WebデザインとGUIデザインの違い

ウェブ用のデザインは、従来のソフトウェアユーザインターフェイスのデザインとは違う。概ね、デザイナーが完全な主導権を握るのはあきらめるしかなく、UIについての責任も、ユーザやクライアント側のハード/ソフトと分かち合わざるをえない。

もちろん、ウェブ用のデザインと従来のUIデザインには共通点もある。両方ともインタラクティブなシステムだし、両者ともソフトウェアデザインであって、物理的なオブジェクトのデザインではない。

デバイスの幅広さ

従来のGUIデザインでは、画面上のすべてをピクセル単位でコントロールできた。ダイアログボックスのレイアウトをしたら、ユーザの画面にもまったくそのままの形で表示されるはずだと、安心していられたのである。どんなシステムなのか、どんなフォントがインストールされているのか、通常の画面サイズはどれくらいかもわかっているし、システムベンダーからは、各種インタラクション部品をどう組み合わせたらいいか、その法則を示すスタイルガイドも提供されている。

ウェブではこれらの前提はすべて崩れ去る。ユーザは従来のコンピュータからアクセスしてくるかもしれないが、WebTVや、ペン入力のハンドヘルドデバイス、Nokiaの携帯電話、場合によって自動車ですら、インターネットデバイスとして利用しうるのである。従来のデザインでは、ラップトップとハイエンドワークステーションとの画面エリアの違いを6倍と見ておけばよかった。ウェブでは、現在、ハンドヘルドとワークステーションで画面の違いは100倍、モデムとT-3では帯域幅で1000倍の違いがあって、これを吸収しなくてはならない。

どんなウェブデザインも、これだけ多様なデバイス上ではかなり違って見えるだろう。WYSIWYGが通用しないのはあきらかだ。実際には、異なって見えることは機能であって、バグではない。なぜなら、理想的なユーザ体験のためには、各デバイスの特性に合わせた調整が必要だからだ。デバイスが特殊になればなるほど、またローエンドになればなるほど、そのプラットフォームにウェブコンテンツを適応させるための要求事項は厳しいものになる。これを実現する唯一の方法は、デザイナーがすべての主導権を握ろうとするのをやめることだ。ページの見た目は、ページでの指定と、プレファレンス設定、およびその他のクライアントデバイスの特性といったものの相互作用に委ねるのだ。

プラットフォームごとに異なった実現方法を取れるような、抽象的UI指定をデザインするのは思ったよりずっと難しい。デザイナーが理想に近づく上でHTMLの基本原理が障壁となるかもしれないが、まったく不可能というわけではない。意味と見た目を分離し、見た目の指定にはスタイルシートを利用するのがいいだろう。だが、これが有効なのはインタラクションよりも、情報コンテンツの方である。

ナビゲーションの主導権はユーザに

従来のGUIデザインでは、ユーザがいつどこへ行くのかを、デザイナーが決めることができた。現在の状態で利用不可能なメニューオプションはグレーにして選択できないようにしたり、モード型ダイアログボックスを出して、ユーザが質問に答えない限りコンピュータを自由にできないようにしたりできた。

ウェブでは、基本的に、ページ間ナビゲーションの主導権を握るのはユーザだ。彼らが、デザイナーの予想だにしなかった経路を取ることもありうる。例えば、ホームページはまったく経由せず、検索エンジンからいきなりサイトの核心部分にジャンプしてくることもあるだろう。また、ユーザは自分のブックマークメニューを好きにできるから、これを利用してサイトへの専用インターフェイスを作ることだって可能だ。

ウェブデザイナーはユーザ主導のナビゲーションに配慮し、これをサポートする必要がある。あらかじめ決められた経路をユーザに強制したり、特定のページへのリンクを禁じたりといったこともあるだろうが、そういったサイトは粗野で威圧な感じを与える。自由に動けるようにデザインしたり、あるいは、例えば各ページにロゴを置いて(ホームページにリンクしておき)、そのページに直接入ってきたユーザにもコンテクストとナビゲーションを提供するといったデザインにした方がいい。

全体の一部

従来のアプリケーションのユーザインターフェイス経験は、囲い込まれたものだった。ウィンドウシステムのおかげで、アプリケーションの切り替えや、複数アプリケーションを同時に見ることができるようになったものの、どの時点をとっても、ユーザは基本的に単一のアプリケーションの「中」にいて、そのアプリケーションのコマンドや、インタラクション手法だけが有効になっている。ユーザは、各アプリケーションでかなりの長時間を過ごしているうちに、その機能やデザインになじんでいく。

ウェブでは、ユーザはサイト間をかなりの速いペースで動き回っている。異なったデザイン(すなわちサイト)間の境界線はかなり流動的だ。ひとつのサイトで、ユーザが一度に数分以上を費やすことはめったにない。また、ハイパーリンクを追いかけているうちにユーザのナビゲーションがいくつものサイトをまたいでいることもよくある。このように動きが速いために、ユーザは、あるサイトを使っているというよりも、ウェブを全体として利用しているという感覚を持つ。ユーザは、どんなサイトであれ、専用のマニュアルやヘルプ情報など読みたくない。他のサイトを使った経験の蓄積として身に付いたウェブ慣習にしたがって使えるサイトが要求されるのだ。ユーザビリティ調査では、常軌を逸したサイトに出会ったユーザは、かなり激しい不満を口にする。言い換えると、ウェブは全体としてひとつのジャンルであり、各サイトの解釈は、このジャンルのルールに照らして行われるのだ。

もちろん、従来のGUIも全体の中の一部であるから、ベンダーのデザインスタイルガイドに従った方がいい。重要なのは、個別のデザインとウェブデザイン全体の傾向とのバランスである。一方で、この全体に調和するサイトを構築するために、インターフェイスボキャブラリをどう利用すべきかをデザイナーに教えるウェブデザインスタイルガイドは、まったく確立されていない。私は、公式のウェブデザイン慣習の確立を熱烈に指示する者である。これができるまでの間、私がウェブデザイナーに言えることはこうだ。逸脱しないデザインを心がけよう。君のサイトが、ユーザの宇宙の中心なんてことはないということを認識しよう。彼らはサイト間を動き回っている。新しいサイトに行き当たっても、ユーザが簡単に使えるようにしておくべきだ。

1997年5月1日