FlashとWebベースアプリケーション

46件のFlashアプリケーションのテストから、ウェブベースの機能が持つ刹那的な性質に関係して、基本的な問題がいくつかわかってきた。そのいくつかは、古くから GUI について語られている真理を再確認するものであるが、一方で、ユーザーエクスペリエンス(UX)の集合体としてのネットの新しい性質を反映したものもある。

インターネットは常に変化している。主な用途は電子メールとウェブの閲覧であるが、機能性指向のアプリケーションも増えてきた。新しい機能を提供して、もっとユーザの役に立ててもらうのが狙いだ。こういったアプリケーションの多くは Macromedia Flash で開発されている。なぜなら、従来のウェブページは、本来、記事の閲覧を目的として発案されたものであって、データオブジェクトの操作という新しい目的にはあまり適していないからだ。

標準的なウェブページと従来のブラウザを使って、ウェブ化したアプリケーションを提供することも可能だ。だが、それはすなわち、20 年にわたる GUI の進歩を無視して、70 年代の IBM 3270 以降姿を消した非同期的なインタラクションに逆戻りすることである。不可能ではない(現実に存在する)が、ユーザビリティ面ではよくない。

ではどうしたらいいのだろう? GUI の中に、新しい機能を埋め込むのだ。 昔からある Apple Macintosh や Microsoft Windows 用パッケージソフトのように。Flash によって、デザイナーはインターネット向けの GUI を創造し、インタラクションスタイルを構築して、閲読とブラウジングの範囲を超えた機能をサポートする手段を手に入れた。

可能性への期待は高い。だが、ユーザビリティの世界では、技術的性能の向上とデザイン上の選択肢の増大は、ユーザの首をしめるロープが増えることを意味する。デザイナーはたいていいつでも、新機能を使い過ぎてしまう。新しい技術を人間のニーズに見合った形でうまく取り入れる方法が見つかるまでには、しばらく時間がかかるのだ。

初期のアプリケーションを対象にユーザ調査を実施すれば、ユーザビリティ上の落とし穴がわかり、ベストプラクティスを定式化したデザインガイドラインができ上がる。これによって、適応のスピードも進むだろう。私たちが実行したのは、まさにこれである。合衆国、ドイツ、それに日本のユーザを対象に、46件の Flash アプリケーションをテストした。その結果得られたFlashアプリケーションのための教訓は、117のユーザビリティガイドラインの形に要約されている。

なかでも、もっとも大きな発見は次のものだろう。現在のウェブベースのアプリケーションは短命であり、即座に理解できるようになっていない限り、ユーザは失敗する。ウェブアプリケーションのユーザビリティ要件は、従来のソフトウェアよりもはるかに厳格なのだ。

成功率

Flash アプリケーションの利用能力を算定するにあたって、部分的な成功をどう扱うかで2種類の異なったやり方をとった。機能成功率(feature-success)算定では、参加者のFlash アプリケーション利用能力を審査して、タスクの一部でも達成できたら評点の一部を与えるというやり方をとった。他の部分で失敗があっても(その結果、タスクの全体は達成できなくても)構わない。タスクの一部を切り抜けるのに他人の助けを求めた場合、その部分については評点を与えないが、自分で判断できたものについてはすべて評点を与えた。この機能ベースの評価手法でいくと、46種類のデザインを通算したユーザの平均成功率は64%だった。

私たちは、タスク成功率も算定した。ここでは、たとえいくつかの機能が使いこなせても、タスクが達成できないかぎり、評価はまったく与えなかった。実際によく見受けられたことなのだが、もし、ホームページからアプリケーションへ移動できなければ、タスク評価はゼロとなる。その他のステップでの失敗も同様に扱った。この計算の背景にある考え方は、全か無かである。より厳格なこの算定手法でいくと、46種類のデザインを通算したユーザの平均成功率は45%となった。

2002年の段階でのFlash アプリケーションユーザビリティをもっともよく体現しているのは、どちらの成功率だろうか?どちらとも言い切れない。だから、両方算定したのだ。

タスク成功率は、全体的なユーザ体験が意図したとおりのものになっているかどうかの指標として最適である。そこでは、従来の HTML ウェブページとFlash の機能性が一体となっている。なにしろ、ユーザの隣に親切なユーザビリティ調査員が座っているなんてことはめったにないのだから、難関を乗り越えられなければ、サイトを立ち去るのが普通だろう。そもそも、アプリケーションにたどり着くのにすら難儀をしているユーザも珍しくなかった。私たちの補助がなかったら、彼らはアプリケーションにたどり着けなかったわけで、今回の調査で部分的に成功した機能があったとしても、普通の使い方をしていたらまったく使えなかったはずなのだ。

機能成功率(部分的なタスク達成を評価する)は、ホストとなるウェブサイトとは切り離した Flash 単体でのデザイン品質を評価するのに最適だろう。

ウェブベースのアプリケーションは刹那的

そもそも、Flash は実装用のテクノロジーに過ぎない。従来のデスクトップアプリケーションを作ることもできるので、その場合には、従来のコンピュータソフトウェアと同じユーザビリティ問題を抱えることになるだろう。だが、テスト対象となった 46 の Flash アプリケーションは、形こそ違えウェブベースのものだった。

今回の調査で成功率が低かったのは、対象となった Flash アプリケーションが、ウェブベースだったことと直接の関係がある。いくつかの点で、ウェブアプリケーションは従来のアプリケーションとは違う。ユーザは、それらを縁の薄い一過性の出会いと見ているのだ。この考え方を、私たちは「刹那的利用」(ephemeral use)と呼んでいる。

  • ウェブベースのアプリケーションは、通常、ウェブサイトの構成要素のひとつである。それはすなわち、ユーザは、従来の情報志向のウェブページから、Flash アプリケーションによる機能指向のツールまでナビゲートしてこなければならないということを意味している。今回の調査では、この最初のステップで失敗するユーザが全体の 36 %を占めた。タスク達成率が低いのは、これも大きな理由だ。
  • アプリケーションが見つかったら、今度はそれが何をするものか理解しなければならない。何ができるのかがわかって、しかも一般的なタスクの流れと構造が理解できなければいけない。これはどんなソフトウェアにも当てはまることだが、従来のソフトウェアには、基礎を固めるための初期トレーニングがつきものだ。また、ソフトウェア製品の多くはなじみのあるもので、その基本的な目的は、インストールする前からユーザにもわかっている。企業向けシステム(イントラネットベースの経費申請や勤怠表など)やデスクトップソフトウェア(PowerPointなど)のいずれにも、このことが当てはまる。これとは対照的に、ユーザは、ウェブサイトからいきなり Flash アプリケーションに投げ込まれる。予想すらしていないことが多い。
  • ウェブベースのアプリケーションでは、ユーザにとって高度な機能を理解しようというモチベーションは低い。なぜなら、そのアプリケーションが、業務上必要不可欠な要素になっているケースは少ないからだ。これとは対照的に、従来型のソフトウェアの利用を求められる職種は多い。職務そのもの(例えば、航空便予約代理店など)といえる場合もあるし、従業員の職務成果をみるための提出物を生産する(Microsoft Office はこの目的で用いられることが多い)のに用いられる場合もある。
  • 同じ Flash アプリケーションを再訪するユーザはめったにいない。だから、特定の GUI を累積学習することによるメリットはほとんどない。対照的に、従来型のソフトウェアは、同じユーザが繰り返し利用することが多い。

リモートのサーバでウェブベースのアプリケーションをホストしているので、自分のデータを操作するにも、ユーザ登録したり、サインインしたりしなければいけない恐れがある。ユーザデータの保存と取得にともなって、問題はさらに複雑になる。従来型のソフトウェアデータと違って、Flash は、ユーザのマシン上に保存できない。

これら課題の背景にある基本的な問題は、ウェブベースのアプリケーションが、サーフィンの途中で出くわす刹那的な体験に過ぎないという点にある。そのアプリケーションはたぶん一度しか使わない。よって、その場のユーザ体験がすべてなのだ。ウェブベースのアプリケーションに何度もアクセスする場合であっても、その体験は断続的で、しかも短い。

これらのアプリケーションが刹那的だからといって、それがすなわち Flash の基本的特徴だとは思わないよう、ここで強調しておくべきだろう。これは、今回の調査の時点で Flash で実装されていたアプリケーションの特徴なのだ。しかし、ウェブのおかげで従来型ソフトウェアよりも幅広いアプリケーションが発達した。この多様性と体験の幅広さは好ましいものだが、ユーザがそれぞれのアプリケーションに注ぐ時間は短くなっている。このことは、ユーザビリティとも密接な関係がある。

刹那的アプリケーション(すなわち Flash アプリケーションの大部分)は、シンプルでなければならい。機能が多すぎてはいけない。簡略化するためには、開発者がユーザのニーズを通常以上によく把握している必要がある。なぜなら、膨大な機能を詰め込んでユーザに投げつけておいて、意味のあることを達成するのに何が必要かは、彼らに勝手に判断してもらうというわけにはいかないからだ。

刹那的アプリケーションはまた、機能の全貌と基本的なタスクフローが、すばやくつかめるようになっていなくてはならない。この種のアプリケーションは、だいたいにおいて、初めてのユーザがアクセスしてくることが多い。彼らには、それをどう扱ったらよいのかの概念モデルを組み立てる必要がある。だが、一方では、そのアプリケーションを探索したり学習したりするのに、長い時間を投資してくれる見込みはない。彼らには、そこへ二度と戻ってこないことがわかっているからだ。

Flash アプリケーションへのナビゲート

Flash アプリケーションの多くは、ほとんどのユーザに避けられるような形でリンクされている。今回の調査では、合衆国のユーザのうち、Flash エリアへの誘導が必要だったのは全体の 36 %に達した。ということは(調査員の助力がなければ)、通常はユーザの 1/3 が、リンク先の Flash アプリケーションを起動すらできないということになる。そのアプリケーションがサポートしているタスクを達成したいという意思があっても無理なのだ。

アプリケーションを見つけられないユーザが多かったため、今回の調査でのタスクベースの成功率は劇的に低下した。基本的に、アプリケーションの所在をわかりやすくしておくだけで、Flash アプリケーションへの投資効果は 56 %も向上できる。もちろん、アプリケーションそのもののユーザビリティも向上させていただきたいが、もしそうでなくても、全ユーザがアプリケーションを確実に見つけられるようにしておくだけで、利用率は向上できるのだ。

どうしてこんな問題が起こるのだろう? デザイナーは、自分の作った Flash アプリケーションにご満悦で、ウェブページ上でそれを強調しすぎてしまう。Flash アプリケーションへのリンクが、広告と見まごうばかりの巨大でカラフルなグラフィックになっていることが多い。これまでの長年のテストからもわかるとおり、ウェブユーザは、広告のように見えるものは無視する傾向を強めている。従来のウェブサイトをナビゲートしているときには、バナー無視が役に立つ。有益なリンクに集中し、広告を無視できるからだ。残念ながら、カラフルなプロモーションリンクの先に Flash アプリケーションのような有益なものがあっても、まず見つけられない。そのエリア内の文字には目を通さないからである。ましてや、クリックなんかするわけがない。

Flash アプリケーションへのリンクがアニメーション付きの単語になっているものもあった。より目立つようにして、そのアプリケーションの様々なメリットを喧伝しようというわけだ。このテクニックは、なおいっそう裏目に出る。動いたり点滅したりする言葉は、役立たずの広告に違いないとユーザは固く信じているからだ。この信念はおおむね当たっていて、動くテキストを無視できるようになると、ユーザは多大な時間が節約できる。

私たちの調査から実例を2つ挙げよう。

  • Pergo社では、ラミネート式の床面材を販売している。同社のウェブサイトで、新しいキッチンの床面を貼るのに必要な資材をユーザに探してもらった。ひとり、特にかわいそうなユーザがいた。敷設面積を聞いてくるページで、彼は毒付きながら手を使って計算するはめになったのだ。格闘中のフォームの真横には巨大なアニメーショングラフィックがあって、そこには「ルームプランナー」「部屋の大きさ設定」「長さ」「幅」といった言葉が流れていて、部屋の大きさを計算するアプリケーションへのリンクになっていた。そこへ目をとめなかったこのユーザは気の毒だったが、他の被験者も同様だった。Flash デザインのユーザビリティデータを実測するために、私たちはやむなくアプリケーションの起動法を教えてあげた。
  • フィリピンのHaribon Foundationは、環境や絶滅寸前の動物に関する良質の情報をたくさん保持している。このウェブサイトで、ある特定の地域に住んでいる絶滅寸前の鳥を探してもらった。Haribon のページすべてにカラフルなボックスがついていて、フィリピンの主要保護区のインタラクティブ地図の存在をうたっていたにも関わらず、このリンクをクリックした人は誰もいなかった。その他に鳥類について調べる手立てはすっかり試してしまったので、やはり、私たちが指示して、アプリケーションへのリンクをクリックしてもらわざるを得なかった。そうしないと Flash デザインガイドライン作成用のデータが収集できなかったからである。

問題ははっきりしている。ユーザは、過剰に喧伝されているものは何であれ避けて通ろうとするのだ。広告のように見える場合は特にそうだ。また、彼ら自身としては、インタラクティブなツールに特段の興味はない。興味があるのは自分が抱えている問題だけであり、それを解決するためのストレートなタスクフローを見つけることでしかない。彼らは複雑そうなもの、コンピュータっぽいものは、何であれ無視してしまう。

解決策も簡単だ。作成した Flash アプリケーションがどんなに高度なものであっても、それをユーザに言わないこと。標準的なハイパーテキストリンクを使って、単にウェブサイトからそのアプリケーションにリンクしておけばいい。そのアプリケーションが普通に見えれば見えるほど、そして、ユーザの問題へのソリューション(あなたの技術レベルを誇示するものではなく)に見えれば見えるほど、クリックする人は増えるだろう。そのアプリケーションが何をするものか、はっきりわかるようなリンク名にしておくこと。過大な脚色は不要。インタラクティブだとか、Flashで作られているとかいったことは、ユーザに言う必要はない。

オブジェクト指向の GUI デザイン

Flash アプリケーションを使ってユーザセッションをしていると、多くの面で、1980 年代のことを思い起こさざるを得ない。最初の Macintosh 用アプリケーションをテストした頃の話だ。Flash 調査で見つかったユーザビリティ問題の多くは、基本的な GUI 概念に関わるものである。たとえば、操作用パーツを見てすぐわかるようにし、つかみやすくしておくといったことだ。Flash ガイドラインのひとつは、1980 年代の知見の事実上そのままのコピーである。それは、クリックゾーンは大きめにとっておく、ということだ。そうしないと、いくらユーザがクリックしたつもりになっていても、そこは、コンピュータ側で厳密に定められたクリック可能ピクセルではないということが起こる。

初期のプレゼンテーションソフトの調査とも通じる結果があった。描画キャンバス上に新しいオブジェクトを作成する際には、他のオブジェクトとずらして置いた方がいい。そうしないと、隠れてしまうものが出てくる。それ以外の Flash ガイドラインは新しく、従来のソフトウェアには決して見られないものだ。たとえば、音やアニメーション付きオブジェクトに関するユーザビリティ問題が数多く見受けられた。プラス面(変化と方向を示すのに利用できる)とマイナス面(気が散ったり、イライラしたりする元になるし、障碍者に対しても有害)が両方ある。初期の Flash アプリケーションは、明らかにウェブデザインの悪いところを受け継いでいるようだ。

あるユーザビリティ問題については、特に強調しておく価値があろう。非標準的なスクロールバーのせいで、選択肢の多くを見落とすユーザがいたことだ。これは、いくつかのアプリケーションで見られた。スクロール用部品は、アプリケーションデザインにおける標準的なユーザインターフェイス要素であるから、ユーザの期待に添った形にデザインしておくべきだ。非標準的スクロールバーの中にも、機能しているものはあった。特筆すべきは Tiffany のサイトである。見た目が簡素化されているためにスクロール用部品は見落としようがない。かなり小さくて、GUI の定石にそむくものではあったのだが(こういった違反点は別のユーザビリティ問題を引き起こしているのだが、少なくともスクロールバーはみんなが使っていた)。一般的に、非標準的なスクロール部品は見落とされることが多い。よって、隠れた選択肢リストへは絶対にスクロールしていけない。

ウェブユーザビリティを超えるデザインガイドライン

ブラウザ独裁時代に終りがきたというのは、いいニュースである。私たちはもはや、ハイパーテキストのナビゲートと記事の閲覧に最適化された枠組みの中に、機能と機能指向のデザインを無理やり詰め込む必要はなくなった。悪いニュースは、インターネットベースのアプリケーションに移行するにあたって、デザイナーは、ウェブデザインについてわかったことと合わせて、新たなガイドラインにも配慮する必要があるということだ。

つきつめていうと、ウェブユーザビリティのほとんどは、顧客の疑問に答え、要点をおさえ、派手な演出に目を奪われないことに集約される。ウェブサイトがユーザの悩みのタネになるのを防止できれば、得るところは大きいだろう。

アプリケーションには、はるかに多くが求められる。単に疑問に答えるだけではすまない。適切、かつ適量の機能が必要で、それをユーザの力になるような形で提供しなくてはならない。デザインの課題としては、単なる情報提供よりもはるかに難しい問題である。刹那的アプリケーションとしての Flash アプリケーションには、新しいレベルの統一ユーザビリティ基準が必要だ。シンプルさに注力することがカギになるだろう。ウェブデザインの始めの 10 年でユーザのニーズを理解することの重要性が明らかになったが、なおいっそう深い理解が求められるのだ。

くわしくは

Flash およびウェブベースアプリケーションのユーザビリティ改善のための117 のガイドラインを含む 188 ページのレポートの完全版がダウンロードできる。ユーザテストセッションからのハイライトを含む53 分間のビデオ補助資料も用意してある。

2002年11月25日