投資家向けWebサイトのデザイン

個人投資家は、あまりに複雑な IR サイトに怖気づいてしまう。必要なのは財務データの簡単な要約なのだ。個人投資家も専門の投資家も、その企業自体の記事と、投資のビジョンを求めている。

  • by Jakob Nielsen
  • 2003年2月18日

投資家向け広報(IR)は、企業ウェブサイトの標準コンポーネント「ビッグ 4」のひとつだ。(これに並ぶのが、一般向け広報、求人、それに「About Us」=会社概要である)。今の世の中では、投資家たちは www.company.com へ行けば、現在の、あるいは未来の投資について調べがつくと思っている。

投資家をひきつけ維持するために IR 情報を提供するのは当然として、ユーザがもっとも必要とするコンテンツや機能に関しても、企業側は現実的にならなくてはいけない。理解不能なデータでユーザを溺れさせるよりは、シンプルにその企業についての一貫性ある記事を提供した方がいい。

ユーザ調査

企業ウェブサイトの IR 情報のユーザビリティを評価するために、合衆国と英国の 4 つの都市で一連のユーザ調査を行った。New York、Boston、San Diego、London がその場所である。いずれも投資ビジネスの中心地で、大企業の所在地でもある。これらの都市を選択したのはこれが理由だ。テストは計 42 名のユーザを対象に行った。28 名は個人投資家、14 名が専門家(機関投資家、金融アナリスト、金融ジャーナリスト)である。

ユーザには20 社のウェブサイトで、投資関連のタスクを行ってもらった。対象サイトは、幅広い業種や国籍に渡っている:Allied Domecq (UK)、Biogen、Ceridian、Home Depot、InFocus、Interpublic Group、Johnson & Johnson、Labor Ready、Novo Nordisk (Denmark)、Pacific Sunwear of California、Palm、Pfeiffer Vacuum Technology (Germany)、Rowan Companies、Royal Bank of Scotland (UK)、Stora Enso (Finland)、Symantec、Starbucks、Tyson Foods、UPS、and Vodafone (UK)。

企業ウェブサイトへ行って、有望な投資対象かどうか調べてほしいと頼んだところ、テストユーザの 40 %は URL を推測、36 %は Google を利用、24 %はその他の検索エンジンまたはインターネットディレクトリを利用した。この結果から、推測しやすいドメイン名を取ること、主要検索エンジンに登録してもらうことの重要性は明らかだ。

成功率

IR に関係した一定の質問 9 件について、ユーザにその回答をウェブサイトで探してもらった。平均すると、ユーザは、これらのタスクの 70 %を首尾よく完了した。最近行った他のウェブユーザビリティ調査に比べると、これはかなりよい成績だ。通常の成功率は 55 %から 65 %の間になる。

当たり前だが、この調査で専門家は「アマチュア」よりも高得点を上げた。投資の専門家の平均成功率は 75 %だった。一方、個人投資家の平均成功率は 67 %である。

比較的高い得点にもかかわらず、実質的な改善の余地はまだかなりある。その企業の最新の四半期報告を入手できなかったユーザは 35 %。前期の株価の最高値/最低値を見つけられなかったユーザは 77 %もいた。いずれも、非常に基本的な IR タスクである。

投資の専門家

テスト対象となった専門家は、3つのカテゴリーに分かれる。

  • 機関投資家は、投資信託会社、その他の大口取引を行う企業で働いている
  • 金融アナリストは、他者に対して投資のアドバイスを行っている
  • ジャーナリストは、ビジネス出版物や主な新聞紙に金融関連の記事を書いている

専門家ユーザのすべてが、同じ一般的結論に達した。大部分の財務データに関して、企業の自社ウェブサイトはあてにならない。代わりに彼らが利用するのは、会社で加入している専門のサービスである。Bloomberg や Reuters、First Call といったものがそれだ。投資専門家は大量の金融データをダウンロードして、自身のモデリングツールや表計算ソフトに読み込ませることが多い。このためのデータは、同じソースから入手できる標準化された形式のものの方がよい。それなら、簡単に複数の企業を比較できるからだ。

だからといって、自社ウェブサイトに IR 情報を掲載する場合、専門家は無視していいというわけではない。だが、専門家の情報ニーズを満たすという点では、自社のウェブサイトは二次的な役割に甘んじるしかない。

おもしろいことに、専門家ユーザは、あまりにも宣伝色が強かったり、マーケティング寄りだったりする情報には軽蔑の念を表したのに、その企業の「公式見解」は歓迎した。目標や予想値を概観した CEO の最新スピーチなどの記事である。専門家は、その企業が何を目指しているのかを示す経営者のビジョンを求めている。あわせて、簡潔な企業の背景情報、それに最近のニュースの概要を求めている。基本的に彼らが求めているのは、企業の過去、現在、未来を要約して語り、数字の裏づけとなるような記事だ。

個人投資家

普通の個人投資家は、専門家用のデータサービスにはアクセスできない。証券会社のウェブサイトや、Yahoo Finance のようなサービスを経由してデータを入手することが多い。

こういった簡略版のサービスでさえ、個人投資家の多くは、利用可能な財務データがあまりに大量にあるので、怖気づいてしまう。年間、四半期の報告書はウェブサイトで公開されていて当然と思う一方で、それを読むのにはほとんど時間をかけていないことを認めている。

個人投資家のためには、シンプルな表示形式の財務データと、ハイライトの要約を用意しておくとよい。同時に、よりくわしいデータも提供しておく必要があるが、重要な株式情報を 1 ページに要約してあるウェブサイトには、複数のユーザから好意的なコメントがついていた。

個人投資家はまた、投資対象としての有望性に関する記事も求めていた。主な疑問には、以下のようなものが含まれる。その企業の発祥は?今何をやっているのか?何が革新的で、どんな開発見込みがあるのか?同社のビジョンは?だが注意していただきたい。信頼性が高く、興味深い、簡潔な記事とは、ユーザのブラウザを表面的な美辞麗句とマーケティング用語で埋め尽くすことではない。この境界線は微妙だ。だがこれは、投資家に、自社の有望性を確信してもらう上で重要なことである。

標準的情報アーキテクチャ

ほとんどのプロジェクトで、私たちはインタラクションデザインおよび情報デザインの原理に関するガイドラインを提供している。通常、特定のサイト構造を推奨したり、ナビゲーションシステムのためのラベルを指定したりすることはできない。考えてみていただきたい。例えば、ある企業は 5 種類の歯科医用の X 線装置を販売していて、ある企業は OEM 向けに 1 万種のポンプとバルブを販売している。この 2 つの企業のウェブサイトの製品エリアには、ぜんぜん違った情報アーキテクチャが必要だろう。

これとは対照的に、ウェブサイトの IR エリアにやってくる株主および投資家予備軍には、共通のタスクがある。これは企業のタイプには関係ない。また、ユーザを満足させるのに必要な情報も、かなり似通っている。

IRエリアでは、ユーザとそのタスクは複数のウェブサイトでかなりオーバーラップしているので、標準的情報アーキテクチャを推奨することができる。これは、ユーザの情報ニーズとナビゲーション行動の調査にもとづいたものだ。あらゆるウェブサイトがこのとおりに IR 情報をまとめれば、投資調査はかなりやりやすくなるだろう。

私たちが推奨するのは、実際には 3 種類の異なった、だが関連性のある情報アーキテクチャである。これは、その企業がどれだけのリソースをオンライン IR に割くつもりなのかによって分かれている。これら低、中、高のデザインは、段階を踏むごとに、ユーザ調査でわかった優先順位に従って、徐々に機能が追加されていく。リソースが限られている場合、ユーザのニーズがもっとも高い機能に注力し、それをうまく実装するのが一番だ。その方が、デザインのまずい機能をたくさん取り入れて、サイトを混乱させてしまうよりいい。

シンプルな情報デザイン

IR エリアは、大量のPDF で汚染されている。年間報告をオンラインで公開するには、それがもっとも安価な方法だからだろう。たしかに報告書の全文がダウンロードできればユーザも助かるだろうし、彼らが自分でプリントアウトしてくれれば、こちらも印刷物の郵送を希望されるよりずいぶん節約になる。だが、オンラインで情報を閲覧して重要な情報をすばやく理解しようと思ったら、インタラクション用でなく、印刷用に最適化された配布物のページを時間をかけてめくることを強いられるような複雑なフォーマットではだめだ

今回の調査では、インタラクティブな株価チャートが高く評価された。だが、操作がとても難しくて、ユーザが望むオーバービューを見られない場合が多かった。個人投資家のためには、グラフ機能とラベルはシンプルにしておかなくてはならない。専門家は、どのみち、自分たちのハイエンドツールを使うことになるだろう。

ウェブ上の IR の可能性

IR はウェブへの適応性が高い。投資では、情報がすべて。それはオンライン証券取引サービスの成長を見てもよくわかる。同様に、企業は様々な IR サービスをセルフサービスのかたちで提供でき、莫大なコストを削減できる。もっとも、これはユーザインターフェイスが十分簡単にできている場合の話だが。

個人であれ専門家であれ、投資家は独立サービスの提供するデータだけでは満足していない。その企業自身の記事と投資ビジョンが知りたいのだ。複雑なものや、関連性のない情報を選り分けていくことなど望んでいない。すべてのバランスを取るのが、IR ユーザ体験の課題だ。シンプルさとビジョンを示しつつ、反感を買わないように投資家と結びつき、専門家にも、あまり金融知識のない人にも役立つこと。このバランスを達成するには、ユーザのニーズに注力したデザインにするしかない。

くわしくは

IR ユーザビリティ向上のためのデザインガイドライン 65 を含む 121 ページのレポート完全版がダウンロードできる。

2003年2月18日