ユーザビリティ専門家の収入はいかほど?

ここ数年間、ユーザビリティ専門家の収入は、経験がある場合で安定、駆け出しの場合はやや下降線をたどる、という傾向にある。

ユーザビリティ専門家の収入は、2000年頃のドットコム・バブル時代にはかなり変動したものの、以後、徐々に安定してきたようだ。1998年以来、多くの調査が行われてきたが、その実像はデータや知見を横断的に検証してみなければ見えてこない。

活動拠点を米国とするユーザビリティ専門家のうち、以下の2タイプに分類される方々の平均年俸をグラフにして以下に示す。

  • 5年の経験を積んだユーザビリティ専門家
  • 実務経験を持たない初心者

1998年から2005年のユーザビリティ専門家の給与水準
1998年から2005年のユーザビリティ専門家の平均年棒。2006年の米ドル価値相当に調節してグラフ化。出典: HFI (2003), NN/g (2001), Peak Usability (2002, 2004), SIGCHI ( 1998), UPA ( 2000, 2005)

調査結果の生データをそのままグラフにしているわけではない。数理モデルを用いて生データを解析し、この種の調査につきものの方法論的不確実性を排除するものとした。とは言うものの、2本のグラフはまだ近似値を表しているに過ぎない。たとえば、5年の経験を有するユーザビリティ専門家が、2004年に限って、その前後の2003年や2005年よりも極端に高い報酬を受けていたとはとても考えられないからだ。赤のグラフに見られるこの隆起部分は、数理モデルでも調整しきれなかった不自然な数値なのである。

一般的な傾向

木を見ず、森を見ることにしよう。いくつかの傾向が見えてくる。

  • 初心者でも、バブルの頃は信じられないほどに高い収入を得ていた。IT企業は当時、血の通った人間であれば誰彼構わず、雇用したいだけ雇用していた。
  • 経験を積んだ専門家にも、バブルの頃はかなりの額が支払われていた。ただし、数年とたたないうちに相当落ち込むこととなった。
  • 初心者と経験者とでは、以上のとおり若干傾向が違う。そのため、経験に対して支払われる対価は上昇してきている。経験を1年積むごとに、年俸はおよそ$5,000上がる。2001年には、およそ$3,000だった。

最近の平均年俸は、初心者で$55,000、5年の経験を積んだ専門家で$80,000である。(米国以外ではもっと安くなる。)

経験の価値

経験のない人材とある人材との差は、ますます大きくなってきているはずだ。ユーザビリティの仕事に求められるスキルは経験値に強く依存する。大学の授業で、ユーザビリティ調査を正しく実施する方法が詳しく教えられることはまずない。初心者が良い仕事をできるようになるまでには、相当の指導が求められることになるのが通例だ。

デザインに潜む問題点をユーザの行動観察から推し量る力は、経験を積むことで劇的に伸びる。ユーザの行動は驚くほどに一貫している。多くのユーザを観察することで、ユーザがとるであろう行動をより正確に判断したり、推測したりできるようになる。だから、経験に相当の対価が約束されるのだ。

初心者の給与水準が下降傾向を示すようになっているのはなぜか。背景には、二流ユーザビリティ企業の出現がある。給与水準の低い国々で、スキルの低いスタッフを使ってサービスを提供する二流企業が増えてきているのだ。経験を積んだユーザビリティ専門家であればともかく、駆け出しの人材はいとも簡単に取って代わられてしまうのだ。

1年の経験に対する$5,000の対価は、ユーザビリティ専門家としてのキャリアが浅いうちの話で、経験年数を重ねるごとに、その額は$2,500まで下がる。これは、もっともなことだ。駆け出しの頃ほど、伸び率は高くなると考えられる。大学で身につけてきた悪い習慣をなくし、社会で仕事をこなせるようになったとき、つまりユーザビリティ専門家と呼ぶに相応しい人材が新たに出来上がったときこそが、大きな対価を得るときである。

1998年から2005年の7年間を振り返ってみると、ユーザビリティ専門家の収入は非常に安定している。バブルのおかげで跳ね上がった分を差し引くと、長期的な変化の傾向として見られるのは、初心者の給与水準がわずかに下向きになっていることくらいだ。多くの大学が、ユーザビリティの実務スキルを有する学生を社会に送り出せるようになってきていることが背景にあると考えられる。ユーザビリティ業界の人材確保は、いまだ難しい。しかし、以前に比べれば数はずいぶんと増えてきた。

2006 年 5 月 8 日