機能探索能力

  • 黒須教授
  • 2007年12月15日

携帯電話などのハイテク機器を利用するときの若い人たちの能力にはしばしば圧倒される。なぜ、そんなに素早く学習してしまい、使いこなせるようになってしまうのだろうか。振り返ってみれば、自分が若い頃もそうだったような気がする。加齢とともに、何かが確実に衰えてきたのだろう。

その「何か」の一つに情報探索能力があるような気がする。マニュアルも読まずに携帯電話の機能を使い尽くしている彼らは、他種類の機能を目的にあわせて有効に使いこなしているが、そのためには、まずそのような機能があることを知らなければならない。そうした機能を見つけ出す能力を、ここでは情報探索能力ということにする。

情報探索能力には幾つかの要素があると思われる。

(1) 要求項目の機能変換

まず、実現したい目標(やりたいこと)を明確化し、それを機能に対応づける能力があるはずだ。やりたいことがモヤモヤしているのでは駄目で、それをまず明確に自分で把握することが必要だ。その上で、その目標が機能としてどのようなものに対応するかを想像できなければならない。要求項目を機能変換する能力といえる。そのためには、ハイテク機器だったらどのような機能があるかを記憶している必要がある。まずこの点で高齢者は弱い。また記憶しているだけでは駄目で、自分の目的にあわせて関連性のあるものを想起する能力も高くなければならない。そうした能力があって、要求項目の機能変換は可能になるのだろう。

(2) 記憶の体制化

前の項目における機能項目の記憶もそうだが、記憶している内容が適切に体制化されていなければならない。単に項目がベタに記憶されているのではだめで、このことに関係した機能はこれとこれで、あのことに関連した機能はこれとこれ、というように少なくとも木構造、できればネットワーク構造の形で強い連鎖が成立しており、その構造を自由にトラバースできなければならない。この点は高齢者には特に辛いところだ。高齢者が10代から30代ごろまでに経験した内容は長期記憶に固定されているが、それは硬く固定されてしまっており、柔軟な変更や修正がきかず、さらに新しい項目の追加が困難である。

(3) 可能性の探索

ここを押したらこういうことが起きるのではないか、という可能性を多様に思い浮かべることも必要だ。その柔軟性と積極的に探索を行う姿勢が欠如すると、もう一歩のところまで行っていても、目指すべきゴールに到達できないことになる。この点で発想力が固定化し、流動的な知能の衰えてきた高齢者は、少なくとも書いてあることしか理解せず、その先を考えることができない。

(4) 注意力

そこに書いてあるのに気が付かない、という注意欠陥障害のようなことがあってはならない。画面やパネルに表示してある項目をすべて瞬時に把握し、漏れ落ちのないように認知できる能力が必要だ。この点は、高齢者に限らず、注意力に問題のあるユーザは皆苦労することになるだろう。

(5) 作業記憶のスパン

画面に注意して情報を入手しても、それをすぐに忘れてしまったり、記憶が体制化されていても、それが作業記憶からすぐに消失してしまうようでは円滑な作業はできない。その意味で、作業記憶のスパンが大きく、かつ長い時間保持されるようでなければいけない。

(6) 積極性

ともかく試してみる、というのは簡単なことのようで、意外に抵抗感を持つ人がいる。これをやって大変なことになったらどうしよう、といった不安感をもってしまったり、ちょっと面倒だからそれはやらないでおこうと考えてしまったり、そもそもすぐにできないなんて作りが悪いんだ、と多罰的になってしまったり、とその原因にはいろいろとあるだろうが、思いついたことは積極的にトライしてみるという姿勢はとても大切だ。

このように見てくると、特に高齢者やハイテク弱者といわれている人たちは、まずこの機能探索能力の点で劣っているのではないか、と思えてくる。もちろんハイテク機器の使いこなしには、機能探索能力の他に、記憶力や運指能力なども関係している。もしこうした形で認知能力の低下が機能探索能力に影響してくるのだとすると、その対策はなかなかに困難であろうと思われる。よく言われるように、メニュー階層を浅くしようとか、ラベルを分かりやすくしよう、というのはそのためのガイドライン項目にはなっているが、それだけで問題が解決されるわけではない。