『ヤコブ・ニールセンのAlertbox』発刊に寄せて
特別寄稿:『ヤコブ・ニールセンのAlertbox -そのデザイン、間違ってます』発刊に寄せて
私は、私が書き続けているAlertboxというコラムの日本語版書籍を読んでくれる皆さんを心より歓迎する。この書籍が日本で出版されるにあたり非常に喜ばしく感じているが、それには3つほど理由がある。
第一に、この書籍の刊行により、私のコラムにさらに新しい読者が増えることになるからだ。中には数年前のコラムで今では少し古くさく感じられるものもあるかもしれないが、いずれもコラムを書いた当時と変わらず当を得た内容である。ユーザビリティの原則は、コンピュータ技術ほどめまぐるしく変化するものではない。なぜなら、ユーザビリティとは人間の特性にもとづくものだからだ。人間の脳には今と5年前ではさしたる違いはないし、人間が今後10年間で今と比べてものすごく賢くなるということもない。
第二の理由は、日本は世界でもっとも重要かつ影響力の強い国のひとつであり、日本でのユーザビリティの普及には特に大きな意味があるということだ。日本においてデザインのユーザビリティが改善されれば、日本の数百万のユーザだけでなく、世界中のさらに多くのユーザのためにもなる。私自身も日本車に乗っているし、その他にも日本製の製品を数多く利用している。重要なのは、ユーザビリティとは単にウェブサイトの改善に関する問題ではないと肝に銘じておくことだ。ユーザビリティとは、あらゆる種類の製品に関して、より人間に適したものを作ろうという問題なのである。従って、日本においてユーザビリティが普及すれば、世界全体に何らかの利益がもたらされるのだ。
第三に、日本にはデザインに関して偉大なる伝統がある。日本のデザインは美しく機能的である一方で、非常にミニマリスト的な手法で表現されることも多い。私は個人的に、日本の歴史を通じて古くから残されてきた陶器や絵画などの骨董品が大好きだ。これらはアメリカや世界中の博物館でも高い評価を得ている。この偉大な伝統芸術から考えるに、日本の読者は、ユーザインターフェイスのデザインにおける「より少ないほどより多くを得られる」という私の推奨の言葉を好意的に受け入れてくれるだろうと思う。他のどの国の読者よりも前向きに。
ヤコブ・ニールセン
2006年、アメリカ、シリコンバレーにて