ユーザビリティの第一法則? ユーザーの声は聞くべからず
使いやすいインタフェースをデザインするためには、ユーザーの発言ではなく行動に注目すること。自己申告による主張は信頼性が低い。それは、将来の行動に関するユーザの推測だからである。
この数年、ユーザビリティの最大の障壁は、クールなデザインが優勢を占めていたことだった。ほとんどのプロジェクトを仕切っていたのはユーザビリティに反する人たちで、彼らはシンプルさより複雑さを優先していた。結果、何10億ドルものお金が派手なデザインのために浪費され、使いにくいサイトが生まれていたのである。
「ドットコム・バカ」の凋落でもっとも良かったことのひとつは、クールなデザインがすっかり鳴りを潜めたことだろう。企業は今や、結果を重視するようになった。
- 一般向けウェブサイトは、かつて目立つことばかりを考えていたが、今では顧客のビジネスがやりやすいものを目指すようになった。
- イントラネットでも、同様に、従業員の生産性向上に再び注目が集まるようになった。統一感あるサイトを目指してデザイン標準を適用し、カオス的なイントラネットから脱却するためにナビゲーションを強化している。
幸いなことに、グラマー志向のデザインは敗退した。ユーザビリティ唱導者が、最初の、そしてもっとも困難な戦いに勝利を収めたのだ。今では、ユーザビリティニーズに対して、企業が耳を傾けるようになった。
残念ながら、反ユーザビリティ陣営との戦いに勝ったからといって、それで複雑さとの戦いが終わったわけではない。戦いは新たな前線に移ったのである。その戦いとは、いかにして企業に正しいユーザビリティを実践させるかという課題だ。
ユーザーの作業を観察する
ユーザーの声にもとづいてデザインするのはいいのだが、その収集手法が間違っているというケースを、非常によく耳にする。典型的な例をあげよう。デザインの代替案を数点作成してユーザーグループに見せ、どれが一番好きかを聞く、というものだ。違う。実際にそのデザインを使ってみたのでない限り、ユーザーは外見的特徴にもとづいてコメントするしかない。この種の意見は、実際の利用にもとづいた意見とは著しく異なったものになることが多い。
実例:回転するロゴは、見た目にクールかもしれない。同じページ上で何かやることが他になければの話だが。ドロップダウンメニューもそうだ。ユーザーはこのアイデアを必ず気に入ってくれる。彼らが理解できる標準的インターフェイス部品がついに実現したのだ。しかも、どんなページに行っても変わらず利用できる。デザイン上、ユーザーのためになるものではあるが、ドロップダウンメニューのユーザビリティは低い。ユーザーをとまどわせたり、サイト内の思いがけない場所に飛んでいってしまうことが多いのだ。
どのデザインがベストか知りたければ、そのユーザインタフェースを使ってタスクを達成しようとするユーザーの行動を観察することだ。この手法はあまりにシンプルなので、つい見過ごされがちだ。ユーザビリティテストに、もっと大げさなものを期待してしまうからである。もちろん、観察にも様々なやり方があるし、理想的なユーザーテストやフィールド調査については数多くのコツもある。だがつまるところ、ユーザーのデータを集める手法とは、ユーザビリティの基本法則に他ならない。
- ユーザーの実際の行動を観察する。
- 自分の行動に関してユーザーが言うことをうのみにしない。
- 将来、こうするかもしれないという推測にもとづいた発言は、絶対に信じない。
例えば、製品を3Dで見られるようになっていたら、eコマースサイトでもっとたくさん買い物をするだろうという人が、調査協力者の50%いたとしよう。だからといって、いち早くサイト上に3Dを取り入れるべきなのだろうか?否。単に3Dはクールだ、と受け取られているに過ぎない。仮説上の製品やサービスに対する人々の態度をあてにして失敗したビジネスは、世界中で枚挙に暇がない。思弁的調査では、人々は自分の行動や、どんな機能が気に入るかについて、推測することしかできない。だからといって、実生活の中でそれを実際に使ったり、気に入ったりするとは限らないのだ。
いつどのように聞くべきか
好みに関するデータは、いつ集めればいいのだろう?そのデザインを実際に使ってもらい、どれくらい役に立ちそうかが彼らの実感としてつかめた後に限る。Jonathan Levy と私は、同じタスクについて2種類のユーザインタフェースを比較したデータ113件を分析した。その結果、ユーザーのパフォーマンス測定結果と彼らの示した好みとの相関は、0.44であった。自分のやりたいことがより簡単に効率的に行えるデザインの方が、ユーザーの気に入る確率が高い。実に納得いく結論だ。
だが、好みに関するデータを収集する際には、人間の本性を計算に入れておかなくてはならない。過去の経験について語る際に、ユーザーが自己申告したデータは真実に3歩足りないと考えるのが定石だ。
- 質問に回答する際に(フォーカスグループでは特にそうだが)、あなたが期待していると思われる回答や、社会的に容認されている方向に合わせようとして、真実を曲げる傾向がある。
- 自分の行動について答える際、実際には彼らは自分がやったと記憶していることについて話している。人間の記憶は非常にあてにならない。些細なディテールに関しては特にそうだが、この細部がインターフェイスデザインに関してとても重要なのだ。ユーザーがまったく覚えていないディテールもある。目を向けなかったインターフェイス要素などがこれにあたる。
- 記憶にもとづいて報告する際に、彼らは自分の行動を合理化する。「もうちょっと大きかったら、そのボタンが目に止まっていたんだが」というような発言を、私は数え切れないほど聞いてきた。確かに言うとおりかもしれない。しかし、確実なのは、そのユーザーはボタンを見逃したという事実だ。
最後に、フィードバックを集める方法とタイミングにも配慮しなくてはならない。単にオンラインに質問表を掲載しておくだけ、というやり方もあるだろう。楽をしたい気持ちはわかるが、信頼できる情報は集まりっこない(そもそも集まるかどうか自体が疑問だ)。サイトを利用する前に質問表を見て回答したユーザーの意見は参考にならないだろう。サイト利用後に質問表を目にしたユーザーだと、回答しないで立ち去ってしまう公算が高い。ウェブサイト調査で唯一効果的な質問は、「なぜこのサイトに来たのですか?」というものだ。この質問は、ユーザーのモチベーションを問うものなので、サイトを利用する前でもすぐに答えられる。
信頼に足るフィードバックを集めようと思ったら、逃げ場のない人から集めるに限る。正式のテストを行った上で、最後に質問表に答えてもらうのだ。ペーパープロトタイピングのようなテクニックを使えば、何も実装しない段階でデザインのテストができるし、ユーザーにあれこれ質問できる。これらの基本的ユーザビリティ法則、手法に従えば、見た目だけでなく、実質的にクールなデザインを作る上で役立つだろう。