Webユーザビリティガイドラインの変動性 vs. 安定性

1990年代のウェブユーザビリティ研究における調査結果のうち、なんと80%が現在でも相変わらず通用する。

ウェブユーザビリティテストが14周年を迎えるに当たり、その初期の結果が最近のユーザ調査についてもどの程度妥当なものか、確かめてみるのも悪くない。

私は10年前に、1994年から1997年までのウェブユーザビリティの変遷についての記事を書いた。1994年当時の調査結果の一部は、発表してからたったの3年でもう役立たずになってしまった。しかし、1994年のガイドラインの大部分は1997年になっても通用した ― そして、それらは現在でもいまだに正しい。

1994年当時のウェブサイトがいかに原始的だったかを思うと、これら初期のユーザビリティガイドラインの多くが今日のサイトに対してもいまだに有効なのは、大いに注目すべきことだ。今やウェブ上には1億2千万のサイトが存在すること、そして私自身のまさしく初の調査が3ユーザによる5サイトのテストに過ぎなかったことを思えば、ますます感慨深い。このこじんまりとした探索的研究によるめざましい成果とその耐久性は、定性的ユーザビリティ調査法の威力を証明するものである。

1999年、私はウェブ・ユーザビリティ ― 顧客を逃がさないサイトづくりの秘訣という自著を出版した。そこで紹介したガイドラインは、200ユーザによる約100サイトのテストから導き出したものだ。自分自身の最初のテストから、その初めての包括的な書籍を出版するまでの5年間を通して、われわれはウェブユーザビリティについて多くを学び、成功するウェブデザインを行うための健全なアドバイスを提供することができた。

過去のウェブユーザビリティガイドラインを再評価する

ウェブユーザビリティをデザインするためのガイドラインが、果たして今後も役に立つのかどうか、確かめたくなるのは無理もない。今やわれわれの最新のウェブユーザビリティガイドラインは、16カ国に渡る2,744ユーザによる831サイトのテスト結果に基づいている。これら最近の調査は、私が1990年代に行った調査の数々よりはるかに徹底しており、1,000項目を超える新たなガイドラインを認定している。

私の近著である 新ウェブ・ユーザビリティ では、1990年代のガイドラインを、最近の調査結果に照らして評価するための章を設けた。(その他の章では、数千もの新たなユーザビリティガイドラインについて、ビジネスの成功に関わる重要度に従って優先順位を付けている。)

この本では、初期のウェブユーザビリティガイドラインの各項目ごとにセクションを設け、最近の調査結果との関連においてそれらの価値を判定している。各ガイドラインが現在のユーザにとってどれくらい重要かに従い、ドクロの数で評価を示した:

  • ドクロなしは、そのガイドラインを適用すべき事柄が、もはや問題ではなくなったことを意味する。
  • ドクロ1つは、今ではさほど重要でない事柄を扱うガイドラインであることを示す。
  • ドクロ2つは、今でもそれなりに影響のあるユーザビリティ上の問題を対象としていることを示す。
  • ドクロ3つは、現在のユーザテストでもいまだに重大なトラブルを引き起こす問題を対象としていることを示す。

1990年代のガイドラインすべてがいまだに重大事で、どれもドクロ3つが必要だとした場合に付くことになるドクロの合計数を、基準値と定めてみよう。実際には、かなりの数のガイドラインがドクロなしか、1つか2つで済んでしまった。いろいろな事柄が、時が経つにつれてさほど問題ではなくなってきたからだ。

ガイドラインはなぜ変わるのか

ユーザビリティ的課題が現在の世界で姿を消しつつありそうな状況は3通りあり、それらに応じた3つの理由によって、私は各ガイドラインからドクロの数を減らしている。

  • 技術の改善: 進化するブラウザや高速化するネットワークなど、一段と逞しくなった技術の数々により、手の込んだデザイン上のアイデアが消化しやすくなった。
  • ユーザ行動の適応: ユーザが一定の操作テクニックに慣れるにつれて臨機応変に行動するようになり、さまざまなテクニックがより使いやすくなった。
  • デザイナーの自制: デザイン要素は原則的には相変わらず悩みの種かもしれないが、ウェブデザイナーたちは、それらを最悪な形で使うことはしないようになってきた。そのおかげでデザイン要素は、単に誤用される機会が減っただけではあるが、昔ほど問題を起こさなくなった。

以下の円グラフは、1990年代当時の“ドクロ”(すなわち、ユーザビリティ上の問題)が、現在もどれくらい転がっているかを示している:

1990年代のウェブユーザビリティガイドラインのほとんどが、いまだに有力であることを示す円グラフ。ただし、今ではデザイナーが自制心を働かせ、インターフェース要素をさほど誤用しなくなったため、その多くは昔ほど重要ではなくなっている。変化するユーザ行動や新たな技術によって役目を終えたガイドラインの割合は、それよりも小さい。
(※円グラフ上のテキストの翻訳:割合の大きい順に、
「いまだに重要課題」「デザイナーの自制」「ユーザ行動の適応」「技術の改善」)

1990年代のウェブユーザビリティガイドラインの末路。

この円グラフから導かれる結論:

  • 1990年代のユーザビリティ調査結果の半数以上は、いまだに有力である。
  • 当時のユーザビリティ上の問題のうち、技術の改善のおかげで解決したのはたった10%だ。確かにウェブ技術には多大な進歩が見られてきたが、それらは概して、ユーザを路頭に迷わせたりサイトについての誤解を招いたりイライラさせたりする本当の問題にまでは手が回っていない。
  • ドクロの数が減ったのは、技術の改善よりも変化するユーザ行動による場合が多い。原則として私は、人間がコンピュータに適応できると期待するのは無理な話だと考えているが、それはあり得ない話ではないし、そのようにして取っ付きにくいユーザインターフェースがいずれはより使いやすくなることもある。1994年当時より現在のほうが、ウェブが(たとえ出来の悪いサイトについても)使いやすくなっているのは、単に人々がウェブの作法についてより経験を積んできたからにすぎないのだ。

最後に、この円グラフに占める「デザイナーの自制」の部分に注目しよう。1990年代のガイドラインのうち22%は、デザイナーたちが昔ほど過ちを犯さないようになってきたおかげで、今では問題ではなくなりつつあるのだ。しかし実のところは、土台となっているガイドライン自体が無効になったわけではない。ただ昔ほど重要ではなくなっただけである。

たとえば、スプラッシュページの利用は避けるべし、というガイドラインを例としてみよう。1990年代にベストセラーとなったあるウェブデザインの本ではスプラッシュページを大いに推奨していたが、そのために私は1999年にそれらに猛反対する運動を展開せざるを得なかった。しかし今では、自分の講義でスプラッシュページについてわざわざ言及しなくなった。良識あるデザイナーなら、ウェブサイトの入り口にスプラッシュページを用意することはなくなったからだ。ただし、いまだにスプラッシュページを要望するクライアントがいないわけではないので、われわれはいまだにこのガイドラインを各種の書籍に掲載しており、このわずらわしいデザイン要素は使うべきでないとデザイナーがクライアントに忠告する際に、ユーザビリティ調査の結果を文書として示せるようにしている。

現在のデザイナーたちの自制によって回避できるようになった、過去のユーザビリティ上の問題の22%とは、言い方を変えれば“不発弾”のようなものだ ― もし未来のデザイナーたちが自制心を失ったり、無知なクライアントがひどいデザインを強要するようなことがあれば、いつ暴発するか分からない。

ユーザビリティガイドラインの安定性

デザイナーの自制が見られるガイドラインの割合に、いまだに重要課題であるガイドラインの割合を加算すると、ウェブユーザビリティに関する1990年代の観察結果の80%は、現在でもなお問題であるか、問題となるおそれがあるものだと分かる。

私が1999年に出した本が、わずか200名のユーザのデータに基づくものだったことを考えれば、80%というのはかなりよい成績だろう。

あるいは、ウェブユーザビリティガイドラインを、1986年のアプリケーションデザインガイドラインの耐久性と比較することもできる。私はこれらのガイドラインを分析した際に、その90%がいまだに有効だと知った。アプリケーションガイドラインが私のウェブガイドラインより13年も前に作られたことを思えば、この一段と優秀な成績にはなお感銘を受ける。アプリケーションガイドラインがウェブガイドラインより高い耐久性を備えていることには、2つの理由がある:

  • 1986年のガイドラインは、アプリケーションのユーザビリティに関する25年以上に渡る調査に基づいていた。古いものでは、1961年の調査からの引用も行われている。それとは対照的に、私の1999年のウェブガイドラインは、わずか5年間の調査によるものだった。しかし私は、それを世に出すまであと20年間待つより、その1999年の時点で出版する意義があると考えたのだ。当時のウェブユーザビリティの悲惨な状況を覆そうとせずに、2019年まで放置しておくなどということは考えられなかったからである。
  • インターネットは、コンピュータ全般よりも急激に変化している。これらの変化のほとんどがユーザビリティガイドラインに無関係だったとしても、影響を及ぼすものが皆無だというわけではない。その結果われわれは初期のウェブガイドラインについて、通常ユーザビリティガイドラインにおいて必要とされるよりも、かなり突っ込んだ修正を加えざるを得なかった。

ただし全般的には、アプリケーションまたはウェブサイトのどちらのガイドラインを見ても、ユーザビリティガイドラインは数十年を経てなお著しく安定している。なぜならそれらは、さほど変わることのない人間的な特性に根ざしているからだ。

その後のより新しいウェブユーザビリティガイドラインは、1990年代の調査結果よりも一段と安定していることが明らかになる傾向がある。今のところわれわれは、2000年以降の調査で見出したガイドラインは、一つも修正していない。われわれは何かを再調査する際には、その都度ガイドラインを確認する。新たなガイドラインを見出したり、1990年代のガイドラインの一部を撤回することはつきものだが、2000年以降に文書化されたガイドラインはすべて有力なままだ。きっといつかは、それらさえ撤回せざるを得なくなるテスト結果が出るかもしれないが、今はまだその事態には至っていない。

歴史に学ぶ

歴史が示しているのは、ユーザビリティの敵勢は決して降伏せず、後退することもない戦闘を続けていることである。

敵の一人によるもっとも狡猾な論法は、こんな具合だ。「確かに、昔はユーザビリティ主導者たちが正しかった。でも、今ではもう間違いだ」。彼らはこのように、すでに誰もが認める原則に備わっている明らかな妥当性を容認しながら、最近のユーザ調査を拒絶することに威信を持たせているのだ。

  • 1995年、ユーザビリティの敵勢は、ユーザテストはアプリケーションを改善するにはよい方法かもしれないが、ウェブサイトには役に立たないと述べた。(皮肉にも、当時そう言った人々自身が、今では逆のことを言っている: ユーザビリティ手法は、ウェブサイトには役立つだろうがアプリケーションには向かないと。)
  • 2000年、ユーザビリティの敵勢は、ユーザビリティガイドラインは静的なウェブサイトにはうってつけだが、Flashの過剰な利用については、私が過度に警告しすぎだと言った。それは“見れば分かるとおり”、サイトをよりエキサイティングで動的なものにしてくれるのに、と。
  • 現在、ユーザビリティの敵勢は、初期のFlashをめぐる問題については私にも一理あったかもしれないが、古典的なユーザビリティガイドラインを、あらゆるものに革命を起こしすべての既成概念を覆すとその支持者たちが主張する(私はそう思わないが)“Web 2.0”にまで適用するのは理不尽だと述べている。

5年前から10年前くらいのユーザビリティ調査結果は一目瞭然なものだと言っている人々は、調査当時にはそれらを激しく拒絶した張本人たちなのだ。

2012年には、彼らユーザビリティの敵勢が次のようなブログ記事を書いているのが、難なく予想できる。「確かに、ヤコブ・ニールセンは2007年には正しかったかもしれないが、2012年の今、僕らが作っているクールで斬新な仕掛けは、彼には理解できないさ」。しかし2017年には、わざわざユーザ調査を実践しているわれわれのような人種が笑っていることになるだろう ― その頃には、2012年の調査結果がまさに的を射ていたと誰もが認める事態となっているはずだ。最後に笑う者が、一番よく笑うのである。

2007 年 6 月 11 日