ユーザビリティを200ドルで

小さな企業のウェブサイトが、ごく限られた予算の中で、ユーザビリティ活動の利点を享受するにはどうしたらいいだろうか?シンプルかつ効果的な、4 つのユーザビリティ手法をデザイン・プロセスの中に組み込むことだ。

小さなウェブサイトを持つ小さな企業が、ユーザビリティ手法を取り入れてデザイン品質を高めることはできるだろうか?できる。そうするべきだろうか?もちろん。どんなにわずかな予算であっても、サイトのビジネス価値をかなり向上できる。

2002 年 5 月に、.Net誌が、幅広いウェブ・デザイン業者に呼びかけて、R. Thomas and Sons 精肉店という架空の小企業のための、7 ページのウェブサイト・デザインのコンペを行なった。(残念ながらこの記事はオンラインでは読めない)。大方の予想どおり、見積り額にはかなり幅があったが、優れた提案の多くはおおよそ 2000 ドルあたりを提示していたようだ。

デザイン予算の約 10 %をユーザビリティに使うこと、という現状のベスト・プラクティスを前提にすると、このプロジェクトではユーザビリティに約 200 ドル使えることになる。このお金で何ができるだろう?

できることはたくさんある。だが、まず始めに余談から:サイトのページ数を固定的に想定するのは、明らかに間違いだ。ウェブ・プロジェクトは、ユーザの求める情報と機能のタスク分析から始めるべきだ。第 2 ステップで、このコンテンツの情報アーキテクチャを構築する。ナビゲーションやページのデザインは、コンテンツとアーキテクチャがはっきりしてからにすべきだ。とはいえ、小企業のウェブサイトをだいたい 7 ページと想定するのは、的を射たことのように思われる。そこで、ここでは、この数字を元に議論を進めていく。

4 ステップの小企業向けユーザビリティ

200 ドルの予算は 4 つのパートに分け、それぞれ 50 ドルずつを、以下の活動にあてるようお勧めしたい。

  • 顧客の情報ニーズを聞き出すために 1 時間
  • 初期デザインの評価に 1 時間
  • 短時間の店頭デザイン・テストに 1 時間
  • サイトの検索エンジン対応度を高めるために 1 時間

もちろん、これは時給を 50 ドルと仮定しての話である。目の玉の飛び出るような額を要求する大手デザイン代理店では、もちろん無理な話だ。いずれにしろ、大手の代理店なら、2000 ドルのプロジェクトなど門前払いを食わされるところだろう。精肉業者なら、料金の安い地元の小さなデザイン事務所に依頼する方がはるかに現実的だ。

ステップ 1:顧客の疑問を想定する

クライアントが精肉店であるという事実をいかして、店内に 1 時間張り込んで、来店する顧客の話を聞く。その店で何か知りたいことはないか尋ねるのだ。その日、買い物に出る準備を整える間にどんなことがあったかを、くわしく聞く。

どんな人も、一般的なことはよく覚えていないものだし、どんなものが必要になるかも予想できない。だが、ついさっき、自分がどんなことをしたかは、かなりよく覚えているものだ。この想起法には、本物のフィールド調査ほどの力はない。自分の行動を思い出してもらうのではなく、フィールド調査では、実際にやっていることを見るからである。だが、50 ドルでは、適切なフィールド調査は実施のしようがない。

このやり方の一番の弱点は、情報に関する見込み客のニーズがわからないことだ。クライアントのお店で買い物した人の話しか聞いていないのだ。時間の一部を、店外でのインタビューに使ってもいいだろう。近くの人を捕まえるのだ。だが、実際に話を聞くのは難しいだろうし、インセンティブにも、より高額の予算が必要になる。

店内で協力してくれた買物客には、ごく少額のインセンティブを提供すること。割引クーポンとか、バーベキューソース 1 瓶くらいのものだ。(ここで私はズルをして、200 ドルの予算内に、こういったインセンティブのコストを計上していない。だが、店の経営者なら、実質的にたいしたコストのかからないものを、プレゼント用に何か思い付けるはずだ)

店内にいる間に、電話番をしている係員にも話を聞くこと。電話をかけてくる人に一番よく尋ねられる質問を洗い出すのだ。こういった質問に対する回答は、サイトのコンテンツ候補として最有力だ。

ステップ 2:デザイン原案をユーザビリティ・ガイドラインにもとづいて評価する

1 時間では、それほど深いウェブサイトの評価はできない。だが、経験を積んだ専門家なら、そのデザイン原案がホームページ・デザインのガイドライン 113 箇条 や、一般的なウェブ・ユーザビリティ原則に合致しているかどうか判断できるはずだ。

デザイン評価に 1 時間しかかけられないとなれば、評価者には、当然ながらユーザビリティ原則に関する経験を積んでいることが求められる。新しいガイドラインを学んだり、どの原則がどういう場合に該当するのか調べたりしている時間はない。プロジェクトに関して日常的にユーザ・テストを行なっているデザイン代理店を選択することが非常に重要だというのは、そういう理由からである。そういう会社のスタッフなら、インタラクティブ・システムに対して人間がどういう行動を取るか、すでによく精通しているだろう。

この 1 時間にあてた 50 ドルの中には、例のホームページ・ガイドラインの代金 40 ドルは含まれていない。私は、この精肉店主には、ユーザビリティにしっかりコミットしたデザイン業者を選択するだけの才覚があるものと想定している。そういう業者なら、ユーザビリティ関連書や調査レポートのライブラリを持っているだろう。そこで得られるチェックリストが、いざという時の役に立つ。

ステップ 3:店頭でのペーパー・プロトタイプ・テスト

次に、迅速にデザインを変更して、評価の中でみつかった最悪の問題点を修正していく。そうしたら、実際のユーザでデザインをテストする時だ。

このためには、サイトの全 7 ページを出力して、店頭でのペーパー・プロトタイプ・テストを実施するのがいいだろう。ラップトップを持ち込んで、画面上でデザインをテストしてもいいのだが、店内の環境にはペーパー・プロトタイプの方が適している。コンピュータに向かって座ってもらうのではなく、1 ページずつ掲げ持って、どんな場所であれ、立ったままユーザに見せることができるからだ。拡大印刷しておけば、買物客も、眼鏡なしで画面上のコンテンツを判別してくれる見込みが高くなる。必要な時に老眼鏡が手元にあるとは限らない。

このレベルでは、ユーザのスクリーニングは不可能だ。10 分の時間を割いてくれる買物客でテストするしかない。これはまさにお手軽なサンプルだ。ユーザテスト参加者のリクルーティング・ガイドライン 233 箇条 に従う手間を省いて、たまたま来店した人でテストしているだけなのだ。これが、50 ドルでユーザ・データを入手する唯一の方法だ。とはいうものの、来店者にはまずウェブを利用するかどうか尋ね、ウェブ利用者のみを対象にテストした方がいい。さもないと、初心者にとってコンピュータがいかに難しいものか、ということがわかるだけで終わってしまうだろう。

各セッションは 10 分以内で終わるようにしよう。そうすれば、推奨されている 5 ユーザでのテストを 1 時間で行えるからだ。

ステップ 4:検索エンジン対策

ウェブサイトへの経路は、ほとんどの場合、以下の 2 種類である:

  • その精肉店自体の告知、たとえば買い物袋や包装紙に URL を印刷しておくなど
  • 検索エンジンから

50 ドルでは、専門家によるフルコースの検索エンジン最適化など望むべくもない。だが、検索エンジン対策の基礎を学んだ人間を 1 時間働かせることで、検索者にサイトを見つけてもらう確率を劇的に向上させることができる。少なくとも、検索結果リストの中で、ホームページのタイトルがサイトの内容を示す内容になっていること、さらに、もっとも顕著な検索キーワードがページ内に含まれていること、くらいは確認できるだろう。

「East Falmouth の精肉店」「East Falmouth で肉を買うなら」といった検索において、誰もが熱望するナンバーワンの地位を獲得することはできないかもしれない。だが、街に精肉店が 10 軒あるとして、検索エンジンへの対応を向上させることで、検索結果 1 ページ目での順位を上げることができるはずだ。

商店主にできることなら、あなたにも

ほとんど取るに足りないように思える 200 ドルという予算内でも、小企業のサイト・ユーザビリティはそうとう改善できる。ここに示したシンプルな 4 つのステップを実施すれば、企業の収支に対するサイトの貢献度を劇的に向上させることができる。ひいては、その企業が、ささやかなウェブ進出にかけた 2000 ドルの投資効果もより高まることだろう。

この課題にもとづいて、私は以下の 5 点を推奨する:

  • 創造的であれ。予算が少ないからといって、デザイン・プロジェクトからユーザビリティを外す理由にはならない。定評ある手法をもとにして、一般的でない簡略法を編み出す必要に迫られるかもしれないが、それでもユーザビリティは取り入れられるのだ。
  • 多様であれ。たいていの場合、様々なユーザ中心手法を採用して小さな活動を何回か行う方が、単一の手法で一度だけ活動するよりいい。
  • 信頼せよ。この記事で書いたようなスピードで事を運ぶなら、データ分析や、いかなる種類のレポートを書く時間もない。各活動の中でわかったことを信頼し、議論抜きで行動に移すこと。
  • 準備せよ。200 ドルで 4 つの手法を実施するには、経験豊かなスタッフの存在が前提となる。ユーザビリティ向上と検索エンジン対策に精通し、重要なガイドライン、チェックリストを熟知した人間である。
  • 日和見主義でいこう。クライアントが店舗を持っているなら、店頭でユーザテストして、リクルーティングとインセンティブのコストを切り詰めよう。どんなプロジェクトでも、何かしらお金を節約する機会が見つかるものだ。探せば機会はあるものだ。いつもまったく同じ開発手法をあてにするのはやめよう。

幸いなことに、ほとんどのプロジェクトには 200 ドル以上のユーザビリティ予算がついているから、そんなにあちこち切り詰める必要はない。だが、覚えておいていただきたいもっとも重要なポイント、それは、あなたにもできるということだ。どんなプロジェクトであれ、プロジェクトの規模の大小に関わらず、ユーザビリティは常に成功の助けになってくれるのだ。

参考情報

イントラネット・デザインのために 4 つのユーザビリティ調査を 2 週間で実施したケーススタディ(予算がかなりあったとはいえ、非常に短期間)。

2003年6月2日