Webデザイン標準の必要性

ユーザーは、単純なWebデザイン要素の77%には、特定の動作を期待している。残念ながら、もっと重要性の高いデザイン要素には、混乱が蔓延している。

「Webデザイン」というコンセプトには語弊がある。各プロジェクトチームは、Webをデザインしていると言っても、蟻塚を作る1匹の蟻にしか過ぎない。ユーザーがWeb全体を大きな1つのリソースの塊として見ている今、サイトデザイナは全体の中のコンポーネントを作っているに過ぎない。

大部分においてWebはLSDで幻覚を見ている蟻によって作られた蟻塚のようなものだ。多くのサイトが全体の中での収まりが悪く、期待される標準から外れているため使いにくいのだ。

いくつかのデザイン要素は、十分に一般的であるため、ユーザーは特定の動作を期待する。私が考える3つの標準化レベルを挙げる:

  • 標準: 80%以上のWebサイトが、同じデザイン手法を用いる。ユーザーは新しいサイトを訪れたとき、標準的な要素に固定された特定動作を強く求める。なぜならどのサイトでも、そのように動くからだ。
  • 慣習: 50~79%のサイトが同じデザイン手法を用いる。ユーザーは新しいサイトを訪れたとき、慣習的な要素に固定された特定動作を慣習的に求める。なぜなら一般的なサイトでは、そのように動くのが普通だからだ。
  • 錯乱: このレベルに属する要素は、どのデザイン手法も主流とはいえず、最も一般的なものでも最高で49%のサイトでしか使われていない。新しいサイトを訪れたユーザーは、そのような要素を見て何を期待すればよいのかわからずに混乱する。

(ここで使っている境界値は、慣習的になるには60%以上のサイトが同じことをしていなければいけないと私が考えていた1999年に使ったものよりも少し低くなっている。現在は、半分以上のサイトで見受けられれば、デザイン要素が慣習的になると思っている。)

Webサイトを単純に数えるより、各デザイン手法で得られているユーザーエクスペリエンスの割合で計算したほうがよい。言い方を変えれば、ユーザーが繰り返し訪れるサイトのほうが、たまにしか訪れないか、または全く訪れることの無いサイトよりも、比重が高くなるということだ。比重を考慮した集計により、私の結論は少し変わってくる。大きなサイトはユーザーインターフェイスの基本に忠実なことが多いため、以前考えていたよりも多くのデザイン要素が標準化しているだろうと思う。

標準化されているデザイン要素はいくつあるか

デザイン手法のインターフェイス標準化レベルを推定するために、2つの研究を比較した。私が行った50企業のホームページの24機能について調べた研究と、University of Washingtonで行われた75のeコマースサイトの33の機能について調べた修士論文だ。

興味深いことに、2つの異なる領域のWebデザインを調べたにも関わらず、双方ともほとんど変わらない数字を出している。そのため、ここでは両方の平均値だけを示しておく。

次に挙げるのが、調べた57のデザイン手法を標準化レベルで分けたものだ。

  • 標準: 37%のデザイン要素は、最低でも4/5のサイトで同じ手法が使われていた。標準的なデザイン要素は以下の項目だ。
    • ページ左上にロゴを配置している。
    • ホームページに検索窓を設けている。
    • スプラッシュ画面を使用していない。
    • (もし使っている場合は)パンくずは横向きに表示している。
  • 慣習: 40%のデザイン要素は、最低でも1/2(だが4/5以下)のサイトで同じ手法が使われていた。慣習的なデザイン要素は以下の項目だ。
  • 錯乱: 23%のデザイン要素は、多様性がありすぎて、どの手法も主流といえない。錯乱状態にあるデザイン要素のいくつかを次に挙げる。
    • メインのナビゲーション方法が、左に配置されたメニュー型、ページ上部に配置されたタブ型、ページ上部に配置されたナビゲーションバー、ページ中心部に配置されたYahoo型ディレクトリ一覧など。
    • 検索機能の配置が、ページの右上、ページの左上、ページの中心、またはそれ以外のページの場所にある。
    • ログイン手順。
    • ヘルプの配置。

ざっと見たところ、1/4のデザイン要素だけが混乱の原因になっているのは喜ばしいように見える。大多数のWebデザインには、慣習や標準が見受けられる。したがって、これらの慣習や標準が守られるようになれば、人々はサイトの使い方がすぐ分かるようになるだろうと言える。

しかし、各標準化レベルにあるデザイン要素を見てみよう。残念なことに、最も標準化の高いものは、単純で局所的な要素ばかりだ。例えば、ロゴをどこに置くか、パンくず式道しるべをどのように表示するかといったことだ。

錯乱的なデザイン要素はもっと大きな問題だ。個別のページというよりも、ユーザーがサイト全体の使い方をマスターする能力に強く関係している。ナビゲーションがわかりにくい。検索がわかりにくい。ログイン手順がわかりにくい。挙句の果てには、ユーザーにとっての最後の望みであるはずのヘルプまでもがわかりにくく、使いにくいのだ。

デザイン標準がなぜユーザーの助けになるのか

私たちは、混乱を招くようなデザイン要素は排除し、できる限り慣習的な方向に移行していかなくてはいけない。さらに言えば、重要なWebサイトでのタスクに対して、デザイン標準を確立すべきだ。

標準化はユーザーに次のことを約束する。

  • どんな機能があるのか、予想がつく。
  • その機能がインターフェイスの中でどのように表示されているのか、予想がつく。
  • その機能がサイト内、またはページ内のどこにあるのか、予想がつく。
  • 目的を果たすために、各機能をどのように操作すればよいのか、予想がつく。
  • 初めて見るデザイン要素の意味について、考え込む必要がなくなる。
  • 非標準的なデザイン要素の中にあったばかりに、重要な機能を見逃してしまうということがなくなる。
  • 期待通りに機能しなかった時の、不愉快な思いをしなくて済む。

このような利点は、Webサイトのユーザー主導感に貢献し、彼らが目的を果たせる可能性を高め、全体的なユーザーエクスペリエンスに対する満足度を上げることになる。

なぜWebサイトはデザイン標準に従うべきなのか

理由は1つで十分だ。

  • インターネット・ユーザーエクスペリエンスについてのJakobの法則:ユーザーは、大部分の時間を他のサイトで過ごしている。

他のサイトを訪問することによって、人々は共通性の高いデザイン標準や慣習に慣れ親しむことになる。したがって、あなたのサイトを訪れたとき、他のサイト同様に機能することを期待するのだ。

Web 2004プロジェクトで、ユーザーは自分の目的が果たせないと判断して、平均1分49秒でWebサイトを立ち去ることがわかった。(Web 2004でより詳しくわかったことをUser Experience 2004カンファレンスの基調講演で発表する。)

そのような短時間で、あなたがビジネス相手にふさわしいという印象をユーザーに与えなければいけない。そのため標準から外れたユーザーインターフェイスで手間取らせて、1秒でも時間を無駄にするようなことはやってはいけない。

今後、より重要な問題に対して、広範な慣習とデザイン様式を創り出し、それに従っていかなければいけない。それには次のものが含まれる。

  • 商品ページの構造
  • ワークフロー(単純な買い物カゴ以上のもの)
  • 企業サイトが提供すべき、主な情報
  • そのための情報構造(どこに何を置くか)

全てを標準化できるわけではない。しかしあなたが思っている以上に、ユーザー行動には一貫性があるのだ。たとえば、個人投資家と金融アナリストのリサーチでは、投資家向け情報用に推奨される3つの情報構造が導き出された。3つの異なる情報構造と言うと、標準化とは聞こえないかもしれない。しかしこの3つの構造は、同じ行動モデルを基に作られていて、かなり似通っているのだ。なぜなら投資家がどの企業の投資家向け情報に目を通しても、その行動には一貫性があるからだ。他の領域でも、重要要素に対するデザイン様式をつくることは可能なはずだ。このような様式は、十分な柔軟性を持ち、ユーザーにとって大切である部分に対して一貫した操作性と主導感を持たせられるものでなければいけない。

イントラネット標準

デザイン標準は、イントラネットが一般のWebサイトよりも有利な分野の一つだ。イントラネットは多種多様な問題を抱えているのだから、このような数少ない有利な分野を活用しない手はない。

イントラネットがインターネットと大きく違うのは、その管理権限が1ヶ所にあるということだ。イントラネットチームは、デザイン標準を定義し、それを会社内に浸透させることができる。その他にもイントラネットチームは、共通の発行システムを会社内で使うように実装を行い、きちんとデザインされた共通テンプレートの中に全てのコンテンツを収めることによって、一貫性を保つこともできる。

私は、イントラネットチームがこのようなことを「できる」と、あえて軽く言う。ほとんどの企業のイントラネットチームにとっては、イントラネット全域に渡る管理権限を得るまでに政治的な障害があるのが現実だ。しかし、私たちが調査した中で本当に優れたイントラネットのほとんどは、何らかの形でデザイン標準を確保していたのだ。

イントラネットとWebサイト、どちらを運用するにも1つだけ明確なことがある。ユーザーが求めているものを提供し、デザイン慣習に沿えば沿うほど、より高い成功を収めることができるのだ。もちろんコンテンツ、サービス、製品で特徴を出すのは重要なことだ。しかし、それにアクセスするためのインターフェイスにおいては、他者に従うのが最善の策なのだ。