ユーザブルな道路設計

前回地図の問題を取り上げたので、今度は道路の問題を取り上げることにしよう。道路の設計に関しては、交通工学などの専門分野があり、それなりに努力をされていることと思う。しかし、そうした専門部会の中に、人間工学や認知工学の関係者がどのくらい参加しているのか疑問に思うことが多い。また仮に何人かの方が入っているにせよ、どこまで彼らが参加し責任と権限を与えられているのか、そのあたりが分からない。使いにくい道があまりに多いので疑問を持たざるを得ないのだ。以下にそうした問題点を順不同で列挙してみよう。

直進道路がいつの間にか右折専用車線になってしまう

最近は改修工事をして、右折専用車線を設ける方向になってきているようだが、まだまだこうした道は多い。そのため、直進をするつもりで走っていると、いつのまにかそこには右折車だけが溜まっており、謝りながら左側の車線に入れて貰うことになる。通い慣れた車ははじめから左側の車線を走っているため、ぎりぎりのところで左側に入ろうとすると、距離を稼ごうとした悪意の車と思われてしまい、意地悪をされることもあるのだ。

車線変更区間が長すぎて、ずるい車が出てくる

首都高速の例でいえば、江戸橋方向から箱崎にやってきて、両国方面に行こうとする場合、全体で四車線になっていて、真ん中の二車線が両国方面、両外側の二車線が新木場方面となっている。しかし、四車線区間が長いため、ずるい車はぎりぎりまで空いている外側車線を走り、車線が分岐する直前で両国方面の車線に入ろうとする。これは不愉快さをもたらすという意味で、やはりユーザブルとは言えない。

運転者の視野を考慮していない合流点

特に高速道路の場合、二つの車線が合流する場合には、合流先の車線に車のいないことを確認することは安全上大切である。しかし、これまた首都高速の例で恐縮だが、3号線を渋谷から走ってきて、谷町で右方向、つまりレインボーブリッジの方に入ろうとすると、霞ヶ関方面からやって来る車線も円弧状態、こちら側も円弧状態で合流するようになっているため、ミラーで確認しても横を見てもなかなか車の有無が確認できない。合流地点にはある程度の距離の直線区間がないと運転者が確認できず、大変危険である。

明示的でない立体交差

カーナビをつけていれば大きな問題にはならないが、短めのトンネルを使った立体交差だと、トンネルを通っている間にどの道を横切ってしまうのかがわからず、自分の位置の確認が困難になることがある。大きな道や鉄道線路というのはドライバーにとっては貴重なランドマークであり、知らない間にそれを過ぎてしまうと認知的な混乱が起きる。

立体駐車場内部のうねる道

立体駐車場や地下駐車場では景色が見えない。そのため、ループしている道や、直交していない道を何回も通らされると、運転手には自分の位置と方向の定位ができなくなる。パッと出口にきても、はたしてそれがどこになるのかが分からなくなる。これもカーナビの普及であまり問題にはならなくなったが、カーナビがない頃は大変だった。

外回りと内回りの交差点

一般に交差点では内回りをすることになっている。しかし一部の交差点ではあたりの地形のためなのだろう、外回りになっていることがある。これはできるだけ回避すべきデザインだと思う。それぞれの右折待ちの車がお互いの車列の間に突っ込む形になってしまうため、安全の面でも、そして安全を確認するための認知作業の面でも適切とはいえない。

大型交差点での車線の整理

たとえば内堀通りを祝田橋の交差点にやってくると、右折ラインが確か四つもある。要するにそこではほとんどの車が右折をするわけだ。しかし、右折をした後、すぐに桜田門で左折する車もあれば、次の国会前で左折する車もある。慣れた車はそれを見越して適切なラインに位置取るが、地方の車など慣れていない車は内側の車線に入ってしまい、後から車線変更を繰り返すことになる。こうしたことを防ぐためには、車線上の案内にそのことを表示すべきである。

手前にありすぎる一時停止

細い道同士の交差点によくあるのだが、一時停止のラインが手前にありすぎることがある。そこで停まってみても実質的に左右の確認はできない。そのためにずるずると徐行をせざるを得ない。車にのっているドライバの視野を考慮して一時停止ラインの位置を決めるべきだろう。

交差点のすぐ手前のバス停

バス停の設置は道路設計そのものの問題ではないが、バス停にバスが止まっており、その先の交差点を左折したい場合には、バスを追い越す形で左折することになる。これはバスを降りた横断者のこと、あるいはバスの発車のタイミングなどを考えると大変危険である。

・・・というように、道路設計やその運用に関しては、さまざまな問題が残されている。道路というのは一旦作ってしまうとそう簡単に変更できるものではない。したがって事前の検討において、人間工学や認知工学など人間科学の専門家をプロジェクトに入れ、運転者の視野に関するシミュレーションを行うなど、具体的な設計について助言を受けることが必要だろう。すでにそうしたことはやっている、というのであればやり方が適切ではなかったということだ。彼らに一般論を聞くのではなく、実際の設計と検証の作業にまで入ってもらうようにしなければならないだろう。

公開: 2004年6月14日
著者: 黒須教授