AIに備えて自らのデザインスキルを再定義しよう

AIによってこの業界が変化する中、デザイナーは5つの原則を受け入れなければならない。

生成AIが雇用市場に影響を与えている。ハーバードビジネススクールやドイツ経済研究所、イギリスインペリアルカレッジロンドンビジネススクールの研究者によると、2022年後半にChatGPTが公開されてから8カ月後、自動化しやすい職種に対する需要は21%減少したという。デザイナーとして、どのようにすれば我々はこうした目まぐるしい変化を乗り切り、時代に取り残されずにいられるのだろうか。

デザイナーのタスクの自動化と拡張

ここ数十年にわたり、テクノロジーは多くの分野でタスクの進め方を変化させてきた。会計士を例にとると、肩書きこそ変わらないものの、1954年の会計士が日々行っていたタスク(たとえば、紙に書いて手作業で合計を計算する)と2024年のタスク(たとえば、高度なスプレッドシートで合計を自動計算する)は、明らかに異なっている。

デザインタスクは、自身の役割、目的、専門性によってさまざまであり、ワークショップの進行、ソリューションのアイデア出し、ワイヤーフレームのデザイン、デザインシステムの実装、要件定義書のレビューなどが含まれる。

Erik Brynjolfssonは、AIが人間のタスクに影響を与える主な方法として、自動化と拡張の2つを特定した。

「AIによる仕事の進化」と題されたこの画像は、タスクが自動化(グレーの丸)から拡張(白の丸)へと移行し、その間に人間とAIの協働(黒の丸)が混在していることを示している。これは、AIがタスクを自動化から人間の能力強化へと移行させる様子を強調したもので、E. Brynjolfssonによる図を改変したものである。
既存のタスクの一部が自動化される一方で、これまでは我々の能力では実現できなかった新しいタスク群が実行可能になろうとしている。

タスクの自動化

AIは、特定のタスクをより効率的に実行することを可能にする。

今日でも、MiroやMuralなどのツールは付箋を自動的に分類し、ChatGPTはEメールの下書きを作成することができる。AIモデルがさらに高度化するにつれて、自動化はその範囲とレベルの両面で進んでいくと考えられる。

自動化とは、タスクを完全にAIに任せることを意味するわけではない。むしろ、AIの能力を人間による監督と組み合わせることで、デザイナーが効率的に業務を行えるようにするものだ。

また、自動化は一夜にして実現するわけではない。タスクによって自動化のペースはさまざまだ。ゆっくり進むものもあれば、急速に進むものもあるが、自動化の進展という方向自体は変わらないだろう。

タスクの拡張

AIは、従来は我々の専門分野の範囲外だったタスクを実行可能にするだけでなく、我々の専門領域における可能性そのものも広げてくれる。これは、デザイナーにとっては、データアナリストを介さずに複雑なデータパターンを解釈したり、開発者なしでプロトタイプをコーディングしたり、画面をデザインすることからそれを生成するルールの定義へと業務内容が移行していくことを意味する。さらに、我々の既存の能力が、まだ探求しはじめたばかりの方法で強化できるようになってきているということでもある。

デザイン分野における競争の激化

自動化と拡張という2つのプロセスは、徐々に、かつ、並行して進行している。あるタスクにかかる時間が短縮されたり、同じ時間でより多くのタスクをこなせるようになることで生産性が向上し、それと同時に、我々の能力の新たな分野への拡張も進んでいくだろう。

デザイナーが自分の専門分野以外のタスクも担うようになるにつれて、労働市場での競争はさらに激化していく。一人の担当者がより多くの業務をこなせるようになれば、そのぶん必要とされる人数は少なくなるからだ。

競争力と時代に合った価値を保ちつづけるために、デザイナーは自分のスキルセットに対する考え方を変える準備をしておかなければならない。

原則1:戦術的なタスクはアウトソースし、戦略的思考を自分で担う

すべてのタスクが同じ重みを持つわけではない。

ほとんどのデザイナーは、日々の業務の中で戦術的なものから戦略的なものまで、さまざまなタスクをこなしている。たとえば、あるプロジェクトの中で、UXデザイナーは、プロダクトビジョンの定義やユーザーフローの作成(戦略志向のタスク)を行う一方で、デザインアセットの整理やデベロッパー向けの仕様書の作成(戦術志向のタスク)も行う。

「デザイン業務の範囲」と題されたこの画像は、戦術的なデザインタスクから戦略的なデザインタスクへの連続性を示している。デザインアセットの整理、デザインシステムのメンテナンス、仕様書の作成といった戦術的な業務から、ステークホルダーの調整の促進、ユーザーフローの作成、プロダクトビジョンの定義といった戦略的な業務へと移行していく。
UXデザイナーは、アセットの整理や仕様書の作成といった戦術的な作業と、プロダクトビジョンの定義やステークホルダーの調整の促進といった戦略的な活動とを両立させている。

同様に、サービスデザイナーは、引き継ぎ文書の作成、プレゼンテーション資料の作成などの業務(戦術志向のタスク)と並行して、ロードマップの作成や、全体的な指標の定義(戦略志向のタスク)を行ったりする。

「サービスデザイン業務の範囲」と題されたこの画像は、サービスデザインにおける戦術的タスクから戦略的タスクへの流れを示している。戦術的なタスクには、引き継ぎ資料の作成やプレゼンテーション資料の作成が含まれ、戦略的なタスクには、サービス指標の定義やロードマップの策定が含まれる。ジャーニーマップの作成やコンセプトのプロトタイピングといった活動は、その中間に位置し、両者をつなぐ役割を果たす。
サービスデザイナーは、引き継ぎ資料やプレゼンテーション資料の作成といった戦術的な作業と、サービス指標の定義やロードマップの策定といった戦略的な活動の両方を行っている。

UX作業の一貫性と価値を維持するには、自動化するタスクを正しく選択することが重要だ。

生データの整理や簡易モックアップの作成といった戦術的なタスクは、自動化に適している。予測可能なパターンに沿って行われるタスクだからだ。こうしたタスクを(適切な監督のもとで)AIに任せれば、作業時間を何時間も削減でき、デザイナーはより影響度の高い活動に時間と精神的リソースを注げるようになる。

一方、デザインビジョンの策定のような戦略的なタスクを自動化することにはリスクが伴う。こうした活動には、微妙な判断力や状況認識力、部門間の連携、そして人間の行動パターンに対する理解が必要だが、現時点において、AIでこれらを再現することはできないからである。

戦術的な業務には自動化を取り入れつつ、戦略的思考を意図的に育むことで、デザイナーは、あらかじめ定義されたプロセスの単なる実行者ではなく、思考のリード役や意思決定者としての役割を維持することができるようになるだろう。

原則2:AIに対する信頼と精査のバランスをとる

AIがワークフローにおける信頼できる協働者になるにつれて、AIがもたらす恐れのあるバイアスを評価する必要が出てきている。AIシステムは、トレーニングに使用されたデータとその背後にあるアルゴリズムの品質に依存しており、それらは多くの場合、現実世界に存在する限界やバイアスを反映しているからだ。

AIの出力に疑問を抱くことなく過度に依存してしまうと、そうしたバイアスを固定化してしまうリスクがある。その結果、デザインしたソリューションが、多様なユーザーベースのニーズからかけ離れたものになりかねない。こうした危険を避けるために、デザイナーやリサーチャーは、潜在的な盲点を検討し、AIが生成した知見を精査して、そのようなAIの出力を実際のユーザー調査と照らし合わせて検証する必要がある。

AIは、我々の批判的思考力を補完すべきもので、それに取って代わるものであってはならない。批判的思考を持ちつづけることによって、AIによって自分たちの業務を拡張しながら、公平で包括的で意味のあるユーザーエクスペリエンスを生み出すという我々の責任を確実に果たすことができるだろう。

原則3:ユーザーとAIエージェントのためにデザインする

AIエージェント(あるいはアシスタント)は、我々がデザインするエコシステムにおいて、今後ますます能動的な参加者となっていくだろう。こうしたエージェントは、我々に代わってシステムとやりとりを行い、意思決定し、タスクを実行するようになり、その結果、製品やサービスの提供方法は根本的に変化していくだろう。このような変化を受けて、デザイナーは、ユーザーインタラクションだけでなく、我々の分野におけるより広範なダイナミクスそのものを再考する必要がある。

こうした将来に備えるには、人間のユーザーとそのAI代理者という2種類のオーディエンスのためにデザインするという複雑さを受け入れる必要がある。人間のユーザーに対しては、デザインにおける明確さやアクセシビリティ、移動のしやすさを優先するとよい。一方、AIエージェントは、プログラムを通じて、あるいは人間と同じインタフェースを介してシステムにアクセスする可能性があるので、彼らには、構造化されたデータや予測可能なインタラクションパターンといった、人間の場合とは異なるエクスペリエンスの側面を優先する必要があるかもしれない。 

たとえば、診療予約システムをデザインしているところを想像してみてほしい。ユーザーに代わって予約を行うAIアシスタントは、システムに空き時間を照会し、サービスの詳細を理解して、人間の介入なしに予約を確定する必要がある。こうしたAIアクターがユーザーに代わってサービスの内容をどのように評価・やりとり・最適化するかを考慮することで、仲介者としてのAIの役割が拡大していることを認識しながら、我々のシステムが人間のニーズに応えることを確実にすることができる。

原則4:チームの拡張を受け入れる

拡張と自動化という概念は、タスクだけでなくチームにも適用される。AIを搭載したツールによって、チームの能力が従来の枠を超えて拡張していくからだ。デザイナーがデータ分析を行い、デベロッパーがUIを作り、アナリストがコードを書けるようになるのである。

今は不可能とみなされているような方法で、他部門のチームメンバーがあなたの専門領域に関与できるようになる一方、あなた自身も彼らの領域に対して有意義な貢献ができるようになる世界を想像してみてほしい。こうした職能の重なりが広がることで、思いもつかないような数多くの可能性が開けてくるだろう。

私は、職能の重なりが進むことで2つの重要な変化が生じると予測している。組織の境界が再定義されて、本質的な異部門協働が可能になるはずである。

組織内の境界線の引き直し

チームの拡張は、組織内の部門間の境界の見直しにつながる可能性がある。この変化のあり方は、技術的要因(AIツールの進化など)と文化的側面(各チームの組織内での存在意義など)の両方に依存する。こうした組織の境界の見直しは、当初は、各部門が領土拡大のために競争するゼロサムゲームのように感じられるかもしれないが、組織の変化にうまく対応し、政治的な駆け引きにも対処できるように心構えをしておこう。

本質的な異部門協働の実現

より楽観的な見方として、これまでにない部門連携の可能性を思い描いてみてほしい。特に大規模言語モデル(LLM)に基づくAIツールは、専門外の人にも理解しやすい表現で複雑なアイデアを伝える手助けをしてくれるかもしれない。また、デザイナーがAIを使って初期のデータ分析を行い、その手法や結果についてデータサイエンティストに相談して検証してもらう、ということも考えられる。同様に、デザイナー以外のメンバーがAI搭載のツールを使ってインタフェースのモックアップやインタラクションを作成する一方で、デザイナーは専門的知識を持つキュレーターとして、メンバーの成果を検証し、ブラッシュアップする役割を担うこともあるだろう。これまで、その分野特有の専門用語やツールがよく共同作業の障壁となっていた業界では、AIが普遍的な翻訳者としての役割を果たすことで、こうした障壁が取り払われる可能性がある。

「AIによるチーム内協働の変化」と題されたこの画像は、2つのコンセプトを強調している:「発展する境界」は円の周りに破線の図形が重なり、柔軟な役割と責任を表す。「領域を超えたやりとり」は円が矢印で結ばれ、異なる領域間での協働と知識の共有を象徴している。
AIは、業務における協働のあり方に対して、従来のチーム境界の発展(左)と、領域を超えた柔軟な知識交換の出現(右)という2つの根本的な変化をもたらす。

原則5:不均等な影響に対処し、ウェルビーイングを優先する

UXのデザイナーやリサーチャーは、階級、人種、性別、国籍、文化といった要素が、自分たちがデザインするエクスペリエンスとどのように交差するかを理解しようと長年にわたり取り組んできた。我々の役割は、我々がデザインするシステムが、目立つグループや権力を持つ集団、あるいは自分たちが所属する組織のためだけでなく、そのシステムに関わるすべての人々のウェルビーイングを尊重し高めることを確実にすることである(訳注:ウェルビーイングとは、国連によれば、個人や社会が経験するポジティブな状態のこと)。

AIのような、大きな技術的変化は、既存の不平等を深刻化させ、権力や発言力の乏しい人々に不均等な影響を与える恐れがある。そのため、UX専門家にとって、デザインや調査の初期段階から、公平性と包括性を組み込むことが必須になってくる。多様な視点を取り入れ、潜在的な問題を早期に特定し、自分たちの想定を厳密に検証することで、誰かを疎外するのではなく、彼らに力を与えるAI搭載システムを構築することができる。ユーザー中心デザインの担い手として、AIが公平性と善の力として機能するようにすることが我々の責務である。

参考文献

Erik Brynjolfsson. 2022. The Turing Trap: The Promise & Peril of Human-Like Artificial Intelligence. Daedalus 151, 2 (2022), 272-287. https://doi.org/10.1162/daed_a_01915

Ozge Demirci, Jonas Hannane, and Xinrong Zhu. 2023. Who is AI replacing? The impact of ChatGPT on online freelancing platforms. SSRN Electronic Journal. https://doi.org/10.2139/ssrn.4602944