CIFについて

  • 黒須教授
  • 2002年10月21日

2002.10.7-8に、Washington D.C.のNIST(National Institute of Standards and Technology)において、第五回のIUSR(Industry USability Reporting format) Workshopが開かれた。IUSRというのは自由参加のプロジェクトで、ユーザビリティテストの結果の報告書書式CIF(Common Industry Format)に関する規格を議論する場である。CIFは2001年の12月12日にNCITSのANSI規格、つまりアメリカの国内規格として成立していて、今回はそれをISOの国際規格にする案件などを審議した。参加者は大半がアメリカ人で、他にはイギリスから3人、イスラエル、日本(私)から各1人だった。

約30人の参加者は、3つのBreakout Groupに分かれていた。CIF Revision and Internationalizationというグループは、CIFのISO規格化に関連した話題を議論するもの、Hardware/Novel Devicesというグループはこれまでソフトウェアを対象にしてきたCIFをハードウェアのユーザビリティテストにも拡張することを議論するもの、Software Requirementsというグループはソフトウェアを対象にして、完成品としてのテスト(summative test)だけでなく、開発途中でもテストをする(formative test)ように拡張することなどを議論するものだった。一日半の日程で、かなりきついスケジュールのワークショップであった。

CIFはすでにANSIの標準になっており、今後ISO化をめざすことになり、どのように進めるかが議論になった。ISO化をすること自体についてはほとんどの参加者が異論はなかったようだが、アメリカという国の特徴か、ISOについての知識がほとんどなく、ISO9241とISO9000の関係はどうなのか(実際には関係がない)という基礎的な質問がでるような状況ではあった。これに対して、イギリスからきたNigel BevanとTom Stewartから補足説明を含めて、どのように展開すべきかという提案があった。

NigelはJTC1派で、SC35かSC7(Software Engineering)がどうかと提案した。特に、SC7のWG6(Software Quality)はISO9126をあつかったところであり、そこがいいというのが彼の趣旨だった。その根拠としては、CIFはソフトウェアに関するユーザビリティテストの規格だということと、将来ハードウェアを入れるにしてもJTC1のスコープからはずれるものではないというちょっと無理のある理屈だった。

TomはTC159派で、SC1WG4でISO20282が、SC4WG5でISO9241-11が、SC4WG6でISO13407, ISO/TR16982, ISO18529, HSLなどが作られたことを話し、SC4のWG5かWG6で扱うべきだと主張した。その根拠は、CIFはユーザビリティ担当者のためではなくマネージャのための規格であるというKeith Butlerの話をうけて、それはISO13407で扱っているプロセス管理の問題であるということ、TC159は人間工学の分野であるが、特にSC4は対話システムを扱っており、CIFの取り扱い範囲と合致するということであった。当日の出席者は人間工学よりはソフトウェア関係者が多かったが、Tomの話の方が次第に優勢になる雰囲気ではあった。

私はSC4WG6のメンバーであることもあって、TC159で扱いたいと考えており、(1) JTC1系のISO9126のusability概念は、CIFが用いているものとは異なり、quality in useをusabilityと見なしても、その構成概念は異なっていること、(2) 逆にTC159系の概念はISO9241-11にもとづいて統一されており、CIFのusability概念もそれと同じであること、(3) ハードウェアを扱うようになれば、ISO13407のようにinteractive system全体を扱うことになり、TC159の方が適切であること、を主張した。さらにロビー活動とでもいったらいいのか、休憩時間に、Tom, Keith, Emile Morse, Jean Scholtzらと話をして、この考え方を改めて強調した。

なお、日本ではCIFを利用したくとも正式の日本語版がないため、テンプレートを利用することもできず、早急にJIS化が必要であることも主張した。そのためにはまずISO化が必要である、という理屈である。

この問題については、このミーティングで結論をだすことはせず、今後MLの上で討議を継続し、投票ではなくconsensusによって決定することになった。consensusとは、要するに議論がある方向に「落ち着く」のを待って、それで結果が出たと判断するやり方である。

なおISO化にあたってはネーミングの変更も検討することになった。またstandardではなく、早く成立させられるTRで良いのではないかという意見が強かった。

ハードウェアに対する拡張については、次のような話になった。(1) ハードウェアとして当面はPC本体(内部接続機器、外部接続機器を含む)を扱う、(2) ATMやカーナビなどのコンピュータを利用した対話型機器については、その後で扱うことを考える、(3) 今回検討した結果、現在のCIFをハードウェアに適用するにあたり、その基本的な部分には特に変更を加える必要がないと判断し、追加点をwhite paperとしてまとめることとなった、(4) 日程としてはwhite paperを来年3月、まとめを来年いっぱいにやりたい、というのがJeanの考えであった。(5) まだ検討を開始したばかりなのでMLで議論を深めたい、(6) そのために、ハードウェアの評価に関連する規格などについての情報を寄せて欲しい(TomからはNordic CHIでまとめたものがある、という話があった)。

CIFはすでにOracleなど、米国企業では利用が開始されており、それらと競合する製品については企業調達の場合、日本製品についても添付することが要求されるようになるだろう。このようにしてユーザビリティテストの実施が拡大してゆくことは、ユーザビリティに対する関係者の理解をなかば強制的ではあるものの深めることになるわけで、大いに歓迎したいと考えている。