iPadとKindleでの読むスピード

タブレット上の長いテキストの読まれ方について調査したところ、人々の読むスピードというのは以前よりも速くなっている。しかし、そのスピードも印刷物を読むときのものよりはまだ遅い。

たくさんの企業が、将来、電子ブックリーダーが人々が長いテキストを読むときの主な方法の1つになるに違いないと考えている。しかしながら、こうした製品が成功するのは、それによる読書のエクスペリエンスが、PCのモニター上で読むときの悲惨さから格段に改善されている場合に限られる。

タブレットの中には画面の解像度が高く、より楽な姿勢で読めるため、(読書のエクスペリエンスについて)デスクトップコンピューターよりも優れていると思われるタイプもいろいろとある。では、タブレットは紙の本と同じくらい本当に優れているのだろうか。

それを調べるため、最も話題になっている2台のタブレット、AppleのiPad (第1世代)とAmazonのKindle 2上で人々に小説を読んでもらう、読みやすさについての調査を実施した。

以前実施したiPadのアプリケーションのユーザビリティについての調査とは異なり、ユーザーインタフェースの領域については調べなかった。代わりに、デフォルトになっているiBookアプリについてのみテストをした。テストしたiPadリーダーは1つだけだったので、ユーザーインタフェースが1つしかないKindleとの比較は容易に行うことができた。

また、以前実施したKindleのコンテンツのユーザビリティについての分析とは異なり、ウェブページや新聞のようなノンリニアなコンテンツについては検討しなかった。代わりに、リニアで物語的なコンテンツについて集中して調べた。なぜならば、それが電子ブックリーダーの主要なユースケースだからである。

最後になるが、リーディング用ソフトウェアの選択やインストールに関わる様々な論点についてはテストしなかった。また、UIの学習しやすさについても全くテストを行っていない。参加者の読むスピードの計測を開始する前、彼らにはリーダーの使い方を教えた。

調査方法

我々が行ったのは被験者内調査で、4つの読書条件、つまり、紙の本、PC、iPad、Kindleに関して、それぞれのユーザーでテストした。ユーザーが各デバイスを経験する順番は入れ替えた。

ユーザビリティの調査では被験者間調査を利用した方が有効な場合も多い。そこではあるシステムから違うシステムへ学習の転移が起こらないよう、各人には条件の異なるものをテストしてもらう。しかし、読書についてのこの調査では、最初の学習しやすさについてはテストしないし、テスト対象となる中心的なスキル、すなわち、読書というものに対して、ユーザーが予めかなり熟練していることはわかっていた。被験者内テストの大きなメリットの1つはテスト参加者間の個人差の影響を最小限にできることである。

各ユーザーにはそれぞれのデバイスを使って、アーネスト・ヘミングウェイの短編を読むように依頼した。ヘミングウェイを選んだのは、彼の作品は楽しく、読みたくなるようなものであるが、ユーザーが理解できないほど、複雑すぎることもないからである。

平均すると、ストーリーを読むのにかかった時間は17分20秒だった。これが人々が小説や大学の教科書を1冊読むのにかかるであろう時間より短いことは明らかである。しかし、ウェブ閲覧時の特徴となっている唐突な読み方に比べるとはるかに長い時間がかかっている。17分以上、読んでもらうよう依頼すれば、ユーザーはそのストーリーに十分没頭することができるというわけである。また、白書や報告書のような、他の多くの興味深いジャンルでも同じことが言えるだろう。

ユーザーが各々のストーリーを読み終えたところで、そのストーリーについての理解をテストするため、彼らには簡単なアンケートを渡した。テスト参加者達は使用したデバイスにかかわらず、すべての質問についてほぼ正しく回答した。したがって、我々はこのデータについては、ここでこれ以上分析しない。試験の主な目的は読むというそのタスクに対して、人々に間違いなく真剣に携わってもらうことにあり、そのため、彼らにはテストされることが予め知らされていた。

参加者に思考発話することは求めなかったので、複数のユーザーを同時にテストする方法 (MUST) を利用し、何人かのユーザーを一度にテストすることができた。彼らにはただおとなしく座って読んでもらい、たいていの人が読書の時に家でやっているように取り組んでもらった。タブレットを使用しての典型的な読書エクスペリエンスを模すために、快適でゆったりとした椅子を我々は用意した。(また、ユーザーにはPCモニターから読むというテストもしてもらったが、テスト会場には一般的なオフィスのように、机の上にコンピューターを置き、ユーザーにはオフィス用の椅子に座ってもらえるようにした)。

ユーザー

テストでは全部で32人のユーザーを調べたが、そのうちの5人にはパイロットテストを2、3ラウンド受けてもらい、27人にメインの調査をテストしてもらった。残念なことに、測定上の不備から3人のユーザーの量的データを放棄せざるをえなかったので、読むスピードについての我々の統計データは残りの24人のユーザーがベースになっている。

リクルートした参加者は読書が好きで、本をよく読むという人である。全人口と比較すると、これがバイアスのかかったサンプルであることは明らかだが、ターゲットを絞ることは電子リーダーの調査においては理にかなっていると我々は考えた。

各セッションでは最初にREALM読み書き能力試験を実施し、調査参加者のリーディングスキルの評価を簡単に行った。(このテストは難易度の異なる単語を読ませて、いくつ発音が間違ったかをベースにして点数をつけるものである。我々の調査ではほとんどのユーザーはそのすべての単語で正答した。2人が1単語ずつ間違えたが、彼らも少なくとも高校以上の識字レベルにあるとはいえる)。

この調査では識字レベルの低いユーザーを意図的に入れることはしなかった。繰り返しになるが、タブレット上で長いテキストを実際に読みそうな人を重点的に調べたかったからである。

結果:本はタブレットよりも速い

iPadでの読むスピードは紙の本よりも6.2%遅かったが、Kindleでは紙に対して10.7%遅くなった。しかしながら、この2つのデバイスでの差に統計的な有意差はなかった。データにかなりばらつきがあったからである。

したがって、唯一、適切な結論として言えるのは、どのデバイスを使えば読むスピードが一番速くなるかは断言できないということである。いずれにしろ、その差異は非常に小さいので、他のものではなくて、あるどれかを買った方がいいということにはならないだろう。

しかし、タブレットがまだ紙の本には勝てないということは言える。Kindleと本の違いにはp<.01 レベルで有意差があり、iPadと本の違いにもp=.06とぎりぎりではあるが有意差が認められた。

ユーザーの満足度: 好かれたiPad、嫌われたPC

各デバイスの使用後、ユーザーには7が最高の7段階尺度で満足度をつけてもらった。

iPadとKindle、紙の本はいずれもかなり高いスコアとなり、それぞれ、そのスコアは5.8、5.7、5.6だった。しかしながら、PCのスコアは3.6とひどかった。

ユーザーのフリーコメントの大半も予想通りであった。例えば、iPadがとても重いことや、Kindleの特徴になっている、灰色の上に灰色で重ねられたはっきりしない文字は不評だった。また、きちんとしたページネーションがないことも嫌われていたが、iPadの(実際にはiBookアプリの)章の中でまだ読んでいないテキストの残量が表示されるというやり方は好評だった。

あまり予想していなかったコメントとしては、電子デバイスを利用するよりも紙の本を読む方がよりリラックスできるように思う、というものがあった。さらに、PCでの読書は落ち着かない。仕事を思い出すから、というのもあった。

この調査から言えるのは、電子リーダーとタブレットコンピューターの未来はとても明るいだろうということである。iPhone 4が最近、326dpiのディスプレイ付きで発売されたように、将来的には画面の質はもっと上がると思われる。しかし、現行世代ですら、正式な性能測定基準の値は既に印刷物とはほぼ変わらない。その上、ユーザーの満足度は印刷物をわずかではあるが実際、上回っているからである。