生活者の暮らす社会

日本には、国家、都道府県、市区町村、といったさまざまなレイヤーの行政組織がある。利用者の側から何かを訴えたり、申請したりということになると、どこに持ってゆけばいいのか混乱することになる。

  • 黒須名誉教授
  • 2025年12月29日

国家、都道府県、市区町村

日本には、国家、都道府県、市区町村、といったさまざまなレイヤーの行政組織がある。これに加えてなかば公的なものとして町内会といった組織が最下部に位置づけられている。

それぞれの組織にはそれを代表する「建物」がある。外務省や経産省などの中央省庁、北海道や東京都、大阪府、沖縄県などの都道府県庁、さらに、なんとか市、なんとか町、なんとか区、なんとか村といった市町村庁。町内会については、もちまわりで窓口を担当していることが多いようではある。

さて、これらの庁舎に代表される行政組織に、われわれ生活者はどれだけ直接的にお世話になっているだろう。

国民としてたとえば経産省や国交省を訪ねたことのある人というのは、なにかの陳情する場合などを除いてかなりレアなものだろう。

都道府県については、筆者の場合は東京都庁ということになるが、さてそこに出かけたことは、パスポートの更新くらいしかない。もっともパスポートは東京であれば、有楽町や池袋、立川などのパスポートセンターでも受け付けてくれるから、それを利用する場合、都庁に出向くことはあまりないことになるだろう。

だが市区町村のレベルになると、筆者の住んでいる調布市役所の場合、かなり頻繁に利用している。住民票の取得、印鑑証明の取得、その他の国民健康保険や年金などに関する手続き、そして最近ではマイナンバーカードの更新ということで結構訪問することが多い。同じ市内にあるために出かける際の交通の不便はなく、どの用件ならどのフロアのどの窓口に行けばいいかも覚えてしまっている。もっとも、本籍が千代田区にあるので、戸籍謄本や抄本の取得については千代田区役所まで行かなければならないのが面倒ではある(ただ、本籍が日本の中心の千代田区にある、というのが何となく誇らしくて…馬鹿である…いまだに調布市に移していない)。

ともかく、庁舎の訪問の頻度からいったら、おおよそ0:1:10くらいの割合になるのかもしれない。

ちなみに、町内会については、回覧板の内容がこどもの運動会のような関係ないものが多いのと、ゴミ捨ては特定の場所に捨てるのでなく個別に玄関前に置いておくやり方のため、参加している意義が感じられず脱会してしまっている。また、町内会にはいっていなくても、市の行事や行政上の連絡などは週に1回程度、広報紙がポストに投函されているので、特に不便はない。これは市区町村によって違うのだろうが、調布市の場合は花火大会の案内など、結構細かい事柄についても広報活動をしてくれているのでありがたい。

そんなことから、そこに居住しているという帰属意識でいえば、5~6:1~2:25~30くらいの比率になるかもしれない。国については国政に関する事柄が気になるので5ないし6なのだが、都庁にお世話になってるという意識は、都庁の方々には申し訳ないが1ないしは2、そして調布市が25から30といった感じになる…というわけだ。つまり、東京都という存在が自分の場合は意識からほぼ欠落しているのだ。そして後述するように、意識から欠落していても、実はお世話になっているという、陰の下働きのような位置づけになっているのが東京都なのだ。

公的証明書

役所に関係した公的証明書としては、パスポート、運転免許証、健康保険証、マイナンバーカードあたりが一般的なものだろう。もちろん、それ以外にも各種の公的証明書、海技免許証、古物商許可証、車庫証明書だの、いろいろなものがあるが、ここでは最初の4つに焦点をあてたい。

まず運転免許証と健康保険証はマイナンバーカードと一体化されつつあるが、もともとは所轄が異なっている。運転免許証は各都道府県の公安委員会であり、警察署が交付する形になっている。健康保険証は保険の種類によって異なり、国民健康保険は市区町村が所轄、組合健保は各企業の健康保険組合、共済は各共済組合が、という具合に異なっている。そしてマイナンバーカードは市区町村が発行するものとなっている。さらに、パスポートは外務省の所轄であり、交付は都道府県が行うことになっている。…ややこしい

いっそのこと、パスポートもマイナンバーカードと一体化できないのかとも考えるのだが、前者は外務省、後者は総務省の管轄ということで、垣根が高くて難しいようだ。さらに、外国の出入国管理窓口でも使用するものであるため、国際民間航空機関(ICAO)の承認が必要で、諸外国とのすり合わせが必要になるため、まず実現は当分困難だろう。せめてパスポートの更新が市役所でもできるようになってくれればありがたいのだが。

行政組織としての町と住所としての町

いろいろ調べていて分かったのだが、都内の市区町村は、東京都の直接管理下にあるのではなく、東京都と並列の独立した地方公共団体なのだそうだ。国-都道府県-市区町村という階層構造をイメージしていたのだが、都道府県と市区町村は同じく地方自治体として役割分担という形で頭のなかを修正すべきものらしい。こんなことは小学校で学ぶべきことなんだろうけど。なお、東京の場合、23区は特別区と呼ばれていて、上下水道や消防などの一部の権限を東京都が持っているそうだ。

さて、そうした場合、たとえば調布市には小島町、国領町、仙川町、若葉町などの町があるのだけど、市議会はあるものの町議会というものがない。なぜか。また、東京都には、西多摩地域や島しょ部に町や村がある。たとえば西多摩地域でいえば奥多摩町、日の出町、桧原村などであり、ここには町議会や村議会がある。なぜ小島町には町議会がなく、日の出町には町議会があるのか…という素朴な疑問を抱いた。

調べてみて分かったことなのだが、市区に存在する町は行政上の町ではなく、住所としての町なのだそうだ。だから議会が存在しないし、その必要性もない、ということである。こうした紛らわしさは、そういうものだと思い込んでしまうか、気にしないで住んでいればそれまでの話だが、ちょっと気になると訳が分からなくなる類の話である。住所としての町から「町」を削り取ってしまえばルールの一元化ができてすっきりするだろうが、歴史や文化の問題があり、反発する声が大きいだろう。

都の役割

基本的にはどの都道府県でも同じなのだが、東京都には都議会があり、調布市に市議会がある、いってみればこれは二重構造である。しかも、それが上下関係ではない。そして、似たような仕事を都でも市でもやっていて、わかりにくい。これは組織構成のユーザビリティの問題であり、可能な範囲で整理すべきものではないだろうか。

東京都には、およそ30の部局があるが、このうち消防や水道、下水道、地下鉄などは都が運営しているものの、一般の市では市が運営している。保健所の運営も区や都がもっており、多少まぎらわしくなっている。教育についても、高校は都立高校であり区立高校はないが、中学は区立中学である。医療福祉についても、東京都は都立病院を運営しているが、市区町村も福祉・保険サービスを提供している。公共的な性格のものは広域的であるために、都が運営するという理屈も理解できなくはないが、市区町村と都の役割分担の区分けが若干ぎくしゃくしている印象がある。

利用者の側としては、サービスが簡単に利用できるなら特に文句をいう筋合いではないのだが、利用者の側から何かを訴えたり、申請したりということになると、どこに持ってゆけばいいのかという混乱が生じることになる。こうした混乱を避けるためには、階層を越えたワンストップサービスを充実させるなど、改めて「都」という自治体のあり方と「市区町村」という自治体のあり方を再検討する必要があるのではないだろうか。

記事で述べられている意見・見解は執筆者等のものであり、株式会社イードの公式な立場・方針を示すものではありません。