情報採餌理論:
Googleのせいでサイトの滞留時間が縮まった理由

良質な情報のありかが簡単にわかるようになると、個々のウェブサイトへの滞留時間は短くなる。これは、オンライン情報システムにおいて人々がどのように行動を最適化しているかを分析した結果わかったことの一端である。

情報採餌理論は、1993 年以降の人間-コンピュータ・インタラクション研究から登場したもっとも重要な概念である。Xerox PARC で Stuart Card と Peter Pirolli、およびその仲間の手によって開拓された情報採餌理論は、オンラインで情報を収集する人間の行動を分析するために、食物を採集する野生動物とのアナロジーを用いている。

ウェブ・ユーザはジャングルの野獣のような行動をとるというと、冗談に聞こえるかもしれない。だが、この主張を裏付けるデータかかなりあるのだ。動物たちは、かなり高度に最適化された公式にもとづいて、どこで、いつ、どのように食べるかを決めている。動物が数学的な計算をしているというわけではない。だが、最適化されていない行動は、結果として飢餓に結び付くのである。それゆえ、後の世代では、こうした行動を取ったものの子孫は少なくなる。何千もの世代を経たのちには、最適化された食物採集行動をとったものだけが残るのだ。

ウェブの使いこなしに関して、人類に課せられた進化論的なプレッシャーはそれほどのものではない。だが、人間は基本的に怠惰であり、これは生存に関係する特性かもしれないのだ(必要のないところでは頑張らないこと)。いずれにしろ、人は最小限の努力で最大限の恩恵を受けたがるものだ。このために、情報採餌理論がオンライン・メディアの分析に有効なツールになるのだ。

情報嗅覚: その経路の成功率を予測する

情報採餌理論のいちばん有名な概念は情報嗅覚である。ユーザは狙った獲物の成功率を匂いで予想するのだ。欲しい結果に関係する手がかりが、その道筋にあるかどうかを判断するのである。情報消費者(informavore)は、(メタファーを組み合わせていうなら)匂いが「新しく」なっているうちは、クリックし続ける。匂いはどんどん強くならなくてはいけない。そうでないと、みんなあきらめてしまうだろう。目的に達するまでに必要な労力の予測に見合う程度に進展は速くなければならない。

情報嗅覚から得られるデザインの教訓のうち、もっとも明らかなことは、リンクとカテゴリーの記述を明確にして、行った先にあるものが何か、確実にわかるようにしておくことである。ナビゲーションの選択肢がいくつかある場合、獲物への道筋がはっきりわかるようにし、その他の道には食べ物がないことが見て取れるようにしておくのがベストである。

造語は使わないこと。また、自社のスローガンをナビゲーションの選択肢にすることも避けよう。いずれも狙ったアイテムの匂いがしないからである。平明な言葉づかいにしておくことは、検索エンジン対策の点でもベストである。検索とは、ユーザの思い付いた言葉と、あなたのサイトにある言葉を文字通りマッチングさせるものだからだ。

第二に、ユーザがサイト内を深堀りするにしたがって、各ページに、それが食物への道程であることをはっきりと示しておこう。言い換えると、現在位置、および、それがユーザのタスクにどう関係するものなのかをフィードバックすることである。

食餌選択: 何を食べるか

ある森に 1 匹のキツネと 2 匹のウサギがいる。大きいのと小さいのだ。キツネはどちらを食べるべきか?答えは「大きなウサギ」とは限らない。

食べるのを大きいほうにするか、小さいほうにするかは、ウサギの捕まえやすさによる。大ウサギを捕まえるのがとても難しいなら、キツネとしては、そっちはほっといて、小さいほうを捕まえて食べることに専念するのがいいだろう。大ウサギを見かけても、見逃すのである。捕獲の確率が低すぎて、狩りで消耗するエネルギーに見合わない。

ウェブサイトとウサギの大きな違いは、ウェブサイトは捕まえられることを望んでいるということだ。飢えた野獣にとって魅力的なサイトに見えるようにするには、どんなデザインにすればいいのだろう?

戦略は大きく 2 つある。あなたのコンテンツを栄養価の高い食事であるように見せ、しかも、簡単に捕まえられるという信号を出しておくことだ。コンテンツが良くても見つけにくければ去ってしまう。見つけやすくても、カロリーが貧弱なら、結果はやはり同じだ。

このふたつの戦略にもとづいて、ホームページにサンプル・コンテンツを陳列し(栄養価を訴求)、ナビゲーションと検索機能を目立つところに掲示しておく(探しているものが簡単に見つけられることを訴求)ことをお勧めする。食餌選択はまた、スプラッシュ画面や空疎なコンテンツを避けよ、という昔からのアドバイスの理由付けにもなっている。これらの要素は、やっかいな思いをするわりには、見返りにやせ細ったネズミしか手に入らないことをユーザに伝えているようなものだ。

区画移動: 猟場を変える時

不統一な環境では、獲物が集まるエリアがいくつか散在していることが多い。となれば、捕食者はどこで狩りをすればいいのだろう?いちばんたくさん獲物がいる区画ならどこでもいい。当然の話だ。だが、その獲物をいくらか食べてしまったら、どうする?同じ区画で狩りを続けるか、それとも他へ移るか?その答えは、となりの猟場がどれだけ離れているかによる。

次の区画への移動が簡単なら、捕食者は移動したほうがいい。今の区画の獲物を枯渇させることはない。次のごちそうが少しでも見つかりにくくなったら、もっと豊かな猟場へ移動すればいい。反対に、移動が難しければ(例えば、川を渡らなければいけないとか)、次の猟場へ移動する前に、それぞれの区画を徹底的に狩ることになるだろう。

ウェブでは、サイトが区画となり、各サイトの情報がおいしい肉にあたる。

サイト間の移動は、いつでも簡単だ。だが、情報採餌の観点からいうと、かつては同じ場所を離れないのがベストだった。なぜなら、ウェブサイトの大半はひどいもので、次のサイトに何かいいものがある確率は非常に低かったからだ。そこで、私は初期のウェブサイト・デザイナーに、次の 2 つの戦略を勧めていた。

  • 第一に、そのサイトが注目に値するものであることをユーザに確信させること。すでに述べたとおり、これはすなわち、よい情報を取り揃え、これを見つけやすくしておくことである。
  • 第二に、いったん来てもらったら、ユーザがさらにいいものを簡単に見つけられるようにしておくこと。そうすれば、他へ行かずに、とどまっていてもらえる。すべての行動は、スティッキーなサイトと滞在時間の増大という考え方に則ったものであった。

この数年で、Google は、検索結果の順位付けにおける品質を追及することで、この方程式をひっくり返してしまった。今や、ユーザにとって、他の優れたサイトを探すことは非常に簡単なことになった。

情報採餌理論によれば、よい区画を見つけるのが簡単になると、すぐに区画を離れるようになる。よって、検索エンジンでより優れたサイトが見つけられるようになれば、ユーザがひとつのサイトで費やす時間は短くなる

ブロードバンドでの常時接続の増加によって、このトレンドはますます短時間化の方向へ進むだろう。ダイアルアップだと、インターネット接続がいくぶん困難だったので、大きな時間枠をとってやることが多かった。反対に、常時接続では情報のつまみ食いが多くなる。わずかの間オンラインになって、手短かな答えを探すのだ。よい面としては、ユーザの訪問頻度が高くなる点があげられる。セッション数が増えるので見つけてもらえる機会も増えるが、他のサイトへ去っていくのも早くなるだろう。

以上、区画移動モデルからわかるように、サイト訪問はどんどん短時間化するだろう。Google と常時接続によってもっとも有効なデザイン戦略が変わってしまった。現在の戦略は、次の 3 つのコンポーネントからなる。

  • 短時間訪問をサポートする。軽食になること。
  • ユーザの再訪を促すニュースレターをリマインダーにするなどの仕組みを利用する。
  • 検索エンジン対策を強化する。訪問頻度向上のための手法は他にもある。ユーザのニーズに即応することを考えることだ。

情報消費者のナビゲーション行動

情報採餌理論には、ユーザ行動を分析する上で興味ある比喩や数学的モデルがたくさんある。もっとも重要なのは、やはりナビゲーションの費用対効果分析の概念だろう。ユーザは、次の 2 つの問題について、トレードオフをしなくてはならない。

  • 特定の情報群(例えば、ウェブページ)からどんな利得が期待できるか
  • その情報を見つけ出し、消費するためのコストはどれくらいになりそうか?(コストは、時間と労力で測るのが普通だが、マイクロペイメント・システムにおける金銭的要素を含む場合もある)

いずれの問題にも予測がからんでいる。その元になるのは経験であったり、デザイン上の手がかりだったりする。つまり、ウェブサイト・デザイナーは、利得に対する期待を高め、コストの見積りを削減するようなデザインにすることで、ユーザの分析を左右することができる。最終的には、もちろん、そのサイトで実際に提供しているものが重要だ。だが、第一印象が実りあるものでなければ、経験を積んだリピート客は獲得できないだろう。

区画移動モデルが示すとおり、ユーザは、個人的指標に照らしながら、単一のウェブサイトにとどまらない、より広範なシステムの中での費用対効果を最適化していく。個々のモデルから得られる詳細な洞察に加えて、費用対効果分析の適用という面では、ユーザは自分勝手で、怠惰で、冷酷であるということは、覚えておいたほうがいいだろう。

2003年6月30日