UXの目標をアナリティクス測定計画に落とし込む
表面的な指標を追うのではなく、UXの目標に焦点を当ててアナリティクスの測定計画を推進しよう。有意義な測定のために、デザインの核となる目標を定めよう。
問われた問題を解いてはならない。ほとんどの場合、それは間違った問題なのだ。
Don Norman
機能ではなく成果に注目することで、正しい問題を解決するようにし、間違ったものを作らないようにしなさい、とデザイナーは教えられていることが多い。このルールは、UXデザインや製品企画の分野では受け入れられ、実践されてきている。しかし、デジタルアナリティクスに関しては、忘れられがちだ。間違った問題に対処するために機能を構築すると必ず失敗するのと同じく、間違った指標の追跡は意味のないことだ。
常に「なぜ」と問いかけよう
何を継続的に測定するかを決める際には、適切な指標を確実に選択できるように、デザインの最終的な目標を完全に理解することが不可欠だ。ユーザーエクスペリエンスやパフォーマンスを追跡する最適な方法を見極めることは、目標を明確にしないかぎりできないからだ。
新しいデザインの機能が提案されたとき、「なぜ」と尋ねるべきであるのと同じように、特定の指標を追跡したり、報告したりすることを決める前には、疑問を持ち、より深く調べる必要がある。本当に知りたいことは何なのか。その数値や割合がわかったら、どのような対策が取れそうだろうか。単に指標を報告するだけでは、多くの時間を無駄することになる。追跡したい項目は数え切れないほどあるのだから、測定の真の目標に集中しないと、指標が何であれ、行動につながる、意味のある知見を提供することはできないだろう。
たとえば、あるページに動画が追加されたら、動画が再生されるたびにそれを追跡しようと考えるのはごく自然なことだ。しかし、この統計データを単に報告する前に、動画が再生されたら追跡しなければならないのは「なぜか」、と問うべきである。なぜならば、動画をページ上で目立つようにしたいからだ。「なぜか」。動画コンテンツを見て、ユーザーにそこから学んでもらいたいからだ。「なぜか」。それを見れば見積もり依頼を出してもらえるのではないかと思うからだ。「なるほど!」。(アイデア発想のテクニックに詳しい人なら、これが根本的な原因を掘り下げるために有効な方法である、なぜなぜ分析(toddler strategy)であると気づくだろう)。というわけで、動画の再生回数を追跡する以外にも、以下の指標が有効であることがわかる:
- ユニークページビュー数に対するユニーク再生数の割合(ページ訪問者のうち、十分な割合の人が動画を発見して再生するかどうかを判断する。再度のページ閲覧や動画の繰り返し再生は無視される)
- 動画視聴者のうち、その後、問い合わせフォームに記入した人の割合と、動画を視聴しなかった人のコンバージョン率との比較(動画コンテンツに説得力と効果があるかどうかを判断する)
こうした情報を分析することは、単に再生回数を数えるよりも、動画の効果評価としてははるかに有意義だが、立ち止まって「なぜ」と問いかける人がいなければ見落とされがちなことといえる。
目標を定義し、そのあとに指標を決めよう
何を測定するのかを決める際のよくある間違いが、目標を指標で定義してしまうことだ。「なぜ」に対する真の答えは、単にデータを確認することでは決してないからだ。何かを測定するためだけに指標を追跡することはやめよう。アナリティクスデータ自体は、注目に値するものではない。むしろ現在のユーザーエクスペリエンスを把握するための手段なのである。
タスクや機能に対して何を測定するかを決める際には、アナリティクスツールにどういう指標があるかとか、どの指標なら測定できそうと思うか、といった情報にとらわれないようにしよう。指標から知見へというボトムアップではなく、目標から指標へというトップダウンで考える必要がある。このプロセスに取り組むには、以下のステップを順番に進めていくとよい:
1. 問題になっている機能またはデザイン要素の目標は何か、と問いかけよう
その機能や機能性のユーザーエクスペリエンスについて、どういうことを保証したいのか。この大局的な目標を定義して初めて、その目標に関連する具体的な指標を探すべきである。
たとえば、ページ(または一連のページ)の直帰率を下げることを目指すのは、良い目標とはいえない。「なぜ」直帰率に関心があるのか。そのページにたどり着いたユーザーにどのような体験を提供することを目指しているのか。真の目標は、コンテンツが魅力的で役立つこと、そして、適切なユーザーが検索エンジンからサイトの適切なページに到達することを保証することではないだろうか。
2. この真の目標を定めたら、その目標のシグナルの役割を果たすユーザーの行動を見極めよう
たとえば、ユーザーがコンテンツに興味を持ったかどうか、適切なページに辿りついたかどうか、彼らがターゲットオーディエンスと一致するかどうかなどだ。こうしたシグナルは測定方法を特定する必要はないが、目標に到達したかどうかを観察者が判断できるような行動の手がかりである必要がある。
先ほどの直帰率の例でいうと、ユーザビリティテスト中にユーザーを観察できるとしたら、そのユーザーがコンテンツに興味を持ったかどうかを判断するにはどんな点を確認しようとするだろうか。おそらく、ユーザーは、「戻る」をクリックしてGoogleに戻ろうとする前に、ページ内のウィジェットを操作したり、写真を拡大したり、ページの一番下まで読んだりするはずだ。
あるいは、ユーザーがアクセスした際に1ページ内で手短な回答が得られるようにしておくことでロイヤルティを高めたいと考えている場合、そこでの行動の手がかりは、直帰したユーザーがその後、より多くの回答を求めてサイトに戻ってくるかどうかになるかもしれない。
3. 特定したシグナルの数によっては、非常に強力なシグナルのみにリストを絞り込むとよい
測定計画を簡潔にすることで、同じ動作を識別するための方法を別にいろいろと考え、焦点が分散しないようにしよう。
4. ステップ3のシグナルの測定方法を定義しよう
たとえば:
- スクロールヒートマップを使って、ほとんどの人がページのどのあたりまでスクロールし、どのあたりまで読んだと思われるかを測定する。
- イベントトラッキングを利用して、ページ内のウィジェットや写真要素とのインタラクション回数を数える。
- ユーザーをそのランディングページに導いた参照元や検索キーワードを調べる。それらはそのページの内容や目的からみて適切だろうか。
- 再訪問率、特に直帰したユーザーの再訪問を追跡したり、サイトのユーザーの全体的な訪問の頻度と直近性を調べて、ロイヤルティを評価する。
このようなより具体的な指標は、根本的な目標を十分に検討せずに選んだ表面的な指標より、UIの真のパフォーマンスの評価にはるかに近づくことができるだろう。
ユーザーエクスペリエンスを追跡しよう
タスクを実行しやすくしたり、ユーザーの時間を節約するという、さまざまなデザイン変更や新しい機能の目的を見失わないようにしよう。こうしたユーザーエクスペリエンスの目標は、デザインの成否を評価する方法を選択する際には常に最も重視されるべきである。
フォームやプロセス内の一括編集や一括アップロード機能など、時間を節約する新しい機能がインタフェースに追加された場合、その機能が真に成功するかは、ユーザーの時間を実際に節約できるかどうかにかかっているのだ。つまり、新機能の利用頻度やそれを利用したユーザーの数を単純に数えるのではなく、ユーザーにとって時間短縮による利益があるかどうかに焦点を当てる必要がある。タスクにかかる時間は短縮されたか。フォームを提出しやすくなったことを示す完了率は向上したか。項目を個別に入力する場合に比べてユーザーのエラーは減ったか。ひょっとしたら、このデザイン変更によりタスクが以前ほど面倒ではなくなったため、エンゲージメントと全体的な利用状況が向上しているかもしれないのだ。
新しいデザインのユーザビリティROIを報告するためにリターンを計算する場合、これらのパフォーマンス重視の指標を採用すれば、デザインがユーザーにどのような利益をもたらすかについて把握することができる。こうした評価基準を重視すれば、ロイヤルティが高まることになり、ビジネスも拡大することだろう。
結論
追跡しやすい項目にすぐに飛びつくのではなく、ユーザーエクスペリエンスの全体的な目標に焦点を当てることが、有意義な測定には不可欠だ。指標の選択やデータを報告する際に、これらのより根本的な目標が考慮されていなければ、重要な統計データを見落とすことになる。優れたデザインとは、クリック数やページビューを増やすためのものではない。なのになぜそのようなやり方で成否を評価するのか、ということなのだ。
ユーザーエクスペリエンスの目標を追跡するための意味のある指標を見極める方法について、さらに詳しくは、我々の1日トレーニングコース「Analytics and User Experience」にて。