イントラネットにおける情報アーキテクチャ

56件のイントラネットを分析した結果、トップレベルカテゴリやラベル、ナビゲーション設計には多くの共通点が見られたものの、各イントラネットの構造にはかなりの違いが見られたため、最終的にただ一つのIAモデルを推奨することはできなかった。

情報アーキテクチャ(IA)は、何らかのナビゲーションを要するシステムを設計する上で立ちはだかる大きな課題となる。過去の経緯では、イントラネットで計画的にIAを行おうとした例はわずかしか見当たらない。設計担当者は、各部署がそれぞれに追加していくページや機能が自然に増えていくのに合わせて、イントラネットを“構造化”するのが常だった。従業員はそのとばっちりを受けて、一貫性のないナビゲーション手段とややこしいサイト構造のせいで、幾度となく迷う羽目に陥っていた。

幸いにも、多数の企業がイントラネットIAについて真剣に考慮するようになり、野放しに成長していく構造ではなく慎重に設計された構造に基づく一貫性のあるナビゲーションシステムを維持するために、計画的な努力を始めている。

われわれはまず、イントラネットIAのプロセスとその設計の成果を、目に見えるユーザーインターフェースとその土台となる構造の両面から文書化しようと試みた。

56件のイントラネットにおけるIAを分析対象としたが、それらは12か国に及ぶ幅広い組織に渡ることとなった:

  • 民間企業: 33件(金融、公共サービス、テクノロジーなど様々な業界に渡る)
  • 政府機関: 11件
  • 医療サービス事業者: 5件
  • 教育機関: 4件
  • 非営利組織(NPO): 3件

これらのうち、11件は小規模(従業員数500名以下)、30件は中規模(従業員数501~20,000名)、15件は大規模(従業員数20,001名以上)な組織であった。

アーキテクト不在のアーキテクチャ

理想を言えば、イントラネット担当チームにはユーザーエクスペリエンスを構成するIA部分を担当するプロのIA専門家が加わるべきだろう。しかしそれは、そのようなチームにはユーザ調査を行う専任のユーザビリティ専門家に加えて、プロのインタラクションデザイナーやグラフィックデザイナー、ライターや編集者、ソフトウェアエンジニアやシステムアーキテクト —— そしてもちろん、十分な事務的サポートをしてくれる優秀なマネージャまで入れるべきだと主張するようなものだ。それこそまさしくドリームチームと言えよう。しかしながらほとんどの企業では、イントラネットでの最適なユーザーエクスペリエンスを設計し構築するのに必要な数々の役割ごとに、それぞれ常勤の専門家を割り当てる余裕はない。

調査の対象になった組織のうち、常勤のイントラネットIA専任担当者を置いていたのは25%にすぎなかった。イントラネットIAに関する調査プロジェクトに参加してくれるような企業は、このテーマについて平均以上に関心を持っているか対策を講じているはずなので、世の中のイントラネットすべてを対象にした場合、この割合がもっと下がるのは間違いない。

ただし、望みなきにしもあらず。各分野の専門家を揃えた大掛かりなイントラネット担当チームができれば申し分ないが、こじんまりしたチームの場合でも、複数の役割を兼任できるメンバーがいればうまくいく。他の業務の担当者でもユーザビリティの基礎知識を身に付けることができたように、誰でもIAの基礎知識を身に付けることは可能だ。どんなデザインチームでも —— たとえ自由にこき使えるユーザビリティ専門家がいない場合でも —— 必ずユーザーテストを実施すべきだったのとちょうど同じように、イントラネット担当チームは、もし正式な“インフォメーションアーキテクト”がいなくても、IAを重視して計画的に改善を進めていくべきなのだ。

そのような小規模なチームでは、デザイナーやユーザビリティ専門家、またはライターが、インフォメーションアーキテクトの役割を掛け持ちすることが多い。もっとも重要なIAの原則 —— および、ユーザーデータに基づいてデザイン上の判断を行うための資料 —— について少々トレーニングを実施すれば、常勤の専任インフォメーションアーキテクトがいなくても、満足のいくIAの成果を手に入れることができるに違いない。

IA関連プロジェクトでもっとも重要な達成目標の一つは、成功の鍵を握る二つの要素において一貫したユーザーエクスペリエンスを作り上げることだ。一つは目に見えるナビゲーション用のユーザーインターフェース、もう一つはその土台となる —— 目には見えない —— 構造(イントラネット上で探し物が見つかる場所)である。それを見事に達成するため、デザインチームが行うべき必須事項は以下の通りだ:

  • IAを野放しに成長させるのではなく、常に先手を打つ形で設計するように決めておく。
  • 管理部門は中心となるIA設計担当者の権威が保たれるよう支援し、その担当者が他の部署でのイントラネット利用上の指針や基本構造を提示できるようにする。
  • デザインチームに対して管理部門が後からケチをつけ、経営トップの誰かの単なる好みでしかないおかしな構造やナビゲーション用語を押し付けることがないようにする。

ゼネラリスト的ツール、シンプルな調査手法

われわれの調査によれば、IA関連プロジェクトでそれなりの頻度で用いられていたツールは、古きよきMicrosoft OfficeとVisioだけだった。それより専門的なツールを利用していた組織は一握りにすぎなかった。

たとえば、カードソーティング調査用のデジタルツールを使っていた組織はわずか4%だった。これは確かにうなずける数値だ。その名が示す通りのシンプルな技術(つまり、実物のインデックスカードのことだ)を使っているだけでも、カードソーティングの成果はほぼ完全に手に入るからだ。

われわれが調査したチームで頻繁に用いていた手法は、アンケート、カードソーティング、トラフィック分析、ユーザーテストの4種類だけだった。これらは間違いなくもっとも重要な調査手法だ。これら4種類の手法をすべて用いている組織なら、優れたIAを行うための基礎となる、実証データに基づく丈夫な土台ができるだろう。

さらに高度な手法を用いた組織は数えるほどしかなく、ほとんどの組織は、もし体系的なユーザ調査をもっと実施していれば、きっとその恩恵にあずかれるはずだった。たとえば、事務所や工場などの普段の環境でユーザを観察するフィールド調査(エスノグラフィ調査とも呼ばれる)を実施した組織はごくわずかだった。同じく少数ではあるが検索ログ解析を実施した組織では、それを大いに活用して、IAを改善しショートカットメニューにするべき操作を洗い出すことができていた。ユーザが検索を行う時とはすなわち、(a)その探し物が必要で、かつ(b)それがナビゲーション上に見当たらない、という時なのだ。

よい傾向としてお知らせしたいのは、調査対象となった組織のほとんどが、イントラネットIAの基礎として何らかのユーザ調査を行っていたことだ。これは、イントラネットの創成期を経て見られるようになった飛躍的な進歩だ。

共通のカテゴリ

イントラネットにおけるトップレベルカテゴリ数の中央(メジアン)値は7であったが、数値の範囲は3から31の間となった。企業の規模と、そのイントラネットのナビゲーションで用いられるトップレベルカテゴリの数との間には、結局のところ何の関係もなかった(相関関係はわずか0.006だ)。だから、規模が大きいというだけで広大なトップレベルナビゲーションを用意するのはナンセンスである。かなりピントを絞ったナビゲーションシステムを用意しても、実用上は大差ないだろう。

大多数のイントラネットでトップレベルナビゲーションの座を射止めたカテゴリは、3つだけだった:

  • 人事(HR)情報(66%)
  • 企業情報(63%)
  • ニュース(59%)

部署や事業部門についての情報は、46%のイントラネットでトップレベルカテゴリとなっており、その他の雑多なカテゴリはさらに低い割合で延々とロングテールを形成していた。

われわれはこのプロジェクトの発足当初、イントラネット向けに推奨すべきIAをモデル化したいと願っていた。各イントラネットの構造があまりにも多様であるため、最終的にはその目標が達成できずに終わったが、各プロジェクトが出発点として利用し、組織の事情に応じてアレンジできるような、IAのひな形を作り出すことはできた。

多くのイントラネットは、いくつかの一般的パターンに従っている。また、企業は業種ごとに特有のトレンドに従う傾向も見られる。よくある例として、製造業ではトップレベルナビゲーションに製品関連のカテゴリが入るし、知的財産を中心に扱う企業ではナレッジ管理(KM)のカテゴリが入る。

パーソナライゼーションとカスタマイゼーション

イントラネットでは、よく利用するページにすぐアクセスできるショートカットナビゲーションのための近道リンク(Quick Links)機能を用意していることが多い。その手の機能を何種類も用意している例もあるが、それは行き過ぎとなる場合がほとんどだ。どのショートカットメニューにどこへのリンクがあるのかをユーザが覚えきれなくなり、実質的にユーザビリティの低下を招いてしまうことがある。近道リンクのエリアが1つだけなら、ユーザがどれを使えばよいか迷うおそれはなくなり、相当な時間の節約になる。

近道リンクの一覧は、ユーザ自身がカスタマイズできるようにすべきである。われわれの調査では、一部のイントラネットで特にカスタマイゼーションを容易にしている例が見られた。一般的に、ユーザに機能をカスタマイズさせるのは難儀なことなので、初回アクセス時にデフォルトで表示される内容をできるだけ有意義にするよう注力すべきだ。そしてカスタマイゼーションを実行するUIは、相当に磨き抜かれたユーザビリティを備えていなければ、技術に長けたユーザ以外は誰も使わなくなり、彼ら専用の道具に成り下がってしまうだろう。

ユーザはカスタマイゼーションに時間をかけたくないと思うのが普通なので、調査対象としたイントラネットの多くではパーソナライゼーションに注力していた。これは一般的に、時間の経過につれて精度が上がっていく。特に大規模なイントラネットでは、一番よく使う項目を目立たせるというシンプルなパーソナライゼーションを行うだけでも、平均的なユーザにとって一段とナビゲーションしやすくなることがある。

そうは言っても、至極単純でもっとも“Web 1.0的”なナビゲーションである相互参照リンクの力を忘れてはならない。多くのイントラネットでは、関連リンクの一覧が非常に役立つ。関連リンクの設計に一貫性があり、その場所と内容がいつでも分かるようになっていれば、ひときわ便利だ。

時を超えた設計

調査対象のイントラネットIAを分析したところ、利用状況が変化したせいでユーザーエクスペリエンスが損なわれているケースが驚くほど多かった。一部の組織では、組織再編がほぼ年中行事となっており、部署単位のコンテンツに基づくIAは滅び行く宿命となっていた。そのようなケースでは、ナビゲーションメニューやURLが絶え間なく変わり続けていた。

言うは易く行なうは難しと言うものの、将来的な変化を念頭におきながら、十分な打たれ強さを備えたIAを行おうと努めることが大切だ。そうすれば、組織再編や企業統合、経営方針の変更、新たなプロジェクトの立ち上げ、新機能の追加、そして時間の経過に伴うコンテンツの自然な増加などが生じても、そのイントラネットはほどよく安定した状態を保てるだろう。

われわれの調査では、タスクに基づく構造を持つイントラネットの方が、部署単位で構成されたイントラネットより耐久性に優れていることが多かった。イントラネットでのユーザーテストでも、タスクに基づくナビゲーションは学習しやすさを増す傾向があると分かった。このように、IAの耐久性を増すというメリットにもなるため、イントラネットではタスクに基づく構造を用いるべきだという論拠がもう一つ増えることになる。

イントラネットでのナビゲーションを台無しにしかねない変化の一例は、最新のバズワードや企業独自の言い回しを反映してラベルを変えろという経営トップからの要望である。CEOの最新ビジョンや経営判断をブランディングするには、洒落た造語を考え出すのも悪くないかもしれない。しかし、その手の新語(neologism)は必ずコンテンツ本文の中で用いるだけにしておくべきだ。イントラネットのメインナビゲーション上では使用厳禁である。そこで使ったりすればナビゲーションはぶち壊しとなり、ユーザを路頭に迷わせるだけだ。

イントラネットのメニューにそのような造語を入れることが、作業時間のロスによる数十万ドルの損失に見合うものかどうか、経営陣に問いただそう。普通はそんな値打ちはないし、翌年になれば――たぶんみんながやっとその用語になじんだ頃には、それを撤回するように指示されることが多いのだから尚更だ。ナビゲーション用のラベルには、必ず長期的な視野に立ったネーミングを行うようにしよう。これらのラベルは、従業員がその意味を考えつくのに要する時間の長さで見れば、企業にとって一番高くつく言葉である。

分厚いレポート

744種類のスクリーンショットを含み、1,193ページに及ぶこのレポートは、これまで発行した中でも最長のものである。IAは実際そこまで複雑なテーマではないので、いったい何がこのレポートの売りなのか? ここまで長くなった理由は、 かつてないほどの大量の分析結果を、全56件のイントラネットによるIAのツリー構造という形で示し、それらのナビゲーションシステムがすべて分かる詳細なスクリーンショットを掲載したからだ。

この膨大なレポートを提供することにした理由は、調査の結果、イントラネットIAの設計者が非常に大きな課題に直面していると分かったからだ。イントラネットの性質上、設計者は他の組織のイントラネットでどのように情報を構造化しているかを知ることができないし、他のイントラネットのナビゲーション設計を真似してみることもできない。この調査の対象とした56件のイントラネットについても、レポートの読者が実際にその中身をいじれるわけではないが、それらのIAの詳細をもれなく公開すれば必要なだけ深く知ることができるし、われわれの分析ではノーコメントだがみなさん自身の業務では重要となるような、ごく具体的な問題の解決方法を調べることができる。

しかも、心配はご無用。レポート全体はかなりの分量があるが、おもな結論やアドバイスは最初の161ページに含まれているので、比較的手っ取り早く読める。だから、まずはその概要部分を読み終えてから、残りを好きなだけ詳しく読み込んで欲しい。

コピーしただけでそのまま使えるような解決策は一つもないが、多岐に渡るIA上の課題に取り組むべくさまざまなチームが設計したバラエティ豊かな解決策から学ぶべき点は多い。それらの力を借りつつ弱点は回避していけば、みなさん自身の解決策は一段と優れたものになるだろう。

744種類のスクリーンショットも、よく吟味したものばかりだ。これらは見ての通り、IA関連プロジェクトで役立つデザイン上のアイデアの見本帳となるように用意したものだが、他にもデザイン的に興味をそそられる箇所は数多く見つかる。たとえば、マクドナルド社はイントラネットの利用統計を表示する箇所で、“先週おもてなしした訪問者は27893名です”というように、茶目っ気のあるフレーズを用いている。このフレーズは、数十億個ものハンバーガーを提供している実績をアピールする、同社の有名な看板文句をもじったものだ。イントラネットは真面目なビジネスツールであり、優れたIAとは従業員の生産性を向上させるものであるべきだが、インターフェースの一部にちょっとした遊び心を取り入れてはいけない道理はない。特にそれが、ユーザーエクスペリエンスを企業文化に同調させるようなものなら、ぜひ活用してみよう。

2007 年 11 月 26 日