タブレット市場を読み解く(2) タブレットの普及を阻む深い溝

ここ数年、普及が進むタブレット型端末。一見順調に推移しているように見えますが、ここから市場のメインストリームに到達するまでには、深い溝(=キャズム)を越えなければなりません。この背景を探ります。

  • U-Site編集部
  • 2015年10月7日

前回「タブレット型端末の利用率は年々増えており、総務省調べでは平成26年現在(インターネット利用者のうち)タブレット型端末の利用率は17.9%である」というデータを示しました。

それでは、今後もタブレットは右肩上がりで普及していくのでしょうか。マーケティング理論を応用して、このことについて考えてみたいと思います。

前回記事:「タブレット市場を読み解く(1) 利用率が高いのは意外な層

インターネット利用機器。総務省「通信利用動向調査(世帯構成員編)」より。

初期市場を制したタブレット

まず、古典的なマーケティング理論を改めて振り返ってみたいと思います。

“イノベーター理論”(ロジャース/1962)をご存知の方は多いと思います(参考:黒須教授による解説(1) イノベーター理論の概略(2) ラガードの生き方(3) イノベーターの生き方)。新しい商品やサービスに対する受容態度により、市場を5タイプに分類して考えるというものです。各タイプの特徴は以下となります。

  • イノベーター(市場の2.5%)・・・新しいもの好き。冒険好き。
  • アーリーアダプター(13.5%)・・・流行に敏感。他の層への影響力が大きく、オピニオンリーダーとも呼ばれる。
  • アーリーマジョリティ(34.0%)・・・新しいものに対してやや慎重であるものの、レイトマジョリティに比べると、比較的早く取り入れる。
  • レイトマジョリティ(34.0%)・・・新しいものに懐疑的。周囲が使うようになってから、取り入れる。フォロワー。
  • ラガード(16.0%)・・・流行に関心がなく、保守的。

“イノベーター理論”では、製品やサービスは「イノベーター ⇒ アーリーアダプター ⇒ アーリーマジョリティ ⇒ レイトマジョリティ ⇒ ラガード」の順に浸透していくとされています。

イノベーター理論では、新しい商品やサービスに対する受容態度により、市場をの5タイプに分けた。

後述する“キャズム理論”の言葉を借りると、イノベーターとアーリーアダプターは「初期市場」と呼ばれる市場を形成します。市場の構成比としてはそれほど大きくないものの、この初期市場を制しなければ新しい商品やサービスは浸透していかないと考えられています。イノベーターが飛びつかないものはアーリーアダプターも評価しないし、アーリーアダプターが評価しなければ、アーリーマジョリティは手を出しません。

これを踏まえ、改めてタブレットの利用率を見てみましょう。タブレットの利用率は現在17.9%。利用率と購入率(普及率)はやや異なりますが、一旦、利用率≒普及率と考えると、現在タブレットは初期市場での浸透に成功し、次のステップに進もうとしているタイミングだと言えそうです。

実はアーリーマジョリティ/レイトマジョリティにまで浸透し始めると、普及は一気に進みます。この2つの層は市場の7割弱を占めており、市場のボリュームゾーン(メインストリーム)であるからです。例えばこの数年のスマートフォンの急速な普及は、新製品に対して慎重なアーリーマジョリティ/レイトマジョリティまでもが、スマートフォンを手に入れだした結果であると言えるでしょう。

それではタブレットも、(スマートフォンのように)これから一気に普及が進むのでしょうか?

タブレットは今、市場の「キャズム=深い溝」に差し掛かっている

残念ながら、そうとは言い切れません。ここでもう一つのマーケティング理論を見てみたいと思います。前述の“キャズム理論(ムーア/1991)”です。この論は元々ハイテク分野におけるB to B市場を対象とした論ですが、著者本人も認めるように、「B to C市場の開拓にも適用できることがさまざまな事例で示され」ています(『キャズム Ver.2』、ジェフリー・ムーア、翔泳社)。

この論では、「アーリーアダプター」と「アーリーマジョリティ」の間には「深く大きな溝=キャズム」があるとされています。このキャズムを越えられず、普及に至らなかった製品やサービスは多々あり、「キャズムに横わたる亡がら」となってしまうケースも多いようです。よって、「このキャズムを越えることこそが(マーケティングの)最重要課題」であるとムーアは主張します。
【3】キャズム5

まとめ

今回はタブレットをめぐる以下の状況を見てきました。

  1. タブレットの利用率は現在17.9%(総務省調べ)。利用率≒普及率と考えると、タブレット市場は『キャズム理論』で言うところの「深い溝=キャズム」に差し掛かっている。
  2. キャズムとは、「アーリーアダプター」と「アーリーマジョリティ」の間に横たわる深い溝のことであり、これを乗り越えられないハイテク製品も多い。よって、キャズムを越えることはマーケティングの最重要課題である。

この溝では何が起こっているのでしょうか。また、この溝を乗り越えるためには、どのような施策が必要なのでしょうか。この溝が生じる大きな要因は「アーリーアダプター」と「アーリーマジョリティ」の性質の違いにあると考えられます。次回、この違いをタブレット市場に即して具体的に見ていくことで、「キャズムの乗り越え方」を考えてみたいと思います。

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(「タブレット市場を読み解く(3)」に続く)