ほんとに使える「ユーザビリティ」

より良いデザインへのシンプルなアプローチ

エリック・ライス著『ほんとに使える「ユーザビリティ」』(2013年)を紹介します。著者がこれまでに感じた製品・サービスでのユーザビリティの気づきがまとめてあり、ユーザビリティの入門者と、一度は取り組んだものの、やめてしまった人に向けて書かれています。

  • U-Site編集部
  • 2015年7月8日

エリック・ライス著『ほんとに使える「ユーザビリティ」』
エリック・ライス著『ほんとに使える「ユーザビリティ」』

入門書という側面もありながら、かつてはきちんとユーザビリティを考えていた開発者が読むと、もういちどユーザビリティをきちんと検討しなおさないといけないという原点に戻れる書籍です。

ユーザビリティ自体、すべてをきれいに体系化できるものではないことは、本サイトの読者であれば理解していることでしょう。ものづくりにおけるユーザビリティを重視した考え方は、成熟した分野の製品こそより強化して組織内の師弟関係で受け継がれていきますが、最近はさまざまな組織的な理由でものづくりに反映しにくくなっています。それは、開発スケジュールであったり予算の枠組みであったりするわけです。また、昨今のネット対応の流れで、成熟した分野の製品も未成熟ジャンルの製品になってしまい、ユーザーの認識からやり直す必要があり、ユーザビリティどころの話ではなかったということもあります。

本書は、著者がこれまで感じてきたあらゆる製品・サービスでのユーザビリティの気づきがまとめてあります。課題部分を課題としてきちんと認識するポイントが記載されているので、これからユーザビリティと向き合っていこうと考えている方々には、ユーザビリティの着目点を体験できる本となるでしょう。また、かつてはユーザビリティを実践していた方は、ユーザビリティの重要性を改めて実感できます。

とはいえ、本書では着目する視点はあっても、それを解決する解決法までふれている事例はあまりありません。このため、初心者は解決法の糸口が見つからずに逆にとっつきにくいもしれません。しかし、ユーザビリティをないがしろにすると、それは製品としておかしいくて売れないものになるんだよねという現実を再認識できます。

ユーザビリティへの視点は、自らがユーザビリティを意識してものを利用する以外には気がつかないので、本書を読んで事例が整理できれば、著者が体験したことを仮想体験できます。そういった側面では、後輩や部下の指導にあたる方々へは、本書をチーム内で読破したうえで、本書で課題として上げてあるユーザビリティの改善をどうするかという議論をチーム内で繰り返すことで、ユーザビリティを高める視点を身につける機会が作れることでしょう。さらに、章単位で参考文献の紹介もあるので、特定テーマをさらに掘り下げて知りたいときには、参考文献を追っていくともっと知りたい分野の知識も深まります。

もうひとつ、とても教科書的な作りですが、主要な章の最後には、章のまとめとして著者がまとめた課題が10個あります。勉強会のような場で本書を使うなら、著者が提示した課題の解決に向けた策を討論してみることは学んだことのまとめとしては効果が出そうです。

最後に、著者が事例としてあげている中には、著者の視点から解決の糸口を紹介しているものもあります。著者と同じ立場の場合、この策はとても有効です。しかし、製品のコンセプトや対象とする利用者層によっては、必ずしもユーザビリティの向上につながるわけではないものもあります。後輩を指導する立場にいる方は、その考え方も含めて指導していくと、利用者に不満がなく使ってもらえるものづくりへつなげていける本です。

書誌情報

ほんとに使える「ユーザビリティ」
より良いデザインへのシンプルなアプローチ

著者: エリック・ライス
翻訳: 浅野 紀予
発行日: 2013年10月25日
出版社: ビー・エヌ・エヌ新社
ISBN: 4861008891 / 978-4-86100-889-4
価格: 2,800円(税別)
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