53日間のミームを撲滅せよ

インターネットやWorld Wide Webに関する新聞や雑誌の記事を読んでいると、「Sun Microsystemsの情報源によれば」WWWは53日間で倍増する、と書いてあるのをよく目にする。この情報源とは他ならぬ私のことだ。そして、その私は、もはや53日という見積りを信じていない。

残念ながら、記者(ジャーナリストであれ、Usenetの投稿者であれ)に、この数字の引用をやめさせるのはほとんど無理だということがわかった。一次情報(直接私へのインタビュー)ではなく、二次情報(初期の記事)から孫引きする人が出るに及んで、それは、独自の生命を持つようになってしまったのだ。53日でウェブが倍増するという見積りは、これで本物の「ミーム(meme)」になったことが証明された。ミームとは精神的なコンセプトであり、人口に膾炙して増殖し、創造力を捕らえてしまう。ウェブという現象をひとつの数字にカプセル化するというのは魅力あるアイデアだ。加えて、例えば、イノベーションの普及と技術の伝播に関する修正済みベース曲線といったものにもとづいた緻密な説明より、ずっとわかりやすい。人間工学の専門家として、普通なら、私は難しいものをやさしくすることに満足を感じるが、時には、もっと複雑な場合もあることを忘れてはならない。

最近出版されたハイパーメディアとハイパーテキストに関するを執筆している時、情報洪水に関する章で、私は、情報の増加をわかりやすく伝える方法を探していた。WWWで利用できるサーバの数は、53日ごとに倍増するというのは、その見積りのひとつだった。私はこの見積りを(かなり精密な図と、その他の状況分析手法と合わせて)自分の著書に掲載しただけでなく、オンライン出版に関する談話でも何度か引き合いに出した。この話は、Sunの他の人も何人か口にしている。これらの談話を記事にする際に、記者の多くが「Sunの試算によればWWWサーバの台数は53日ごとに倍増している」という形で引用したのである。こうしてミームが誕生した。

この見積りは、かなり単純なやり方で求めたものだ。私は、ウェブサーバの総数について、各種WWWロボット(ウェブを動き回って、リンクをたどってサーバ間を渡り歩くプログラム)を始めとした数多くの公開情報源から見積りを集めた。信頼に足ると思われる(もちろんこれは主観的判断である)ロボットが集めた数字の平均をとり、月ごとにウェブ上のサーバ数の見積りを出したのだ。1995年始めの時点で、1年半にわたって私はこのデータを集めて続けていた。よって、私は、ウェブサーバ数の月別見積りから成長率をはじき出すには、好都合な立場にいたわけだ。1995年1月の成長率は、年率に換算すると1万2000%だった。すなわち、ウェブサーバの数は、53日ごとに倍になる計算である。

もちろん、これほどの成長率がいつまでも続くわけはない。現在(1997年3月)、同じ手法での見積りによれば、年間成長率は333%となっている。173日ごとに、ウェブサーバの数が倍増する計算だ。絶対的な数としては、ウェブサーバの数はさらに急速な拡大を続けている。だが年間成長率は徐々に低下し、どこかの時点で、インターネット全体の成長率と同じ線に落ち着くだろう。こちらの数字は年間100%で安定していて、インターネット創設以来変わっていない。

Logarithmic curves showing the growth of the WWW and the Internet since 1991
対数軸で示したインターネット、およびWWWの成長曲線

1995年9月