから1ドルといった中額のミディペイメント、あるいは数ドルのマキシペイメントを採用するサイトも出るだろう。つまり、ユーザにとっての価値が非常に高いコンテンツやサービスなら、料金も高く取れるだろうということだ。このような課金では、ブラウザに警告が表示されるようにしておかなくてはいけない。そして、このくらいの金額なら明示的に確認する必要なし、という境界値は、ユーザが個々に設定できるようにしておくべきだ。

2002年: ゆっくりした進展

残念ながら、マイクロペイメントは、遍在的なインフラがないと機能しない。全ユーザが課金サービスをインストールしない限り、ウェブサイトは料金を回収できないだろう。特定のウェブサイトにアクセスするだけのために、特別なソフトウェアをダウンロードしたいと思うユーザなどいないというのは、すでに確定した事実だ。プリインストール以外にはありえない。

このために、2002年には本当のマイクロペイメントは実現しないだろう。ユーザ課金にもとづいたサービスはさらに増えると予想されるが、料金は私が考えるものよりも高額で、回収もやっかいなはずだ。頼りになるインフラがないからである。多くのサイトが、独自の課金システムを実装するだろう。だが、Yahoo や AOL のような大規模サービス複合体でない限り、その先は見えている

ヨーロッパでは、デンマークとスウェーデンが、全国的マイクロペイメントシステムの計画を発表している。各国の主要ウェブサイトすべてがサポートする単一のスタンダードを利用するというものだ。このアプローチが役立つのは、小さな国家だけだ。だが、これらの課金システムが運用されると、いったいどんな新しいサービスが興隆するのだろうか、興味あるところである。デンマークとスウェーデンがウェブの小さな実験室となって、サービスへの課金が実現したあかつきに有効なアイデアは何か、教えてくれる見込みは十分ある。

2001年12月23日