UIデザインの指標・ユーザビリティとは

標準規格におけるユーザビリティの定義、ユーザビリティを左右する要素、UI改善のためにはユーザーの思考回路の理解が必要であることを、順を追って説明します。

スマートフォンアプリやWebサービスにおいて、ユーザー側とビジネス側、双方の目的達成には、UIの品質をユーザー視点で評価し、ユーザビリティを向上させることが不可欠です。

一昔前までの新製品開発では、一般的にいかに高いユーティリティ(機能・性能)を持つかに多くの力が注がれてきました。その競争の結果、ユーティリティは非常に高いが、その機能・性能を思うように使えない製品があふれることとなってしまいました。しかし今は、ユーティリティの高さだけでなく、高いユーザビリティを持つ製品が求められるような時代になっています。

ここでは、標準規格におけるユーザビリティの定義、ユーザビリティを左右する要素、UI改善のためにはユーザーの思考回路の理解が必要であることを、順を追って説明します。

1. 標準規格における、ユーザビリティの定義

ユーザビリティは、一般的には「使いやすさ」と言われますが、JISやISOという標準規格では、ユーザビリティとは、特定のユーザーが特定の状況において、その製品・サービスを使って、やりたいことが効率よくできるか、そして、「嫌な思いをしないか」「また使いたいと思えるか」といったことを指しています。

国内規格JIS Z 8521:2020(国際規格ISO 9241-11:2018を一部変更)で定義されているユーザビリティとは:

特定のユーザが特定の利用状況において、システム、製品又はサービスを利用する際に、効果、効率及び満足を伴って特定の目標を達成する度合い。

この文で用いられている用語は以下のように定義されています:

ユーザ
システム、製品又はサービスとインタラクションする人。
利用状況
ユーザ、目標及びタスク、資源並びに環境の組合せ。
効果
ユーザが特定の目標を達成する際の正確性及び完全性。
効率
達成された結果に関連して費やした資源。
満足
システム、製品又はサービスの利用に起因するユーザのニーズ及び期待が満たされている程度に関するユーザの身体的、認知的及び感情的な受け止め方。
目標
意図した成果。

(JIS Z 8521:2020より)

ですから、あるアプリやWebサービスのユーザビリティを議論するには、まず、そのユーザー・状況・目的を明確にしておく必要があります。

定量的ユーザビリティテストでは、この、効果・効率・満足といった度合い=UIの品質を測定します。

ユーザビリティを取り巻くISO規格についての詳細は「ユーザビリティの関連規格」をご覧ください。

2. ユーザビリティを左右する5つの要素

ユーザビリティの権威であるヤコブ・ニールセン博士は、UIのユーザビリティは、以下の5つの特性からなる、多角的な構成要素を持っているとしています:

学習しやすさ
システムは、ユーザーがそれを使って作業をすぐ始められるよう、簡単に学習できるようにしなければならない。
効率性
システムは、一度ユーザーがそれについて学習すれば、後は高い生産性を上げられるよう、効率的な使用を可能にすべきである。
記憶しやすさ
ユーザーがしばらくつかわなくても、また使うときにすぐ使えるよう覚えやすくしなければならない。
エラー発生率
システムはエラー発生率を低くし、ユーザーがシステム試用中にエラーを起こしにくく、もしエラーが発生しても簡単に回復できるようにしなければならない。また、致命的なエラーが起こってはいけない。
主観的満足度
システムは、ユーザーが個人的に満足できるよう、また好きになるよう、楽しく利用できるようにしなければならない。

(『ユーザビリティエンジニアリング原論』(邦訳は1999年、原著は1994年)より)

学習しやすさや記憶しやすさの度合いによって、効率がよくなったり、逆にエラーが多く発生するようになったり、また、ユーザーの満足度も変化する、といえるでしょう。

ニールセン博士のユーザビリティは「その機能をユーザーがどのくらい便利に使えるか」であり、その中に「そのシステムの機能性がユーザーのニーズを満たしているか」を指す「ユーティリティ」は含まれておらず、ISOやJISでの定義と比べて狭義のユーザビリティといえます。

実際、シチュエーションとやってもらいたいこと(目標/タスク)を与えるユーザビリティテストを実施すると、操作が効率的にできないという問題だけでなく、機能の不足、つまり、ニーズを十分に満たせていないという問題も発見されることがよくあります。

ユーザーの状況を把握し、ニーズを明確にする調査手法としては、コンテキストインタビューがあります。

3. UI改善の鍵は、ユーザーの思考回路の理解

UIを利用していて、ユーザーが「使いにくい」「使い方がわからない」「間違える」状況に陥ってしまうのは、そのアプリやWebサービスの設計担当者とそれを使うユーザーの間の常識・期待・思考のギャップが原因です。

アラン・クーパーは、その著書『About Face 3-インタラクションデザインの極意』の中で、以下の3つのモデルについて解説しています:

実装モデル
エンジニアによって実装されたプログラムが、実際に動作する仕組み
表現モデル
プログラムの動きをユーザーに対して表現するために選ばれた方法(≒UI)
脳内モデル
ユーザーがプログラムについて、単純化して認識している内容

現在のアプリやWebサービスには多くの機能があります。そのため、アプリやWebサービスの実装モデルは大変複雑なものになっています。

それに対してユーザーは、UI(表現モデル)を通して、そのアプリやWebサービスで何ができるかを理解し、操作し、意図したとおりに動作したかどうかを判断しながら脳内モデルを構築します。また、その構築には、これまでに利用してきたたくさんのアプリやWebサービスの利用経験も大きく影響します。

エンジニアではないユーザーに、背後にあるプログラムの挙動(実装モデル)を反映しただけの複雑なUI(表現モデル)を提供しても、ユーザーはそれを理解できず、使いこなすことができないのです。

ユーザーにとって使いやすいアプリやWebサービスにするには、それらを利用するユーザーの行動を観察してその脳内モデルを理解し、それに沿ったUIを作る必要があるのです。

ユーザビリティを向上させる方法

では、ユーザビリティを高めるためにはどうしたらいいのでしょうか。そのためには、ユーザビリティを評価することが必要です。その方法については、「ユーザビリティの評価手法」のページをご覧ください。

個別の評価手法については、「ユーザビリティテスト」「ヒューリスティック評価」「アイトラッキング」「ウェブユーザビリティ評価スケール」の各ページに記載しています。