バッグのユーザビリティ

バッグの類が好きで、ビジネスバッグは数知れず、スーツケースは5つ、キャリーバッグは大小あわせて7つ、ウェストポーチやヒップバッグは合わせて20はいってるだろう。新しいバッグに出会うと、その材質や構造の違いが生活に何か新しさをもたらしてくれるのではないかと期待して買ってしまう。だが、多くの場合、それは新しさではあっても、さらなる便利さではない。

バッグには大別して、内部が細かく区切られていて如何にも便利そうに見えるものと、バクッとした容器になっていてその中はお好きに使ってくださいというスタンスのものとがある。

前者は一般に裏切りものである。ペンを入れる細長いポケットがついていても、そこにペンをいれると膨れて蓋が閉めにくくなってしまうことがある。そもそも、そこにペンを入れる必要はなく、別途、筆入れに入れておいた方がはるかに便利なことが多い。カードをいれるポケットについても同様で、そこに入れるよりは、独立したカードケースに入れてポケットに入れて置いた方が出し入れがしやすい。携帯電話のポケットも同じだ。携帯電話を常時携帯するために、そのバッグを持ち歩かなければならないというのは不合理だ。携帯電話は、ポケットに入れてしまうか、専用ケースに入れてベルトにつけておいた方が本当の携帯になる。書類入れやパソコン入れも同様。書類入れが幾つかに仕切られていると、何となく内容別に分類して入れたくなってしまうが、分類した結果が仕切に収まる厚さ以下になってくれる保障はない。パソコン入れもそうで、パソコンがすっぽりと入ってくれて一瞬の気持ち良さを味わうことができても、さて電源を入れようとか、マウスを入れようとすると、その場所がない。このように専用化されたバッグというものは、専用化される度合いが強いほど、実際の利用状況に適合せず、こんなことならむしろ仕切なんかない方がいい、ということになりがちである。

他方、単なるハコや袋になっているバッグはというと、ものを収める時の自由度が大きいようでいて、実際に使っているうちに中にいれたものがごちゃごちゃになってしまい、何がどこにいってしまったかと探し回ることになる。僕は、身の回りのもの、たとえばクスリ、文房具、デジカメ、MDプレーヤ、マイクロホン、タバコにライター、爪切り、プリペイドカードケース、デジカメや携帯電話用のバッテリーや単三バッテリー、携帯電話用の充電ケーブル、眼鏡などを入れるために、クラッチバッグというものは使わない。どうもバッグごとなくしてしまいそうな気がして恐いのだ。それでヒップバッグやウェストポーチを使って自分の体に縛り付けておくことを好む。一般にヒップバッグやウェストポーチには、外ポケットがついていることもあるが、本体内部は大きな袋になっていて、せいぜい補助袋が付いている程度になっている。だから、それらのいろいろなモノたちをごさっと入れてしまうと、歩いている内にほどよく攪拌されて、空けてみると何がどこにあるのか探し回らなければならなくなる。何回かの試行錯誤の後で、僕が確立したノウハウというのは、女性用の化粧品用の小さなバッグを使い、クスリやグルーミングツールの類はクスリ用の小バッグに、充電ケーブルやマイク、電池などは別の小バッグに、というように、中分類の入れ物を用意し、バッグの内部を自分なりに構造化するやり方である。こうすると、それらの小バッグは一定の大きさがあるために、内部で移動してしまうことがなく、それなりに便利に使うことができるようになる。

こうした経験をしながら考えるのは、バッグメーカというのはユーザの利用目的や利用状況をきちんと把握してデザインをしているのだろうか、という疑問である。これまでのバッグ作りの流儀や自分なりの思いつきだけでデザインしているのではないだろうか、という気がしてしまうのだ。デザインしたものの評価、これは特に長期的評価(long-term monitoring)になると思われるが、そうしたこともやっていないのではないかと思われる。もしそうだとすると、これは今までの家電品などの開発の仕方と大同小異ではないか。思いこみのデザインを評価もしないで市場に出してしまってそれでよしとする。どうせデザインをしょっちゅう変えなければ新規性が出せないのだから、いちいち調査や分析などやっていられるか、という思いがあるとしたら、それは開発スケジュールに追われる家電メーカと同じではないか。

日用品というものは、長い歴史があり、それなりに洗練されていて、そのユーザビリティが確立されているのではないか、と思わせるところがあるが、実際にはどうやら物づくり側の伝統と思いつきに従っているだけのような気がする。今回とりあげたバッグは、日用品であっても、きちんとした調査と分析評価を行うべきである、という見本のような気がする。

公開: 2001年11月5日
著者: 黒須教授