早く、安く、確実に! すべてを実現することが可能
早くユーザビリティ評価を終えられれば終えられるほど、デザインプロセスにもたらされる影響は大きくなる。時間のかかる手法は、年に一度のユーザビリティ検診で採用すべし。
コンサルティング業界では古くから“早く、安く、確実に! ~いずれか2つを選べ~”と言ってきた。何かを短期間でかつ安く仕上げたいならば、質を諦めなければならないし、短期間でかつ上等な仕事をしようとすれば、料金がかさむことになる、といった意味である。多くの分野で言い得てはいるものの、ユーザビリティのある重要な側面、“方法論”については含意されていない。
ユーザビリティに関しては、もっとも迅速で、もっとも安価な手法こそが最良の選択となる場合が多い。
もちろん、“良い”とか“最高”といった価値判断の絡む議論では、品質基準の定義付けが不可欠である。ユーザビリティの品質基準として、私は主に、それが世界を変えるかどうかを見る。言い換えれば、ユーザビリティが製品開発の方向性を左右し、製品デザインに目覚ましい改善をもたらさなければならないと考えている。
もう一つ、ときに関連性を持つ基準としてユーザの行動観察に基づく洞察の質と深さが挙げられる。物事の実態を探るとなれば、早く、安く、かつ確実にというわけにはいかない。深い洞察には高度なユーザビリティの手法、大規模なリサーチ、データをじっくり読み解くための十分な時間が必要になる。たとえば、日常の生活環境でユーザを観察するフィールド・スタディの実施。残念ながら、これには相当の時間とお金がかかる。
“早く、安く”を採用するのはどんなとき?
平凡なデザインプロジェクトなら、値頃のユーザビリティ手法が一番だ。事実、早く安くユーザビリティ評価を実施した方が、もたらされる影響は大きくなるのが一般的だ。なぜなら、評価結果が早く得られるため、システムの基本設計概念に変更を加えることもまだ可能となるからだ。
私がペーパー・プロトタイプを強く薦める理由はここにある。細部のデザインや実装にリソースを割く前に、画面デザイン案を2つ3つ試作し、ユーザを5人集めてユーザテストを実施してみよう。さらに、ユーザテストを何度も 繰り返すのだ。1回のテストが安くなればなるほど、予算が許すかぎり何度もユーザテストを繰り返すことができるようになる。そうすれば、ユーザのニーズをどんどん集められるようになるだろう。
中には、早く安くのユーザビリティ評価では、デザインを網羅的に検証することができないと不満を言う人がいる。しかし、これは見当違いだ。確かに、調査の規模を大きくすればその分、多くの結果が得られる。しかし、時間もかかるのでデザインに大きな変更を施すには遅すぎるという状況になりかねない。2巡目、3巡目のユーザテストで、最初に素早く実施したユーザテストでは見逃してしまっていた何かに気が付くことだってある。
年に一度のユーザビリティ検診
早く安くのユーザビリティ評価が通常は一番だが、全体を俯瞰してみることもときには必要だ。重要なプロジェクトの場合には年に一度、重要度の低いプロジェクトや進捗の緩やかなプロジェクトの場合には2~3年に一度、ユーザビリティ検診を実施しよう。
俯瞰的なユーザビリティ検診は、次の3つで構成される。
- 中立的な評価を外部の専門家に依頼すること。ユーザビリティは、外部の視点を考慮できるかどうかにかかっている。ユーザは全員、開発に関わることのない外部の人だからだ。一つの企業で長く仕事をすることの弱みは主に、やがては考え方が固着し、自分の関わっているウェブサイトがいかにも自然で、直感的に機能していると思い込むようになってしまうところにある。“直感的”に感じるとしたら、それは“すっかり慣れてしまった”ということに他ならない。誰かに新鮮な目で分析してもらえば、多くを見直すことができる。また、中立的な比較評価をしてもらえるので、相対的なユーザビリティのレベルも確認できる。同じ理由で、新しく仲間になったスタッフには、外部の視点が残っているうちに一度、あなたのデザインを評価してもらうのが良いだろう。
- イントラネットの場合、ユーザは当然内部の方々になる。企業に深く根を下ろしているがために内部視点が強くなっていたとしても、さほど大きな問題にはならない。それでも、他のイントラネットを数多く見てきた人に、中立的な視点でユーザビリティ評価を行ってもらうことには価値がある。
- 比較評価を実施して、自分のデザインと競合3つとを比べてみること。これには費用も時間もかかる。しかし、ユーザの行動について幅広い洞察を得るために、また翌年のプロジェクトに向けて戦略的な検討を行うために、比較評価は最善の方法である。あなた自身が直面しているのと同じ、あるいは似通った問題を解決し得るデザインを実現しようと、競合もたくさんの時間とお金をかけたはずだ。その投資に比べれば、どのアイディアが上手く機能していて、どれが失敗に終わっているのかを見定めるための比較評価が$40,000だとしたら、随分と安い。
- 残念ながら、イントラネットのチームは比較評価を実施することができない。代わりに、イントラネット年間ベスト10を毎年かかさずに読んで、上位10個のデザインに劣らないイントラネットの維持に努めよう。
- ベンチマーク調査を実施して、ユーザビリティの評価指標を確認し、前年度に比べてどれほどユーザビリティを向上させられたかを見てみること。定量調査はとにかくお金がかかる。その上、落とし穴も多いので方法論をしっかりと固めて臨まなければならない。長くユーザビリティに取り組んできた成熟度の高い企業でなければ、なかなか難しいだろう。
3つのステップを全て踏むとなると、大変なコストがかかる。毎年全部というのは無理でも、少なくとも一つは実施していただきたい。必ずや深い洞察が得られるだろう。そして通常は、できる限り早く、安い評価を繰り返す。そうすれば、デザインプロジェクトを軌道にのせられるだけでなく、最新のユーザニーズを常に意識することができるようになるはずだ。
2007 年 1 月 2 日