評価管理者の台頭

評価管理者(reputation manager)が注目されるようになると予見してからもう何年にもなるが、ようやく現実のものになってきたようだ。

評価管理者とは、品質、信頼性についての評価や、その他の各要素に適した測定方法による結果を追跡調査する独立サービスである。評価対象としては、ウェブサイトや企業、製品、それに人物といったものが代表的である。だが、行動を起こしたり、取引をしたりするに先立って参考にしたくなるようなものなら、理論上は何でも評価の対象になる。

評価尺度は、評価の対象となるものを扱ったことのあるユーザから集められるのが普通だ。各ユーザに、満足できたかどうかを報告してもらうのだ。もっとも単純なケースでは、過去に対象物と関わりをもったことのある全ユーザから評価を集め、この平均を取って評価とする。後述するように、これ以外のシステムも可能だ。

現在の評価管理者

  • eBay(オークションサイト)では、同サイトでモノを売ろうとする人全員を対象とした評価を行っている。オークションを通じて何かコレクターズアイテムを購入したら、もう一度サイトへ戻って、販売者がどれくらい品物を迅速に発送してくれたか、また、届いたものは実際にオークションの際の記述どおりのものであったかを評価することができる。これこそは、もっとも典型的な現在の評価管理者の姿だろう。eBayは、文字通り各売り手の評価を追跡しているのだ。購入予備軍の人たちも安心して見ず知らずの人間を相手に競売ができるだろう。評価結果を見て、それまでの購入者の多くがよい対応を受け、実際のアイテムも文字での説明どおりのものだったということがわかれば、おおむね、売り手は正直で取引相手として申し分ないと断言できるだろう。同様に、売り手は、各購入者に最大限のサービスをするよう動機づけられる。ひどい経験をした顧客がひとりでも現れたら、完璧な評判も台無しだ。悪評が多ければ(さらに否定的な評価が追い討ちをかけるようなら)、その売り手は、完全廃業を余儀なくされるだろう。
  • Epinions(電子的ご意見番)は、新しい評価管理者の中でももっとも興味あるものだろう。ラップトップコンピュータから、ニューヨークの美術館まで--幅広いジャンルの製品やサービスについて、ユーザのフィードバックやレビュー、評価を集めているのだ。何か買いたいものがあるのなら、まずEpinionsへ行って、購入候補となる各モデルについてどんな評価が出ているかチェックすればいい。同じメーカーの別モデルについて、その評価をチェックすることもできる。本当に広告で言っているとおりの働きをするのか、あるいは、しばらく使ってみて問題は発生しなかったかといったこともチェックできる。Eコマースをもてはやす声は多いが、今日、実際にウェブ上で買い物をするのはとてもやっかいだ。誰を信用していいかわからないからだ。その製品がどれほど優れているか、どれくらいニーズにぴったりか、と言うような話も、その製品を売っている人間の口から出たものであるなら、その価値はほとんどゼロに近い。顧客に対してよい製品を推薦したり、だめなものには近寄らないよう警告を発したりする独立のサービスがあるということは、Eコマースを可能にする要素のうちでもっとも重要なもののひとつになるだろう。
  • Google(サーチエンジン)では、ウェブ上のあらゆるサイトについて評価ポイントをつけている。このデータを利用して、クオリティのもっとも高いサイトが検索結果リストの上の方に来るよう並べ替えているのだ。Googleでは、ウェブサイトの品質を測定するにあたって、そのサイトが他のサイトからどれくらいリンクされているか、その数を参考にしている(重要なサイトからのリンクは重く、マイナーなサイトからのリンクは軽くといった重み付けを加味するために、難しい計算もやっている)。
  • Go(以前はInfoseekの名前で知られていたサーチエンジン)では、いわゆるGuideという呼び名で、サービスに人手を加えている。特定分野の専門家に依頼して、その分野に関するサイトについての評価とコメントをGoに提供してもらうのだ。これらのコメントが集まって、サイトの評価が決まる。だが、さらにおもしろいのは、Guide自身、こういった活動に対して、そのクオリティと価値を評価され、その評価尺度によってランクを上がっていくという仕組みになっているところだ。さらに上級の(評価の高い)Guideになると、サービスの幅広い分野について責任を持ち、下位のGuideたちに対してある種の管理責任を負うことになる。
  • Slashdot(会議室)では、会議室での様々な発言に対して、その有用度をユーザが評価できるようになっている。一連の発言を読む際には、オプションを設定して評価の高い上位N番までの投稿だけを表示するということができる。こうすれば、体感上のS/N比をかなり向上させることができる。残念ながら、評価の低いコメントをフィルタして表示しなくする設定は、デフォルトではオンになっていない。このため、いささか複雑なユーザインターフェイスをよく調べて回った熱心なユーザだけが、この恩恵にあずかれる。Slashdotではレギュラーユーザに対して「karma」ポイントを与えているが、これはまさに評価管理そのものだ。過去によい行いをすると高いkarmaが与えられ、その人の行動には、その分、重みがつくのだ。
  • Third Voiceは、どんなウェブページに対してでも、その上に重ねた透明な層の上にユーザがコメントを記入でき、同じサービスを利用する他のユーザにそのコメントを見せることができると言う注釈サービスである。これらの注釈はThird Voiceのサーバからダイレクトに発信されるので、ウェブサイトオーナーの制御が及ばない。これらの注釈が集まれば、そのサイトについての一種の評価となる。確かに、何の疑いを持たずに来たビジターに対して、見掛け倒しの製品や、ウソの広告、まぎらわしい広告について警告を発するためにこれは利用できる。注釈は自然言語で書かれたテキストだから、ベストなサイトを見つけたり、何らかの計算処理の対象とするにはあまり役に立たない。

評価管理の問題点

ランダム抽出した人からフィードバックを集めると、その結果もまたランダムなものになる可能性がある。Third Voiceは、Usenetで昔からよくあったフレーム問題と同時に、チャットルームの情報の質的低さにも悩まされている。コメントを投稿した人が、自分の語っている内容についてほんとうに理解しているかどうかわからない。ひょっとすると、ごろつきがウサ晴らしに書いたたわごとを読まされて時間を無駄にしているだけかもしれない。

Amazon.comは、顧客によるレビューというアイデアの開拓者だ。だが、レビューの信頼性が低いという苦情も出ている(著者のライバルが否定的なレビューを山のように投稿したかと思うと、著者の友人たちがベタ誉めのレビューを投稿するといった具合である)。同様に、その製品を販売して利益を上げているサイトの一部として掲載されたレビューを信じていいかどうかは、ユーザには絶対わからない。

GoogleとeBayでは、大量のサンプルから評価を集めることで、これらの問題を回避している。ユーザを対象となるサイトに誘導したいと本気で思わない限り、ウェブ制作者はわざわざリンクを設けたりしないという事実を、Googleはうまく利用している。たとえ見せかけのリンクがあったとしても、数10億のページから数10億のリンクを集めて統計を取れば、その影響は消えてしまう。eBayでは、販売者から実際に何かモノを買ったことのある人だけに限って評価ランキングを集めることで、ランダムなユーザからのコメントを排除している。

Epinionsは、二重の意味で評価管理者といえる。単に製品やサービスを評価するだけでなく、レビューする人も評価しているのだ。ユーザは、レビューを読んだ後、そのレビューが役に立ったかどうか投票するように薦められれる。ユーザにレビューの一覧を表示する際に、Epinioinsは、もっとも評価の高かったレビューを一番上に持ってくる。こうすれば、読者は確実に最良のコンテンツに注意を集中できるだろう。同様にレビューする人の地位は、彼らの書いたすべてのレビューについてユーザから得られたフィードバックで左右される。

評価管理者の未来

私は、評価管理者が、ウェブの成功にとって核心になるものと考えている。サイトやコンテンツ、それにオンラインで提供されるサービスの数が増えるにつれて、ユーザにとって、どれが信頼でき役に立つものか知る方法が必要になる。

ショップボットは価格のことばかりに集中しているので、顧客サービスについては何もわからないという苦情があるが、評価管理者なら、これを乗り越えることができる。独立系の評価データを加味できるようになれば、ショップボットは、それをユーザに提示することができるのだ。

  • 何が買えるのか
  • どこで売っているのか
  • 各オプションはいくらするのか
  • 各オプションはどれほどよいのか
  • 各ベンダーからは、どのくらいのレベルの顧客サービスを得られるのか(例えば、納品までの平均日数とか、無傷で輸送できているかどうかとか、返品にもきちんと対応できるかどうか、など)

評価管理者は、良質な顧客サービスの再興を促すだろう。顧客ひとりひとりに対して、その企業がどういう対応をしたか。これらが直接、評価ランキングにフィードバックされ、将来の売上に影響を与える。

「ブランド品質」や「評判」といったコンセプトは何とも手ごたえのないものだが、投資家にとっても、ようやく手がかりができるようになるだろう。評価管理者のところへいって、その企業と、そこが提供するサービスを顧客がどれくらい高く評価しているか見てみればいいのだ。その企業がなにかまずいことをやれば、その評価統計は急激に低下するだろう。そうなれば、すぐに株式評価額にも深刻な影響が出る。ソフトドリンクを飲んで病気になったベルギー人が数人出ただけで、5分後には、ウォールストリートで、その製造業者は何10億ドルもの損をすることになる。評価管理者がいれば、製品のクオリティと顧客サービスが大幅に向上するというのには、こういうわけもあるのだ。

打ち明けておこう。私はEpinionsとGoogleの顧問を務めている。

1999年9月5日