デフォルトの力

検索エンジンのユーザは、検索結果のトップに表示されたものをクリックする。適合率では説明しきれないほどの割合で。ここでもまた、デフォルトにこだわるヒトの傾向が示された。

ウェブのユーザは、どれほど騙されやすいのだろう? 残念なことに、“非常に”騙されやすいと言って良いようだ。

Cornell大学のThorsten Joachims教授らが、検索エンジンに関する研究を行った。検索エンジンに関する研究は様々あるが、この研究は、ユーザがSERP(search engine results page:検索結果表示)からどのリンクへ遷移するかを見るものだった。ユーザの42%が検索結果のトップを、8%が2番手をクリックするという結果が得られた。ここまでのところ、面白い話は何もない。私自身によるものも含め、これまでに行われてきた多くの研究結果から、検索結果の上位に表示されるいくつかがクリックされるケースは圧倒的に多く、トップに表示されたものは、他と比べ物にならないほどクリックされるという事実は既に分かっている。

興味深いのは、彼らが行った次のテストである。検索結果をユーザに見せる前に、ある台本に従って検索結果にこっそり手を加えたのだ。上位2つを入れ替えて表示する、という台本だった。つまり、本来ならば検索エンジンが2番手に表示したはずのものをトップとし、トップだったはずのものを2番手に格下げしたのだ。

入れ替えた状態でテストした結果、トップをクリックするユーザがやはり多く、34%だった。2番手をクリックしたユーザは12%だった。

トップの魅力

この研究は、ユーザがなぜ、検索結果のトップをクリックしてしまうのかを考えるときに大いに役立つ。もっともらしい説明として以下の2つが考えられる:

  • 検索エンジンは、検索条件とコンテンツの関連性を的確に判断するため、最良の候補をほぼ確実に先頭に表示することができる。
  • ユーザが検索結果のトップをクリックするのは、それが2番手以下よりも良いと思ったからではなく、単に一番目にあるからである。ユーザが怠慢なだけ(一番上から見始めるだけ)かもしれないし、検索エンジンが最適候補をトップに表示してくれるものだと、その真偽はともかくとして、思い込んでいるからなのかもしれない。

研究結果からわかるように、どちらも少しずつ言い当てている。

ユーザが常に最適候補をクリックするのだとしたら、上位2つを入れ替えたとき、それぞれをクリックするユーザの割合もまた入れ替わるはずだが、そうはならなかった。トップに表示されたものをクリックする割合が、やはり一番高かったのだ。

一方、ユーザが検索エンジンを完全に信用しており、トップに表示されているという理由だけでそれをクリックしているのだとしたら、上位2つを入れ替えたとき、それぞれをクリックするユーザの割合は変化しないはずである。しかし、そういう結果にもならなかった。トップに表示されたリンクをクリックしたユーザの割合は、42%から34%に落ちているのだ。ユーザの8%がトップ以外をクリックしたことになる。実際には、4%が2番手のリンク(本来ならトップに表示されるはずのもの)をクリックし、4%は上位2つ以外のリンクをクリックした。

この研究では、さらに、検索エンジンが実際に最適候補をトップに表示するのかどうかも検証している。“検索条件にもっとも適合しているウェブサイト”を計る客観的な基準はなく、人間に判断してもらう以外に方法はない。5人に評価してもらい、平均をとって適合率を導き出すという、考えられる最良の方法がとられている。

本来の検索結果であればトップに表示されたはずのリンクは、36%のユーザに最適と評価された。2番手が最適な検索結果であるとしたユーザは、24%だった。上位2つに差はなく、ともに最適とする評価が40%のユーザによりなされた。つまり、検索エンジンによる検索結果表示順位は概ね正しいが、4分の1のユーザにとっては正しくない、と評価されたことになる。(上位2つに差がなく、ともに適合と評価したユーザにとっては、どちらがトップに表示されても関係ないということになるので、検索エンジンが正しい順位で結果を返したものとした。)

検索エンジンによる順位が不適切な場合の割合を考えると、ユーザがトップの表示をクリックする頻度は高すぎる。また、上位2つを入れ替えて表示したときに、トップ以外をクリックするユーザは非常に少なかった。つまり、リンク先の内容が検索条件に適合しているかどうかはさほど確かではないにもかかわらず、ユーザがトップに表示されるリンクをクリックする傾向は極めて高いと結論づけられる。

検索エンジンのマーケティングにそのまま役立つ結論としては、特に驚くに値しない。トップに表示されるようにすることができるのであれば、それは非常に重要だ。同時に、ユーザが自分のニーズに合うサイトと認識する見込みを高めるために、良いマイクロコンテンツを準備することも重要である。良いページタイトルと要約が必須なのである。

残念ながら、検索結果に表示される要約をコントロールするのは多くの検索エンジンで難しくなっている。この研究は、読みにくい上に、ページの内容を十分に説明してくれない質の低い要約を表示することで悪名高いGoogleを使って実施された。ウェブサイトやイントラネットの中に閉じた専用の検索エンジンであれば、もう少し質をあげられるはずだ。コンテンツの執筆を担当している皆さんを説得して、良い要約を書いてもらうことが前提の話ではあるが。

検索以外でもデフォルト値には価値がある

ユーザがデフォルトを当てにする場面は、ユーザ・インターフェイスのデザインに関係する多くの分野でみられる。たとえば、手の込んだカスタマイズ機能を活用するユーザがほとんどいないという事実は、デフォルトのユーザ・エクスペリエンスを最適化しておくことが重要であることを物語っている。多くのユーザがデフォルトを使い続ける以上、当然だ。

フォームやアプリケーションの場合には、大勢に共有されると考えられる値を前もって特定できるならば、入力欄に最初から入れておくことだ。たとえば、我々が主催するユーザビリティ・カンファレンスの登録フォームでは、ボストンの開催に登録しようとする人の国名入力欄には“アメリカ”、ロンドン開催に登録しようとする人の場合には“イギリス”と表示されるよう、デフォルトを設定してある。多くの方々が開催国以外からも参加してくださっており、そういう方々にはこの欄を修正してもらわなければならない。しかし、ここが空欄になっていても、修正が必要なことに変わりはない。もっとも頻度の高そうな国をデフォルトにしておくことで、多くのユーザの手間を、ほんの少し省かせていただいている。

デフォルト表示は、以下二つの点でユーザビリティの向上に寄与している:

  • 代表的な値を表示しておくことで、その欄をどのように埋めれば良いのかをユーザが理解できるよう、一番良いタイミングでインストラクションを出していることになる。
  • 頻度の高い値を表示しておくことで、一般的に期待される回答がどんなものかをユーザに理解してもらえる。特殊な例を表示してはそうはいかない。この考え方は、営業の視点からも有用で、たとえば、定期購読の申込みを受け付けるインターフェイスなら、一年間の定期購読を、月々の支払いで申し込むという組み合わせをデフォルトで表示するのが良いだろう。一番値の張る選択肢を表示するようなことを続けていると、信頼を失いかねないので、やり過ぎないように。

ユーザに教え導くことで、デフォルト値はエラーを減らすことができる。そういう意味で、アルファベット順に並べたときに先頭にくるものや、元のリストで一番上にたまたまあったものなどという選び方ではなく、ユーザが参考にできるデフォルトを選んで表示することが大切なのである。

参考文献

Thorsten Joachims, Laura Granka, Bing Pan, Helene Hembrooke, Geri Gay共著
Accurately Interpreting Clickthrough Data as Implicit Feedback
Proceedings of the Conference on Research and Development in Information Retrieval (SIGIR), 2005.
(注意1: リンク先はPDFデータである。注意2: 学術論文である)