高齢者のユーザビリティ:課題と変化

65歳以上のユーザーは、Webサイトやアプリを利用する際に固有の課題に直面する。このユーザー層のデジタルリテラシーは向上しているが、デザインは高齢のユーザーに対応したものにする必要がある。

多くの裕福な国で、最も急速に増加している年齢層が65歳以上だ。グローバルに見ても、人は長生きするようになり、年を取っても元気でいられるようになった。Pew Research Instituteが実施した調査によると、2019年には65歳以上の人の73%がインターネットに接続していた(訳注:総務省の令和元年版情報通信白書によると、2018年の個人のインターネット利用率は、60~69歳で76.6%、70~79歳で51.0%)。そして、米国国勢調査局は、あらゆる年齢層の中で65歳以上の人が最も多く世帯資産を持っていると報告している。

にもかかわらず、デジタル製品は、この成長中の裕福な年齢層の期待を裏切っていることが多い。また、Don Normanが指摘するように、物理的な製品にもデジタル製品にも不適切なデザインがあふれている。現在のインタラクションデザインは、多くの場合、読みにくいテキストや小さなターゲット、びっくりさせるような音などを採用していて、オンラインの世界を年配のユーザーには使いにくいものにしているからである。

そこで、我々は最近、調査を実施し、高齢者がテクノロジーをどのように利用しているかを調べ、デジタル製品をどのように改善すると彼らのニーズに合うのかという提言をまとめた。

調査プログラム

これまで3回のユーザー調査を実施しており、合計123人の65歳以上の人が参加者となっている。これらの調査は、約20年にわたり、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ドイツ、日本で実施された。(高齢者を対象とした初期のユーザー調査の結果の要約も参照のこと)。

  • 2001年:44人の高齢者による17のWebサイトのユーザビリティテスト
  • 2013年:31人の高齢者による29のWebサイトのユーザビリティテスト
  • 2018~19年:
    • 18人の高齢者による12のWebサイトと6つのアプリのユーザビリティテスト
    • 合計20人の参加者による、テクノロジーに対する高齢者の態度を知るためのフォーカスグループ
    • 高齢者センターでのテクノロジーヘルプセッション中に10人の高齢者がWebサイトやモバイルアプリ、タブレットアプリとやり取りするところを観察したコンテキストインタビュー

定性的な調査セッションでは、以下のようなさまざまなジャンルのサイトやアプリを利用した:

  • eコマース(Amazon、Target、Whole Foods、Home Depot、Instacart、Maytag)
  • 健康(WebMD、Mayo Clinic、米疾病対策センター、rxlist.com)
  • 銀行(Chase、Charles Schwab)
  • 政府機関(米国立衛生研究所、Medicare.gov、カナダ政府)
  • 観光と旅行(米国立公園局、Airbnb、ユナイテッド航空)
  • メディアとエンターテイメント(Spotify、Apple Podcasts)
  • ニュース(NPR、Washington Post、Globe and Mail、カナダ放送協会)
  • ソーシャルメディア(Facebook、Twitter)

「高齢者」の定義

我々が利用する定義はシンプルである。つまり、「高齢者」とは65歳以上のユーザー、というものだ。年齢の上限は設けなかったが、調査参加者の最高齢は89歳だった。

もちろん、この年齢層は単純化したものである。人は65回目の誕生日にすべての行動を変えるわけではないからだ。人間の老化は20歳になると始まる。すなわち、40代の人の視力は目の良い20代のデザイナーよりはいくぶん大きなフォントサイズが必要になるくらいにはすでに悪くなっている。

中年のユーザーをテストしてわかったのは、25歳から60歳までの間に人々のWebサイトを利用する能力は、毎年0.8%ずつ低下していくということである。

したがって、人間の老化がユーザビリティに与える影響は、65歳よりずっと前から考慮する必要がある。一方で、「高齢者」というには、65歳は若すぎる場合もある。我々が長生きするようになったため、多くの国では、人々はもっと年を取るまで引退しないからだ。そこで、最新の調査では、参加者として主に70歳以上の人をリクルートした。

経時的な変化

18年前に高齢者についてのユーザビリティ調査を初めて実施した頃とは、デジタル環境も高齢者の特徴も変化した。(一般的な先入観として、高齢者は変わるのに時間がかかるのではないか、と思うかもしれない。しかし、2013年の高齢者についての継続ユーザー調査のときとは、調査の結果も大きく変わった)。高齢者のインターネットやアプリの利用スキルは向上している。デジタル製品に対する彼らの期待は進化した。そして、彼らがインターネットにアクセスするためのデバイスも変わった。

変化する高齢者グループ

ベビーブーマー世代は現在定年を迎えている。1946年から1964年の間に生まれたこの世代は、過去の高齢者世代よりも情報技術についての経験が豊富である可能性が極めて高い。かつて我々が調査のためにリクルートした高齢者の中に、仕事中にコンピュータを利用していた人はほとんどいなかった。しかし、最新の調査では、多くの高齢者が退職前に何年もの間、職場でコンピュータとインターネットを利用している。全ユーザーでみる技術的習熟度というのはかなり低いわけだが、高齢者のデジタルリテラシーは向上している。このようにデジタルリテラシーがレベルアップしたことで、現在の高齢者は、過去の調査で調査した同世代とは非常に異なる行動パターンを示すようになったのである。

2001年に高齢者を対象にした調査をおこなった際には、オンラインでの自分の行動に不安とためらいを感じている参加者が多かった。しかし、今の高齢者はより自信をもっており、自分の行動をうまくオンラインに適合させ、イライラする広告時間を浪費させるアプリ、個人情報を収集しすぎるサービスといった、よくある問題を回避できるようになっている。高齢者のデジタルリテラシーの向上を反映した行動の変化には以下のようなものがある:

  • 「ポップアップ広告」と「特に音声の出る広告」が出ないようにするために、自分のコンピュータに広告ブロッカーをインストールする
  • スポンサー付き検索結果や広告をスキップするように検索パターンを修正する
    「そうしたものが出ないようにすることができるようになりました。でも、できるようになるまでには少し時間がかかりました」とある高齢者は述べた。
  • 時間を浪費させるアプリをアンインストールする。
    85歳の調査参加者は、「時間の無駄なので…それで多くの時間が無駄になりますから」という理由で、自分のスマホからほとんどのゲームをアンインストールしたと言った。
  • 個人情報を収集しすぎるサービスのアカウントを削除する

新しいテクノロジーが高齢者のオンラインでの生活を変える

1回目と2回目の調査では、デスクトップWebサイトのみを利用してセッションを実施した。最新の調査では、デスクトップやタブレット、携帯電話で、Webやデバイス専用アプリを利用して完了させるタスクを参加者に与えた。ソーシャルメディアは、オンラインでの生活においてますます重要な部分になってきている。そこで、高齢者がさまざまなソーシャルメディアをどのように利用しているかについても調査した。

以下は、調査参加者がコンピュータテクノロジーを利用する理由である:

高齢者がインターネットを利用する理由

調査に参加した高齢者は、インターネットを利用して、興味のあることを追求し、時事問題をフォローし、お金を管理し、買い物をし、話題について検索し、友人や家族と連絡を取り合っていた。より良い生活を送るのにいかにインターネットが助けになっているかということについて、多くの人が肯定的なコメントをしていた。87歳の調査参加者は、「インターネットを使っていると、自分が非常に自立しているように感じます」と言った。

  • 「インターネットを利用して、地元と全国のニュースをフォローしています」。
  • 「旅行やボランティア、映画祭など、興味のある事柄についてのポッドキャストを探します」。
  • 「請求書はすべてオンラインで支払っています。すべてこれでできます」。
  • 「時々食料品をオンラインで注文しています。品物はいつも店に受け取りに行っているのですが、配達してもらおうかと考えているところです」。
  • 「Webは1人でいながら他の人との結びつきを感じられるのが好きです。1人でいるのにソーシャライト(:社交界の花形)になれますから」。

高齢者がスマートフォンを利用する理由

スマートフォンが高齢者の間で急速に普及している。2011年から2016年にかけて、65歳以上の人々のスマートフォン所有率は4倍になった。調査に参加者した高齢者は、自分のスマホを利用して、イベントを管理し、情報を検索し、趣味を楽しみ、家族とのつながりを保っていた。

  • 「スマホは私にとっては、カレンダーでもあり、手帳でもあります。私はここでたくさんのイベントを管理しています」。
  • 「スマホにガーデニングアプリを入れています。庭で植物の写真を撮ると、そのアプリで植物が何であるかがわかります」。
  • 「行ってみたい新しいレストランを見つけるのが好きです」。
  • 「イタリアでの休暇を全部自分のスマホで計画しました!」。
  • 「どこか新しい場所に行く場合は、Googleマップを利用して道順を検索します」。

高齢者がソーシャルメディアを利用する方法

高齢者は友人や家族と連絡を取り合うために主にソーシャルメディアを利用している。我々が観察した高齢者のほとんどは、自分のアカウントを通してソーシャルメディアを閲覧することを好み、コンテンツを共有することはほとんどなかった。興味深く、見た目が魅力的で非常にアクセスしやすいコンテンツが、この年齢層からはオンラインで最もよく共有されていた。

  • 「私の家族は国内のあちこちに住んでいますが、全員、Facebookをやっているので、Facebookを使って連絡を取り合っています」。
  • 「(スマホを使って)子どもたちと一緒にログインします。彼らがInstagramをやっているので、私もやっています」。
  • 「訪れた場所の写真をInstagramに時々投稿しています」。
  • 「Facebookでは常に私のための記事が表示されています。Facebookを利用してさまざまなニュースソースをフォローしています」。

高齢者のユーザビリティの課題

年を取るにつれて健康は損なわれる。聴覚、視力、手先の器用さが加齢とともに低下するからだ。しかし、多くのデジタル製品は、こうした変化するニーズを考慮に入れていない。すなわち、インタフェースには、小さなテキストや不十分な色のコントラスト、非常に小さなターゲットが使われている。アクセスしにくいデザインの採用はすべての年齢のユーザーを不快にさせる。小さな文字は、10代のユーザーの間でも問題の原因となり、苦情を生じさせるということを我々は最近の調査で確認している。若いユーザーをいら立たせるようなデザインをすると、年配のユーザーがアクセスするには大きな障壁となるだろう。

小さいフォントサイズと小さいターゲット

若者によって若者のためにデザインされたサイトやアプリは、多くの場合、年配のユーザーにはアクセスしにくい。ある調査参加者が述べたように、「インターネットは視力の悪い人には不親切」である。読みやすさは、我々の長年にわたる調査でずっと高齢者にとっての課題となっている。Webサイトやアプリは一般に字が細かい。また、ボタンやドロップダウン、リンクなどのインタラクティブな要素は、小さなサイズで表示されがちで、年配のユーザーにはクリックやタップがしづらい。高齢者は、モバイルではアプリケーションが便利であることに気づいてはいた。しかし、モバイルデバイスでは読みやすさが大きな課題となっていた。モバイルアプリのインタフェーステキストは、高齢者が快適に読むには小さすぎるし、色も薄すぎることがよくあるからだ。

柔軟性のない厳格なインタフェース

Webサイトやアプリのインタフェースは、多くの場合、柔軟性がなく、エラーを容認しない。多くのサイトやアプリはユーザー入力の形式を1種類しか受け入れないので、このようにインタラクションの種類が限られていることに高齢者は不満を感じていた。ある高齢者は細心の注意が求められる日時セレクターをiPadで操作しながら言った。「これはとてもイライラしますね! なぜ彼ら(アプリデザイナー)は単に時間を入力したり、言ったりするだけで済むようにしてくれないのでしょうか」。

年配のユーザーは若いユーザーよりミスをする。調査参加者はエラーをすると、「タイプミスをしてしまいました」とか「綴りを間違えさえしなければよかったのですが」といったコメントをすることが多かった。(ユーザーは自分自身を責める、というのは、ユーザビリティ調査における古典的な発見だが、その責任は実際の人間の行動様式にしっかり対応できない不適切なデザインにあると見なすのが正しい)。調査では、高齢者は検索キーワードのシンプルなタイプミスで挫折したり、電話やクレジットカードの番号にハイフンや括弧を入力してしまって叱られることがよくあった。

その上、高齢者はエラーメッセージの読解に苦労することも多い。言葉遣いが不明瞭あるいは不正確だったり、メッセージ自体が他のたくさんのデザイン要素と一緒に画面に配置されていて見落としやすかったりするからである。高齢者がエラーに対処することがありうる場合には、通常以上にシンプルさが重要である。つまり、エラーに焦点を合わせて、明確な説明をし、可能な限り容易に解決できるようにしよう。

オンラインコンテンツからの排除

高齢者は、Webサイトやアプリが自分のニーズや興味を考慮してデザインされていないときちんとわかっていることが多かった。オンラインの世界は「私とはまったく違う誰かを念頭に置いて」作られているので「仲間はずれにされている」ように感じる、とある高齢者は言った。以下のように述べた高齢者もいた:

インターネット上にあるものを見ると、私のような人向けではないですね。若い人向けの内容で、インターネットは彼らのための媒体です。私の年齢の人はインターネットとともに成長したのではないし、その担い手でもありません。オンラインではカッコいいことを目指さなければいけないようですが、年寄りはカッコいいわけでもないですし。

最近、おこなった調査によると、デジタル製品はいまだに高齢者を不公平に扱っている。高齢者のために高齢者によって書かれたコンテンツを見つけるのは難しい。また、そうしたコンテンツが見つけられたとしても、高齢者は、成長中の多様なユーザー層ではなく、ニッチな利益団体として扱われていることが多い。アクセスしやすいデザインと包括的なコンテンツ戦略の両方を採用することで、オンラインビジネスは、このグループから生み出される取引の量を大幅に拡大することが可能だろう。

調査のフルレポート

高齢者(65歳以上のユーザー)をターゲットにした87のデザインガイドラインを含むユーザビリティレポート全文(英語)がダウンロード可能である。