なりゆきまかせのユーザビリティ論

新しいウェブサイトや革新的なインターネットサービスをデザインするにあたって、壁に投げつけて、くっつくかどうか見てみよう式のやり方が最近増えてきている。デザインを泥と同じように扱うことで、市場に出すまでの時間を短縮でき、いち早くビジネスを拡大できると思っているのだろう。

この議論の根底にあるのは、スピードこそすべて、という考え方だ。もし初期のデザインに弱いところがあっても(すなわち壁にくっつかなかったとしても)、いつでも再デザインして直せると考えるわけだ。

確かに、スピードはとても重要だ。だが、それがすべてではない。顧客の満足こそがすべてなのだ。ユーザビリティのひどいだめなサイトを立ち上げるのは、確実にお金の無駄づかいだ。程度の差こそあれ、すぐに再デザインが必要になるだろうから。

使いにくいサイトを立ち上げると、もっとも良質の顧客との取引をフイにしてしまう。あなたのサービスをぜひ使いたくて、話を聞くやいなや、すぐにサイトを訪れてくれた人たちだ。こういったユーザにいやな体験をさせると、顧客になってくれないばかりか、将来、サイトの宣伝役になってくれる人まで失うことになる。ウイルス性マーケティングを期待したのに、実際にはまったく反対の悪性の熱病を招き、感染したユーザたちが、あのサイトには近寄るな、と他の人に言いふらすことになる。

一度でもウェブサイトでいやな体験をさせてしまうと、そのユーザに戻ってきてもらうのはかなり難しい。一度逃げられたお客というのは、もっとも難しい商売相手のひとつだ。これには、そうとう高額のマーケティング予算が必要になる。それに比べれば、はじめからきちんとしたウェブサイトを制作するためのコストなどたいしたことはない。

スピードがすべてではないとはいえ、インターネットという動きの速い環境では、それも重要だという点には、私も同意する。だが、ウェブサイトのユーザビリティを劇的に向上させるのに、そんなに時間はかからないのだ。

  • 前回のAlertboxで説明したとおり、数人のユーザにテストしてもらえば十分だ。これだけで、デザインのユーザビリティに関する洞察は、大半を網羅できる。
  • ユーザビリティに関するフィードバックを、デザイン工程のかなり初期の段階で得られる。この時点なら、新しいサービスの企画スケッチが数枚あるくらいで、実際に制作されたものはまだ何もない。だから、テストをするために、実制作を遅らせる必要はない。

将来のサイトを初期のプロトタイプを使ってテストすれば、プロジェクトの進行が早まり、時間の節約にもなる場合があるだろう。ことがある。ある特定の機能は必要ないとか、当初考えていたものよりもっとシンプルにすべきだ、といったことがわかるからだ。

ソフトウェアデザインの伝統では、次回のリリースで変更するのは、プロジェクトの開始時点での変更に比べて100倍も高くつくということがよく言われる。これに比べると、ウェブでは物理的なメディアが必要ない(すなわち、新しいCD-ROMを全顧客に向けて出荷する必要はない)から、開設後の変更にかかるコストは小さい。これは確かだが、失った顧客を取り戻すためのマーケティングにかかる費用は、おそらくウェブの方がはるかに高いだろう。ユーザはずっと気まぐれだし、彼らにはより多くの選択肢があるからだ。

「開設後に直そう」方式の問題点は他にもある:

  • 他にもっと優先度の高い項目が出てくると、すべての問題をつぶしているひまはなくなる。実際に作ってしまった後でデザイン上の問題を直すのは、かなりの時間がかかるからだ。時には必要なリソースが見当たらないことだってあるだろう。
  • ユーザは再デザインを好まない。たとえ元のデザインがどんなに悲惨なものであっても、これを苦労して使えるようになったユーザにしてみれば、新しいものを覚えなおすよりは、知っているものをそのまま使いつづける方がいい。

私なら、壁に泥を投げつけるよりは、初期開設までになんらかの知識を得る方を選ぶ。これには数日しかかからないのだから。そして、ユーザビリティ上、最大の問題を解決する。実際に何かを作り始める前に問題を見つけていれば、これにもそう長くはかからないだろう。プロジェクトが遅れるということはめったになくなるだろうし、後から変更することを思えば、はるかに大きなコストを削減できるだろう。さらに、最良の顧客を追い返すようなこともなくなるはずだ。

2000年4月2日

公開: 2000年4月2日 (原文:2000年4月2日)
著者: Jakob Nielsen
原文:The mud-throwing theory of usability

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