履歴情報の管理

  • 黒須教授
  • 2006年7月18日

機器やシステムを購入したあとの履歴情報の管理は結構面倒くさいものだ。このパソコンは何時どこで購入して、その後、どんな問題が起きて、どこで修理をしてもらって、その後どんな状態になって、ということをきちんとメモしている人は少ないのではないだろうか。パソコンだけでなく、テレビに洗濯機に携帯電話に・・と、生活環境を構成している機器やシステムは実に沢山あり多様でもある。それらについて、購入記録やその後の修理記録などをきちんと残しておくことは、望ましいことではあるけれどなかなかに大変なことだ。よほど几帳面に記録をつけている人でなければ、何時購入したかなんてことも忘れてしまっているのではないだろうか。

こうした中で比較的きちんと履歴情報が管理されているのは自動車だろう。車検や定期点検の情報はディーラだけでなくどこで実施しても所定の書類に記入されるからだ。それでもオイル交換を何時したか、空気圧はいつチェックして値がいくらだったか、などの情報はバラバラになっている。オイル交換をするとガソリンスタンドがステッカーを貼って情報を記録してくれることもある。しかし、その形式や貼る場所は様々。標準化されてはいないから次も同じところでオイル交換をしなければ意味がない。

住宅もメーカー系で建てた場合には、一種のカルテが残されているらしく、定期的にメーカーから連絡が来る。それに基づいた定期点検もやってくれる。しかし自分で近所の工務店に依頼して改修をしてもらったような記録はメーカーには連絡されない。

ようするに、あくまでもユーザによる自己管理が基本とされており、大半のユーザはそれをきちんとしていない・・これが実際の状況であるといえる。

機器やシステムによっては、メーカーとサービス担当の会社が別になっているような場合もある。エレベータはその一例だ。しかも、サービス担当会社との関係は年度更新をするのが基本。その入札の際に別のサービス担当会社に変わってしまったとすると、それまでの履歴情報は継承されず、それが時には不良や事故の発生に関係することもある。

いや、機器やシステムだけではない。人間そのものについての情報管理についても同じような状況がある。医療機関にあるカルテは詳細な医療情報を保存したものだ。それはそれで結構。しかし、医療機関の間でその連携体制ができていないため、複数の医療機関に通院している人が投薬の複合作用で健康を損ねてしまうこともありうる。それを防ぐために、現在もらっているクスリを申告するように言われるが、それは患者責任となっている。またカルテにある情報は、そのすべてが患者に伝えられているわけではないから、患者責任であるとしても、患者から別の医療機関に適切な情報の提供ができるわけではない。

情報管理の不在。あまりにバラバラな情報管理。これが情報社会の現状なのだ。どうすべきか。

基本的にはユビキタス情報技術を利用して、一貫性のある情報管理体制を確立すべきだと考えている。テレビも洗濯機も携帯電話も、自動車も住宅も、エレベータも、医療情報や健康管理情報も。

この意味で示唆的なのがソフトウェアの管理だ。ソフトウェアはパソコンをインターネット接続していれば、メーカーの方でやってくれていて、それなりに更新のお知らせが来たりする。マシンを変更したりした場合にも、改めて登録をすればそれに対応した更新は可能だ。ただ、障害が発生したときにその情報をメーカーの方に通知する機能を使ったとしても、必ずしもそれが問題の解決には直結しないところ、基本的にメーカーが自分のためにその情報を利用しているところなど、まだ十分な状態だとはいえない。

ともかくもインターネット経由で機器やシステムや人体に関する情報を一括管理することにして、どのサービス担当者もそこへの情報更新を行うことを義務づけるようにすれば、またその更新操作を簡単にできるような技術開発をしておけば、現在おきている不具合や不便さを解消することは可能だろう。

インターネットの利用の他にもう一つ、各機器にチップを埋め込んでおき、そこに履歴情報を保管するというやり方もあるだろう。そして両者が連携すれば、いっそう効果的な情報管理ができるようになると思われる。

ただ、こうした管理を行う際に、サーバの選択や指定はユーザが自分で行えるようにしておくべきだろう。デフォルトで国や自治体がサービスを行うようにするのは悪いことではないけれど、個人情報に関係したものであるだけに、統制的な管理を嫌う人もいるだろうから。

また、こうした情報へのアクセスにおいては厳格なセキュリティ技術の確立が必要だ。健康管理情報が漏洩して本人の意志とは無関係に結婚や就職に影響してしまうようなことがないようにすべきだし、住宅情報が漏洩して間取りの情報が空き巣狙いに知られてしまうようなことは避けなければならない。

あまりにも散在している履歴情報。メーカーサイドだけが自分に都合の良いようにデータベース化しているだけの現状。ユーザの利益を守るために履歴管理がなされていない現状。これは何とかしなければならない。この状態で情報社会だなどといえたものではない。