複合的トラブルの特定

  • 黒須教授
  • 2005年2月1日

オフィスで利用しているパソコンのメール受信が、ある日突然におかしくなった。受信のための操作をすると、経過表示までは出てくるのだが1/54といった表示を示したまま止まってしまう。全部で280KBほどの新着メールだ。いつもなら一瞬でダウンロードできるはずの量だ。メールソフトなどの設定をいじった記憶は全くない。もともと自宅のパソコンと全く同じ設定にしてある。ちなみに、プロバイダから取得した新しいアドレスだけに設定を変えてみるとちゃんとダウンロードができる。これは一体どうしたことか。

ソフトウェアの設定はいじっていないし、以前はそれでダウンロードができていた。したがって設定に問題はないと考えた。オフィスのサーバの問題かとも思い、念のために確認をしてもらったが問題はないという。そもそも新しいアドレスで受信ができているのだからサーバの問題ではないだろう。すると怪しいのはプロバイダのトラブルだ。そこでプロバイダに電話をしてみた。しかし現在サーバに問題はないという。確かにそうだった。なぜなら念のためにノートパソコンを立ち上げてみたら問題なく受信できたのだ。プロバイダの電話相談の係はいろいろと考えてくれた。しかしそのどれも該当しなかった。次に怪しんだのはウィルス対策ソフトだった。私の使っているソフトはウィルスチェックをするためにPOP3の部分を書き換えてしまうことがある。しかしチェックしたところ、書き換えられてはいなかった。さて、そうなると怪しいのはパソコン本体ということになるだろう。しかしハードの故障であれば別アドレスでの受信はできない筈だ。となるとソフトウェア的なトラブルと考えられる。このメールソフトはOSと一体でインストールするようになっている。そこでOSの修復インストールを試みることにした。しかしOSに対してパッチをあてていたために、CDROMよりも新しいバージョンがインストールされていたことになり、CDROMからはインストールができないとメッセージがでてきた。万事休す。というわけでショップに修理にだすことにした。何がなんだか今のところさっぱり分かっていない。

似たようなことがノートパソコンでも発生した。カードモデムを入れてPHSでサーバに接続しようとしたら、接続ができない。アクセスランプが途中で消えてしまう。カードのドライバを確認したが問題はない。そこで他のパソコンでモデムカードのテストをした。設定の詳細を他のパソコンと比較した。それでも問題は解決しなかった。こちらも現在修理待ちの状態だ。

たまたま通信関係の事例を二つ並べたが、それ以外の場面でもこうしたトラブルは発生する。たまたま通信関係は、ハードメーカ、通信ソフトメーカ、関連ソフト(ウィルス対策)メーカ、プロバイダ、サーバと関係しているところが多かっただけだ。

ともかくこうした形で複数の原因の可能性が考えられる場合、問題の特定が大変だ。それぞれのユーザ相談窓口に相談しても、当然のことだが自分の製品やサービスに関連した部分しか回答してくれない。今回の二つの事例では「たまたま」パソコンが一番怪しいと考えられたのだが、常にそうした形で怪しさを特定することが可能とは限らない。新しく製品を購入して組み合わせた時のトラブルは「相性」という言い方で表現されるが、こうした場合、どこに相談したらいいのか途方にくれることがしばしばだ。全体としての相談サービスを引き受けてくれること、これはパソコンのハードメーカに一番期待したいところではあるが、中小規模のショップ系パソコンではそうする余力もないだろう。その意味で、何でも相談できます、というようなセンターをハードやソフトなどの各メーカーやサービスプロバイダが共同して設立してくれること、これが複合的トラブルに対処するための一番良い策のように思われる。

こうした複合的トラブルはコンポーネントを組み合わせるケースで発生する。オールインワンであれば、そのメーカに相談すれば事足りたからだ。その意味で、以前はオーディオなど、コンポーネントシステムが限定されていたのでパソコン登場まではそれほど問題にならなかったといえる。しかし、今後インターネットが家庭内外の様々な機器につながり、そのコントロールをするようになると、白物家電であっても、照明器具であっても、全体システムの中の一つのコンポーネントとなる。その意味では、こうした複合的トラブルに対する対応の仕方をきちんと考えておかないと、ユーザはトラブルに閉口し、結局そういった電子生活を諦めたり拒絶したりすることも起こりうるだろう。市場の拡大をめざすためにはユーザに対するアフターサービスも大切だ。各メーカがアライアンスを組み、そうした問題に対する総合的な相談窓口を設置してくれることに強く期待したい。