ユーザビリティのマーキングシステム

  • 黒須教授
  • 2001年10月22日

ユーザビリティの認証には、ISO13407が考えているようなプロセス認証と、ISO20282が考えているような製品認証とがある。プロセス認証の方が根元的であり望ましいという考え方もあるが、製品認証にもそれなりの利点はある。

製品認証の身近なものとしては、日本産業デザイン振興会のGマーク(グッドデザイン賞)、日本農林規格協会のJASマークや製品安全協会のSGマーク、日本環境協会のエコマーク、日本玩具協会のSTマークなどのマーキングシステムがある。

これらのマーキングシステムは、それぞれ目的も違っており、また判定の基準も様々である。あるシステムでは、基準を厳しくして、選定された商品はその判定基準を十分に達成した優れたものであることを表現しており、また別のシステムでは、基準を比較的緩くして、選定されることがむしろ当然であり、選定されなかった商品には問題がある、ということを宴曲に表現するようになっている。

いいかえれば、前者のシステムは、選定された商品を購入することを勧めており、後者のシステムは、選定されなかった商品を購入しないことを勧めている、といってもいいだろう。

ユーザビリティのマーキングシステムを考えたときにも、この二通りの考え方がある。ユーザビリティという概念を的確に表現している先端的な製品に対してマークを与えるという考え方は、そうした製品をユーザビリティのシンボルと位置づけ、それ以外の製品がそのような方向を目指すことを期待するわけである。企業関係者にユーザビリティ活動の推進を推奨すると、こうした典型的ユーザビリティ製品は何かという質問を出されることが多い。どういう概念でもそうだが、抽象的な定義よりは、具体的な事例があった方が、はるかにその概念を理解しやすいものである。その意味で、こうした先端的事例にマークを与える、というシステムにはそれなりの存在意義があると思う。

これに対して、ユーザビリティについて問題のある製品にはマークを与えない、といったような考え方のシステムも存在意義はあるように思っている。この場合、多少の問題点には目をつぶっても、ともかくユーザビリティに関して努力をしており、それがそこそこの成果をだしていると考えられる場合には、マークを与える。反対に、多くの問題が見いだされたり、本質的な部分に問題がみつかった場合にはマークを与えない、ということになる。

もちろん、どちらのシステムについても、選定の誤りや不適切さの危険は伴っている。これは統計学でいう第一種の錯誤と第二種の錯誤に似ている。つまり、厳しい基準の場合には、本来選定されてもいい製品が選定されないでしまうということが起きうる(第一種の錯誤)。緩い基準の場合には、本来選定されるべきではない製品が選定されてしまうということが起きうる(第二種の錯誤)。厳しい基準で選定されたはずの商品に、何らかのユーザビリティの問題が見つかった場合には、なぜこれが選定されたのかという疑問を発生される。これはシステム自体の信頼性にとっても問題である。しかし、ハイテク機器のように多数の機能があり、操作手順も複雑なものについて、詳細にすべてをチェックしてマークを与えることは実質的に困難に近い。その意味では、低い基準でそれなりの努力に対してマークを与えるというやり方の方が「安全」であるともいえる。ともかく、こうした錯誤があると、選定基準の不適切さが疑われてしまうし、ひいてはマーキングシステム自体の信頼性を損なうことになる。

その意味では、どちらのシステムについても、基準の明確化とその公平な適用が必要になるのだが、ユーザビリティを考えた時、私は、両方のシステムを共存させることが適切ではないかと考えている。つまり、ユーザビリティマーク、これを仮にUマークと呼ぶとすると、ゴールドUマークとシルバーUマークの両方を設定するのである。そうすると、店頭にはこれらのいずれかのマークがついた商品とマークのついていない商品が並ぶことになる。そのマークの普及度や認知度にもよるし、そのマークが商品のどのくらい目に付きやすい場所に貼ってあるかにもよるが、ともかく消費者はシルバーUマークすら付いていない商品を選ぶことを避けるようになるだろう。その結果、マークのない商品についてはマーク取得のためのモチベーションが高まり、これが企業におけるユーザビリティ意識の芽生えを促すと期待される。その意味で、これは底上げ効果があるといえる。反面、ゴールドUマークについては、さらに努力を積み重ねたことに対する報償という意味を持っており、天井破り効果があるといえる。

いずれにしても、マーキングシステムについては、その普及が重要であり、ごく一部の商品にぽつぽつと貼ってあるようでは効果はない。その意味では、認証母体となる組織が大規模なものであり、企業にも消費者にも、強くそのシステムの存在をアピールすることが前提となっている。