自家製Webサイトの終焉
ウェブサービスを利用すれば、個々のサイトデザイナーが共通の機能をプログラムしたりデザインしたりする必要はなくなるだろう。これはビジネスコストの削減、ユーザビリティの向上につながり、デザイナーは各サイトに固有の機能に集中して改善できるようになる。
多くのeコマースサイトが資金を失っている。その原因は3つある。
- 経営陣のミスによって非現実的な成長率を仮定し、これにもとづいた過大な投資が行われた。多くの業界では年間成長率30%でもいい方なのに、eコマース企業の多くは200%の成長率を見込んでコストを算定していた。
- サイトは、あいかわらずユーザが買い物しにくい状態にある。ほとんどのサイトが、eコマースデザインのためのユーザビリティガイドラインの2/3に違反している。これは売上の減少につながる。
- サイトの構築費が高い。サイトごとにすべてが手作りだったのが、その原因だ。
eコマースサイトを実装するのと同じやり方で物理的店舗を作ったらどういうことになるだろう。地元のモールに電話して、必要な床面積のリース契約にサインするだけ、というわけにはいかない。まずは外に出かけていって、泥をこね、レンガを焼く。そのレンガを使って店舗は建てられるが、電気配線が必要になったら、今度は銅鉱山に行って電線用の金属を手に入れるしかない。電線はコンセントではなく、裏庭にある発電機に接続することになるだろう。こんな条件を乗り越えられる企業はそう多くないはずだ。従来、ウェブサイトで提供しようとするサービスは、すべて各企業が個別にデザインし実装する必要があった。このアプローチにはあまりにも無駄が多く、利益も出せない上に、ユーザビリティの低下にもつながっていた。以下がその理由だ。
- 行った場所によって基本機能のデザインがバラバラなので、ユーザは操作方法が覚えられない。これがユーザビリティの低下につながる。
- 誰もが車輪を再発明するしかない状況では、四角い車輪を発明してしまう人が少なくない。ほとんどのプロジェクトは、ユーザインターフェイスの全側面で優れた仕事を仕上げるだけの時間と才能に恵まれていない。その企業の得意分野から外れた機能は、特におざなりになりやすい。
- プログラマは高くつく。有能なインタラクションデザイナーはさらに高い。こういったリソースは、そのサイトに固有の機能のために利用し、それ以外はアウトソースすべきだ。
ウェブサービス: ネットワークこそがウェブサイト
外部サイトでホストされるサイト強化サービスには、すでにたくさんの実例がある。その最初の事例は、おそらく提携プログラムだろう。どんなサイトでもAmazon や B&Nを利用して、書評を書いたり、推薦したりした書籍の注文を受けられるようになる。その他の事例としては…
- サードパーティのサーバ上でのメーリングリスト運営
- 外部サイトにおいた検索エンジン。特別なソフトをインストールしたり、メンテナンスしたりするわずらわしさからウェブマスターを解放してくれる。
- コンテンツ配信。株式市況の生中継などがこれにあたる。
外部のウェブサービスとして古典的な例をもうひとつ挙げよう。それは地図と道案内の提供である。サードパーティの地図サービスにリンクすれば、どんな住所であっても、企業の所在地への道案内を提供できる。残念ながら、こういった一般的な地図は店舗検索と所在地検索のユーザビリティガイドラインに従っていないことが多い。よって、通常は、グラフィックデザイナーに頼んで、各事業所所在地の静的な地図を作成してもらうのがベストだろう。だが、どこから来るかわからない道案内を前もって描いておくことはできないから、ここは一般的な地図サービスにアウトソースするしかない。
これらの事例の一部は数年前からあるものだが、近いうちに数多くの新しいウェブサービスが登場するはずだ。中でももっとも大きな期待を受けているのが、Microsoftの Passport(および、その競合サービス)が約束する統一ログインと、クレジットカードなしで資金の移動を可能にする機能だろう。インターネットでの支払方法として、クレジットカードはバカげた技術だ。
個人的事例: Yahoo Storeでの販売
私は最近、Yahoo Storeでeコマースデザインのためのユーザビリティガイドライン207付きレポートの販売を始めた。恥ずかしながら、この販売経路自体が私のガイドラインに違反していることは認めざるを得ない。例えば、製品ページにはロゴがつけられるのだが、これに障碍のあるユーザの補助となるALTテキストが指定できない。また、「購入」ボタンが製品写真から遠く離れた位置に置かれている。
もちろん、プログラマを10人、それに半年の期間を用意してもらえるなら、もっとエレガントなソリューションを構築できるだろう。だが、コストは膨大なものになるはずだ。なにしろ、私の商品は上記レポートひとつだけなのだから。無駄遣いは、最悪のガイドライン違反である。
Yahoo Storeのユーザビリティは完璧とは言えないが、まあまあの線には達している。小規模なウェブサイトなら、自前でデザインするよりYahooのデフォルト設定を利用した方が無難だろう。さらにもっとも重要なのは、ウェブサイトオーナーにとってのユーザビリティが優れているという点である。1時間以内ですべてが完了し、私のウェブサイトにeコマース機能を追加することができた。
モノとしてのレポートは、完成品引渡しサービス業者のALOM Technologiesが製造し、在庫してくれている。Yahoo Storeでの注文は、ここの配送システムに簡単に取り込める。この会社は、Yahooを利用するクライアントを他にも抱えているため、Yahoo Storeとの連携ノウハウをすでに持っているのだ。ここが大事なポイントだ。一連のウェブサービスによるネットワーク化、分散化が進むにつれ、単一の外部サービスとのやりとりだけではすまなくなってくる。複数の外部サービス間での情報交換と、その協調が必要になるのだ。
標準規格は少ない方がいい?
ウェブサービスが機能するためには、望んでいるエンドユーザサービスを構築するために、複数のホストサービスを簡単に組み合わせられるようになっている必要がある。このために、より強く標準化が求められるようになるだろう。みんなが自分勝手なやり方をしていると、その組合せによって複雑さが爆発的に増加するため、ウェブサービスはバラバラなスタンドアローンのサービスになってしまうからだ。
原理的にいうと、単一の標準を作れば、コンポーネントサービスがもつユーザ指向の機能を組み合わせる作業はやりやすくなる。現時点でもし単一の標準ができるとすれば、それはMicrosoftの .Net になるだろう。ウェブの初期、1991年から1995年にかけて、Microsoftが沈黙を守っていたことは有名だ。だが、彼らは率先してネットワークこそがユーザ体験であるという視点を広め、スタンドアローンのサイトから一歩先へ進もうとしてきた。
単一の標準には利点もあるものの、一企業にインターネットの命運を握られるというリスクを犯すことにもなる。競争を維持するためには、ウェブサービスの標準を2つサポートし、この2つの相互運用が可能なようにしておくという方法が考えられる。だが、標準の数が3つ以上になると、アイデア全体が無に帰してしまうだろう。異なった標準にもとづいた要素を接続するのが難しくなるからだ。
いずれにせよ、ここ2年以内に、標準システムが1つ2つ発展していくだろう。これらのシステムで、2レベルのユーザビリティに注力されることを期待したい。
- エンドユーザのためのしっかりしたデフォルトデザイン:ほとんどのウェブプロジェクトは、インタラクションデザインがうまくできていない。結果として、高度な機能は使えないということになりがちだ。これを回避するには、触らなくてもいいくらい、デフォルトのデザインをよくしておくしかない。
- ウェブ構築者のためのシンプルさ:ついつい見落としがちだが、プログラマだって人間だ。ツールのユーザビリティが向上すれば、喜んでくれるだろう。もちろん、彼らなら複雑なAPIを理解できるだろう。だが、わざわざ彼らの時間を浪費する必要はあるまい。
(情報公開:私は、わずかな比率のYahoo株、また、それより少し大きな比率のALOM Technologies株を保有している)
2001年10月14日