マスコミが報道する事例を鵜呑みにしてはいけない。マスコミにたくさん取り上げられるサイトは、サイトの多数派を代表するものではないことが多い。実際、それが取り上げられるのは、他と違うところがあるからなのだ。ただ唯一のウェブの「キラーアプリ」は多様性である。サイトによる違いが大きく、かなり特殊なユーザのニーズにも応えられるという事実である。いくつかのサイトが、例外的な状況下でユーザニーズに見事に応えているとしても、君のサイトでは別のアプローチを採用せざるを得ないだろう。ユーザも違うし、彼らのやりたいと思っているタスクも違うからだ。

典型的でない事例 この事例を一般化することから生じる
よくある勘違い
妥当性の高い分析
Yahoo!はウェブ広告で儲けている 大多数のウェブサイトにとって、広告は収益モデルとして有効だ 純粋な「視聴率」だけで十分なお金をかせげるのは、トラフィックの点で見て上位0.002%のウェブサイトだけだ。トラフィック分布には極端な傾斜があるため、サイト5万のうち4万9999サイトまでは、他のビジネスモデルが必要になるだろう。相当ビッグなら、広告もいい。だが、ほとんどのサイトは中規模から小規模のはずだ。
Wall Street Journalは、ウェブユーザから購読料を取るのに成功している 広告以外にウェブで儲けるとすれば間違いなく購読料だ Journalは、独自のブランド認知を受けているし、提供しているコンテンツも、購読料に見合うだけの定期的なニーズが確実に見込めるタイプのものである。ほとんどのサイトで提供しているコンテンツは、生きていく上で欠かせないものとはいえないし、ウェブでは、そもそもユーザが自由に動き回ることを奨励している。唯一可能性があるとすれば、支払いモデルが購読料ではなく、少額課金の場合である。
Disneyは最も成功したメディア企業だ ウェブデザインにはストーリーが欠かせない ストーリーは、確かにユーザを引き付ける手法としては強力なものである。しかし、ほとんどのストーリー技法は、書籍、映画、テレビといったリニアなメディアを基盤としている。ユーザの体験は完全に作者/監督の支配下にあるのだ。ウェブはノンリニアであり、ユーザは自分の動きを自分で支配し、個別のサイトに出たり入ったりしながら進んでいく。ほとんどのサイトは、一定のストーリーに従ってユーザを誘導するより、ユーザのナビゲーションと自由な発見をサポートする方が重要だ。
The WELLでは結束力が強く、ユーザ同士の交流の頻繁なコミュニティを形成した ユーザのロイアリティと興味を醸成する上ではコミュニティがカギとなる WELLが始まった1985年からオンラインにいる人は、コンピューティング開拓期のごく少数のエリートメンバーと思って間違いない。地理的ロケーション(サンフランシスコ/シリコンバレー)のせいで、なおさらエリート的かつ最先端のメンバーが集まった。世界でもっとも優秀な1%の人たちとぶらぶらしているのは、当然楽しいだろう。しかし、普通のウェブサイトに来るのは普通のユーザだ。また、ユーザ層が幅広く多様になると、極端な参加不平等に見舞われることになる。これはインターネットのあらゆる面を特徴付ける性質である。しゃべっているのはわずかな人たちだけ。しかも、そういう人が興味ある人物であるということはめったにない(グループの全員が全世界のトップ1%に入る人という場合は例外である)。
Amazon.comとBarnes & Nobleの戦いで勝ったのは企業X もし”X”=Amazonだとすれば、実店舗ベースの企業はインターネットのスピードに追いつけなかったということになるもし”X”=B&Nだとすれば、確立されたブランド力と豊富なマーケティング力を持っているかどうかが重要ということになる 実にたくさんの細かい要因が重なり合って、この書店のどちらが勝つか(あるいは第三の書店が出現して勝利を奪うか)が決まるはずだ。記者は、記事をおもしろくするために「最大の要因」を強調するが、実際には、そんなに単純な話ではない。例えば、値引き幅とか、サーバ処理速度、クラッシュの頻度、UIの品質、その業者にリンクしているサードパーティサイトの数といったもの考えられる。Amazonが勝てば、なおさら、その勝利は典型的とはいえなくなる。彼らはインターネットコマース最初の大規模な成功例として、マスコミでいやというほど取り上げられたからだ。この後に続くサクセスストーリーでは、無料のパブリシティは大して期待できないだろう。よって、ブランド認知度向上に資するところも、それほどない。

興味ある実例を無視しろ、といっているのではない。インターネットほど幅の広いものを、純粋抽象的に一般的な観点から論じるのは難しい。トレンドやコンセプトの意味するものを内面化するには、具体性が必要になる。私が言いたいのは、代表的とは言いがたい極端な事例を元にしてウェブ戦略を立案するのはやめた方がいいということに過ぎない。複数のアナリストが何度も繰り返し同じ事例を取り上げるようになったら、警戒した方がいいだろう。その事例は印象的で、興味深く、センセーショナルでさえあるが、離れ小島的な存在で、それ以外のフィールド全体を予測するものではない可能性が極めて高いからだ。

1997年6月1日