ユーザビリティテストの最近の動向

この5月に「ユーザビリティテスティング」という本を共立出版から上梓した。全部で31人もの著者の皆さんにご協力いただいて完成した本で、ユーザビリティテストという手法については欧米で出版されている書籍よりも最新であり、かつ網羅的であると編者として自負している。

この本を出そうと考えた背景には、最近はユーザビリティの上流プロセスに研究的関心が向かいつつあるということ。したがって中流ないし下流プロセスでの評価に関しては、まだ方法論的開拓の余地が無くはないが、むしろ実践を行うフェーズになってきており、方法論としてはだいたい固まってきているという事情がある。

ユーザビリティの研究も活動も、最初は評価から出発した。それは考えてみれば当然である。何か問題があることに気が付き、それをきちんと確認し、問題点を無くし、さらには問題点が発生しないようにする、ということは何をするにしても基本的な流れだからだ。問題点がある、という認識をきちんと定式化すること、そのためには評価の手法が必要である。そのような形で、1980年代までは人間工学の手法、特にアンスロポメトリー(人体計測学)を基本とした外観形状の評価や動線分析などが行われ、また感覚や知覚の心理学を用いて、画面輝度やコントラストの最適値を求めるような活動が行われてきた。しかしコンピュータが一般生活に浸透してくるにつれて、機器やシステムのわかりにくさが問題となるようになり、認知心理学の成果を応用した評価が活発に行われるようになってきた。その代表的な手法がユーザビリティテストである。そのほかにもインスペクションなど多様な評価の手法が開発されたが、実際のユーザの行動にもとづいて評価を行うという点はユーザビリティテストの持っている圧倒的な優位性であり、現在では、おそらく一番多く利用されている評価手法であるといえるだろう。

ユーザビリティテストでは、ユーザがどのようなエラーを犯したり、立ち往生をしてしまう、という形で問題点を発見するが、その原因を探るため、当初は認知心理学のプロトコル解析の手法がそのまま使われた。ユーザの発話や行動に関する詳細なログをとり、その分析を行って原因と考えられることがらを探るのである。しかし、たとえば1時間のログの書き起こしだけで通常数時間から10時間くらいが必要であり、ユーザビリティの評価は時間がかかる、そんなことでは開発スケジュールに間に合わない、という声が開発側から寄せられることになった。そのため、最近では、あらかじめ発生しそうな行動の選択肢を埋め込んだロギングツールと呼ばれるソフトウェアを利用して、リアルタイムにユーザ行動を記録し分析するようになり、その結果、ユーザビリティテストは相当効率化された。

しかしそうはいっても人間を相手とする手法であり、1日や2日で結果を求められてもそれに応じることは難しい。この点については、逆に開発担当者の理解が必要とされる部分である。きちんとした評価を行わず、不完全なままの製品を市場にだしてクレームが発生した場合のリスクを考えるなら、開発工程にきちんとユーザビリティ評価を位置づけることが必要であるというロジックである。こうした理解はまだ十分に得られているとはいえないが、ユーザビリティに関して先進的な企業、奇しくもそれは業績的にも先端的な企業に合致するのだが、そうしたところでは良き連携関係が成立するようになっている。

また、アンケート調査などの定量的手法に比較してサンプル数が数人からせいぜい十数人という少なさも問題として指摘されることがあった。しかし、この点については開発担当者がテストの場面に同席し、ユーザの行動を自分の目で見るようになってから「了解」されるようになってきた。

このようにユーザビリティテストという手法は時代とともに進化発展してきたが、ようやく安定した評価手法として認知されるようになった。テスト用のラボも各社1つは保有するようになってきた。もちろん、本来なら各事業所に1つは欲しいところである。

現在は、ユーザビリティ活動そのものが水平展開の時期にあるといっていいだろう。社内で理解あるセクションと組んで実績を積み、その実績を見せることで他のセクションにも参加を呼びかける。こうした努力を行う際、ユーザビリティテストは評価手法として大変適切な手法である。特に企画や設計、営業、サービスなどを担当する関係者がテストの状況を自分の目で観察する傾向がでてきてから、ユーザビリティに関する理解そのものが各社において急速に変化しつつあるように思う。この意味で、ユーザビリティテストは今後も評価の基本的手法として活用されてゆくであろう。

編集部追記:書籍紹介

書名: ユーザビリティテスティング−ユーザ中心のものづくりに向けて
著者: 黒須正明
出版社: 共立出版
ISBN : 4-320-07154-9
価格: 3300円

公開: 2003年9月22日
著者: 黒須教授

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