スマートスピーカの利用経験-開始10ヶ月後のUX

2019年7月にamazon Echo Dotを、2020年1月にGoogle Home Miniを購入した。どちらも、買った当初はその能力や利便性の低さから、もう使わなくなるだろうと予想していたが、2020年5月現在、まだ使っている。購入当初としばらく経ってからのUXはたしかに違うものだ、と我ながら実感した。

  • 黒須教授
  • 2020年6月12日

経緯

2019年の7月、amazon Echo Dotを3000円で購入した。これについての初期的UXの報告は既にここに書かせてもらった。その後、UIやUXの研究者としては、もう一つくらい経験しておかねばと考えて、2020年の1月頃だったと思うが、Google Home Miniをやはり3000円で購入した。(そんな頑なになる必要はないと思いつつ、僕は非アップルユーザなのでSiriは未体験である。いや、UIやUXの研究者としては、その理由だけでもiPhoneを使ってみる必要性はあるのだが、数千円のレベルで済む話ではないので年金生活研究者にはつらいところである)。

どちらの機種も、買った当初はその能力や利便性の低さにガックリして、もう使わなくなるだろうと予想していたが、その後、2020年5月の現在、まだ使っている。負け惜しみではない。それなりに便利なことを見いだしたからだ。

そして、購入当初としばらく経ってからのUXはたしかに違うものだ、と我ながら実感した。ここには、そうした自分の経験をUXの一事例として紹介することにしよう。

現在の使い方

Google Home Miniを購入した当初は、両方のスマートスピーカを一階の「オフィス」に置いていた。二つの機種の動作を比較する必要があったからだ。ただ、ひととおりの比較を終えた後は、Google Home Miniは二階のベッドの脇におき、amazon Echo Dotはそのままデスクの脇に置くことにした。つまり、前者は起床と就寝時に使うものとし、後者は日中仕事などをしているときに使うものとしたのだ。

ベッド脇のGoogle Home Mini

Google Home Miniは、入眠用のデバイスとして、また起床用のデバイスとして、結構便利に使っている。まず、入眠時、「OK Google、おやすみ」と言うと、Miniは、「おやすみなさい。アラームは何時に設定しますか」と応答する。このアラーム設定は意外に便利で、コロナ自粛で自宅にとどまっているため、ともすると寝過ぎになってしまう自分の日常をきちんとすることに役だっている。

ウェイクワード

ただ、最初の「OK Google」は、いまだに頂けない。ただの記号と思えばいいのだし、事実、そのとおりなのだが、やはり頂けない。これは以前の原稿にも書いたが、どのような合図にするかをユーザ設定ができないことが一番の不満なのだ。さらに、Googleという社名を呼び、しかも、それにOKという肯定的な呼びかけを付ける、という語彙選択の不適切さが気に入らない。「おーい」じゃ短すぎて判別できないのかもしれないけど、そういう日常感覚で利用できたらありがたいのに、と、この点は今でも不満である。

入眠時

また、アラーム設定では、「設定しない」とか「いらない」と応答しても、しつこく同じ質問をしてくる。この聞き分けの無さも不愉快である。何回か断っていると、諦めてくれるようではあるが…。また、同居人がふざけて「0時と1時と2時と3時と4時と5時と6時」などというと、バカ丁寧に全部の時刻にアラームを設定してくれてしまうのはご愛敬である。もちろん、あらためて「OK Google、アラームはすべて解除」とか言えば一度でキャンセルすることはできる。ともかく、6時とかに設定して眠りに入る。

この後、秋の虫の声みたいな電子音が聞こえてくるが、これはなかなか秀逸である。何か心理学の実験でもして決定した音なのかもしれないが、このおかげで気持ち良く眠ることができる。ためしに「OK Google、ストップ」といえば止めることはできるが、音が止まった後の静寂よりは、この小さな虫の声があった方が寝入りがいいのだ。

「OK Google、おやすみ」の前に、「OK Google、ニュース」と言うことがよくある。その日のニュースを確認するためだ。睡眠に入る前に頭を休めるには、こうしてニュースを聞いているのも悪くない。聞いている途中で寝入ってしまうこともある。もちろん翌朝聞いてもいいことなのだが、簡潔に何種類かのニュースを話してくれるのは、その日のまとめとして有用ではある。

何とかしたいと思っているのは照明の消灯である。ベッドにはいる前にライトを消すようにしてはいるが、これがベッドの中から音声コマンドでできればなあ、とは思っている。しかし、その機能を使うには対応機種を設置しなければならないので、今のところマニュアル操作で消灯している。

起床時

さて、起床の場面。指定した時刻になると、アラームが鳴り始める…といっても無粋な「ジジジジジ」とか「キンコンカンコン」とかではなく、軽いメロディになっていて、睡眠中の気持ちを逆なでしない配慮がされていることがわかる。ただ、アラームを止めるためには、いちいち「OK Google、ストップ」などと言わねばならない。アラームを鳴らしているなら、機器側ではそのような状態にあることが分かっているのだから、いちいち「OK Google」を入れなくてもいいように思うのだが、ただの「ストップ」では無効である。ここも、ちょっとイラッとする点である。

そして、改めて「OK Google、おはよう」というと、その日の日付、今の時刻、その日の居住地域の天気、Google Calendarに入れてあるその日の予定が読み上げられ、その後でニュースが聞こえてくる。

このGoogle Calendarの読み上げは、しばしば予定を忘れてしまう僕にとって、寝ながら予定確認ができるのでありがたい機能である。もちろん、寝ながらGoogle Calendarに思いついたことを予定の形をとってメモっておくこともできる。あとで一階のデスクにいけば、パソコン上のカレンダーにそこで話したことがちゃんと(予定として)記入されている。また、これも当然の機能ではあるが、翌日の予定や前日の予定などを確認することもできる。ただし、いちいち「OK Google」を唱えなければならない。

なお、ニュースについては、それまでに再生したものと同じ内容はスキップしてくれるようになっている。だから寝るときにニュースを聞いていれば、読み上げ件数は少なくなっている。朝起きた瞬間には、頭がまだ十分に活性化していないので、こうした話をなんとなく聞いているのは悪くない。

ユーザ特性と利用状況をどこまでを想定してデザインされているのかは分からないが、心地よく便利なUX「のための」デザインとしては、そこそこ評価できる仕様になっている。ちなみに、同じような音声コマンドをEcho Dotに言ってみた反応では、「今日も笑顔で一日を過ごせますように」などと余計なことを言ったりする仕様になっていて、いまひとつのUXである。

デスク脇のamazon Echo Dot

Echo Dotの方は、電卓代わりに計算させたり、西暦と和暦を変換したり、ポンドをキログラムに変換したりする時に使っている。だから、あまり高頻度な利用ではない。便利だなと感じるのはリマインダー機能である。といっても、Google製ではないので、Google Calendarと同期するわけではない。カレンダーを見て、自分で適当な時刻、予定の15分前とか、にアラームを設定しておくのである。たとえば15:00に家をでる予定だったとしても、ついつい仕事に気をとられて忘れてしまうことがある。その時、14:45にアラームを設定しておくと、着替えをしたりしても十分に間に合うからだ。それだけのことなのだが、時計でアラームを設定するのに比べて音声で設定するのは手間がかからず、小さなことだがとても便利である。

半年から1年、というISOの指摘

ISO 9241-210では、長期的モニタリングは、利用を開始して半年から1年経った頃にやるのがいいと書かれているが、僕のスマートスピーカに関するUX (ISOでは、そのモニタリングを基本的にはユーザビリティの文脈で主張しているのだが)も、その枠組みに合致するものといえる。明らかに、導入当初のUXとは異なったものになっているし、生活のなかでの位置づけも明確になってきた。もっとも、今の利用法がこの先どこまで続いていくかは分からない。

もしかすると、サーバ側の機能アップで、音声対話がもっと高水準になるときがくるかもしれない。いや、僕はむしろそれを望んでいる。そうなれば、スマートスピーカのUXは新たな段階に入り、さらに僕の生活のなかで重要な位置を占めるようになるだろう。