モバイルサイト vs. フルサイト

モバイルの良質なユーザーエクスペリエンス(UX)に必要なデザインは、デスクトップユーザーを満足させるために必要なものとは異なる。2種類のデザインをして、サイトを2個にし、相互リンクすることによって、すべてはうまくいく。

数百のサイトについてのユーザビリティテストから判断すると、モバイルに最適化したウェブサイト向けの主なガイドラインは明らかである:

  • 余裕があれば、モバイルに最適化したサイト(あるいはモバイルサイトを別個に構築しよう。モバイルデバイスを利用してサイトにアクセスするとき、ユーザビリティの測定結果はフルサイトのものよりもモバイルサイトのほうがずっと高い。
  • モバイルのユーザーがあなた方のフルサイトURLにたどり着いたなら、モバイルのほうのサイトに自動リダイレクトしよう。残念ながら検索エンジンの多くは、モバイルユーザーに向けにモバイルサイトを上位に持ってくることをいまだにしないので、モバイルサイトの代わりにフルサイトに(誤って)導かれてしまうことは多い。モバイルサイトが提供するユーザーエクスペリエンスのほうがずっと優れているのに。
  • リダイレクトされるにもかかわらず、最終的にフルサイトに来てしまったユーザー向けには、フルサイトからモバイルサイトに行けるリンクをわかりやすく提供しよう。
  • フルサイトだけにしかない特別な機能を必要とするような(数少ない)ユーザー向けには、モバイルサイトからフルサイトに行けるリンクをわかりやすく提供しよう。

我々は(iPhoneやAndroid、Windows Phone、BlackBerryを含む)今、人気のプラットフォームすべてで何百ものモバイルサイトとフルサイトをテストしてきた。モバイルサイトとフルサイトに関する調査結果は携帯電話の種類が変わっても同じだった。したがって、今回は特定のデバイスについての話はしないことにする。

(Apple iPadやLenovo IdeaPad、Samsung Galaxy等に見られるような10インチのフォームファクターである)大型タブレット向けのガイドラインは異なるものである。そこではフルサイトがまぁまぁ機能するからだ。小型タブレット(Amazon Kindle Fireに見られるような7インチのフォームファクター)向けには、中型サイズのデバイスに最適化した第三のデザインを創り出すのが理想だろう。とはいえ、ほとんどの企業はモバイルサイトをKindle Fire ユーザーに提供することでなんとかなるが。

モバイルに最適化したサイト

モバイルウェブサイト向けのデザインガイドラインを網羅するには300ページ近くが必要だったので、ここですべてをカバーすることは不可能だ。しかし、基本的な考え方は以下のようなものである:

  • モバイルのユースケースにとって中心的ではないものを取り除くために、機能をカットし、
  • 文字数を減らし、補助的なページに二次的な情報を先送りするために、コンテンツをカットし、
  • 「ファットフィンガー」問題に対応するために、インタフェース要素を大きくする

ユーザーの製品選択を制限することなく、機能と文字数を削減するのがここでの課題だ。モバイルサイトでは製品各々や、ユーザーがそうした製品で何ができるかについての情報は減らすべきである。しかし、製品アイテムのラインナップはフルサイトと同じだけ残す必要がある。ユーザーは製品がモバイルサイトで見つけられないと、その会社はその製品を売ってないと思って、どこかよそに行ってしまうからである。

したがって、例えば、モバイルの不動産サイトでは地域で販売中の家をすべて見せるべきであって、買いたいと思う人が多そうな家だけを見せるべきではない。(ユーザーがワンタッチで見ることができるように、ショートカットとして人気の物件を短いリストで見せることは可能だろうが)。しかし、モバイルサイトでは物件の過去の販売履歴のようなごく一部の人にしか興味を持たれない機能は削除してよい。そして、こうした機能が必要なユーザーには、デスクトップのフルサイト上にあるその情報へのリンクを提供しよう。

フルサイトがモバイルでの利用で機能しない理由

現在、よく聞く反論は次のようなものである。自分の携帯電話でできるべきだという、モバイルユーザーの期待はどんどん高くなっていっているので、コンテンツや機能の削減によってがっかりする人が必ずいる。したがって、(欠点のある)この意見を進めると、モバイルユーザーを含むすべての人に対して、フルサイトを提供するほうがいいということになる。

この分析には欠点がある。選べるのが機能を全部持っているフルサイトか、機能を減らしたモバイルサイトのどちらかだけになっているように思われるからだ。しかしながら、ユーザビリティガイドラインを遵守したモバイルサイトであれば、機能やコンテンツがないのがどこであっても、フルサイトへのリンクが提供されることになるため、ユーザーは必要なときには何にでもアクセスが可能である。

モバイルサイトでほとんどすべてのモバイルユーザーのニーズを満たすように、モバイルとフルサイトの間でどこをカットするかがデザインの課題になる。この目標が達成されれば、フルサイトへのリンクをたどるという余分なインタラクションの負担はほとんど生じなくなるだろう。

確かに、誰のモバイルニーズも満たせないだろうという、性能不足でデザインの稚拙なサイトを我々が見たのも事実である。しかし、ガイドラインを誤解したひどいデザインだからといって、大事なものまで捨ててしまって、十分に裏付けのあるガイドライン自身まで無視する理由にはならない。(実際、悲惨なユーザーインタフェースが、デザインというカテゴリー全体を否定する理由になるなら、我々はウェブというものをまるで使えなくなるだろう。というのも、ほとんど使いものにならないウェブサイトいうのはそこら中にあるからである。しかし、だからといって、出来の悪いサイトが違反しているガイドラインを遵守しても、良質なサイトをデザインすることができない、というわけではない)。

正しい分析は以下のようになる:

  • 圧倒的大多数のタスクでは、モバイルユーザーが圧倒的に優れたユーザーエクスペリエンスを得ることになるのは、フルサイトからよりデザインの良質なモバイルサイトからのほうだろう。
  • ごく少数のタスクでは、モバイルユーザーはフルサイトに行くために余分なクリックをすることによって、少し遅延させられることになるだろう。

ここから得られる大きな利益は、めったに被ることのない小さな不利益を楽に上回ることが多いだろう。

モバイルサイトというオプションについての2つめの反論は、単にウェブサイト全体を最初からモバイルに最適化すればいいのではないかというものである。そうすれば、モバイルユーザーに「フル」サイトを見せることによるトラブルは起きなくなるだろう。それは間違ってないが、この分析では大きな画面と優れた入力デバイスにとっては次善でしかないデザインを与えられたときの(マウス vs. 指についての補足記事を参照)、デスクトップユーザーに課される不利益は無視されている。もしデスクトップユーザーの数がごく少なければこの意見は容認できるかもしれないが、ほとんどすべてのウェブサイトではデスクトップユーザーからのトラフィックは(そしてビジネスの規模はさらに)モバイルユーザーからのものをはるかに上回っている。したがって、モバイルユーザーのために本当に役に立ちたいなら、デスクトップユーザーを軽んじてはならない。つまるところ、我々の給料の大半を支払ってくれているのはデスクトップユーザーだからである。

基本的な要点は何か。デスクトップのユーザーインタフェースプラットフォームはモバイルのユーザーインタフェースプラットフォームとは多くの点で異なっている。そこにはインタラクションのテクニックや読まれ方、利用の状況、一見して把握可能なアイテム数が含まれる。この不均衡さは双方に当てはまるものである。モバイルユーザーに必要なデザインはデスクトップユーザーに必要なものとは異なるが、デスクトップユーザーに必要なデザインもモバイルユーザーに必要なものと同じくらい異なっているからである。