技術サポートの話:
インターネットは初心者ユーザには難しい

初心者ユーザにとって、インターネットはまだまだ使いにくすぎるWebTVのような特化した情報家電なら複雑さが軽減されるが、それでもユーザエラーというリスクはかなり残ったままだ。初心者ユーザの問題に関してウェブデザイナーが考慮しておかなければならない点は2つ。

  • オープンなインターネットのためにサイトをデザインする人が忘れてはならないこと。それは、そのサイトに関してはほとんどのユーザが初心者ユーザだということだ。ウェブ上ではユーザは頻繁に動き回っている。前回あなたのサイトを訪問した時に知ったナビゲーションの作法や、その他のインタラクションルールを次回まで覚えている人はめったにいない。
  • 企業イントラネット内にアプリケーションを実戦配備するための計画には、初心者ユーザがウェブを利用できるように、明確な訓練活動を組み込んでおくべきだ。また、ヘルプデスクにも十分な人員を配備し、初心者が落ちこぼれないよう補助するための計画も必要だ。
    従業員の中にイントラネットアプリケーションを使えない人が5%いるだけでも、技術サポートスタッフは、今週、寝るひまがなくなるだろう。

さらに、ウェブソフトウェアのデザイナーは、あらゆるユーザインターフェイス行動にシンプルさを追求すべく奮闘しなければならない。インターネットの利用を全人口の100%に近づけようと思うなら、集中的なユーザビリティ工学が必要だ。

この表で示したのは、実世界で、ネットユーザから技術サポートにかかってきた電話から集めた例である。HomeNetプロジェクト(ピッツバーグでの家庭でのインターネット利用)の一環としてCarnegie Mellon大学のSara Kiesler、およびその同僚たちの手で行われた調査である。

技術サポートへのユーザの質問 本当の問題 Jakobのコメント
ログインできない パスワードを入力する時にCAPS LOCKがかかっているのに、それに気がつかない。入力した文字がユーザに表示されないからである。 フィードバックの欠如に起因する古典的なユーザビリティ問題だ。セキュリティの面から言うと、パスワードダイアログに関しては、この一般的なユーザインターフェイス法則を逸脱することもやむをえないだろう。だが、それ以外の法則は守らなければならない。建設的なエラーメッセージを出すこと。エラーメッセージを生成する際に、全部大文字になっているないかどうか、システム側が入力を判断し、CAPS LOCKがエラーの元になっているのではないかと示唆してやるべきだろう。
Netscapeがシステムから消えてしまった ユーザは、ハードウェアベンダーの技術サポート電話で得たアドバイスにもとづいて、ハードディスクを再フォーマットしてしまった。 このユーザは、ハードウェアベンダーの言うことを聞いていれば、システムレベルの機能だけではなく、システム全体が復活すると考えたのだろう。初心者ユーザには、ソフトウェアのレベルの違いも理解できないし、ウェブ閲覧には別ソフトの追加インストールが必要ということもわからない。この事例では、ユーザが複数のヘルプデスクに電話するリスクにも注目すべきだ。そこで得られるアドバイスは、ユーザの状況全体にマッチしたものではない。なぜなら、各ヘルプデスクには、ユーザ環境のごく一部しかわからないからだ。
Eメールがフリーズした ユーザはモデムをインストールしていない(コンピュータの一部として含まれていることに気がついていない) ユーザのシステムに関する概念モデルに、基本的な欠陥のあることが明らかだ。ユーザに公正を期すため言っておくが、コンピュータベンダーのTVコマーシャルで、嬉々としてモデムをインストールしているユーザを見たことがある人はいるだろうか?
モデムがダイアルしない 他の人が電話を使っている これも、ユーザのシステムに関する概念モデルに基本的な誤りがあることから引き起こされた問題だ。このユーザは、たぶん家庭内の他の誰かから、電話が使えないと文句を言われた経験がないのだろう。だが、モデムを使うのは通話と同じだということを、このユーザは理解していない。結局、モデムはコンピュータ関係のものなのだ。動作中には何の音もしない。このため、電話と関係がなくて「当然」と思ってしまうのだ。
アイコンをダブルクリックしてもアプリケーションが起動しない ユーザは、単にウィンドウを閉じただけで、そもそもアプリケーションを終了したことがない。すでに起動済みのプログラムは、ダブルクリックしても新しいウィンドウを開いたりしない。 これは古典的なユーザビリティ問題で、システム全般のデザイン時に修正されていてしかるべきものだ。すでに起動しているアプリケーションがダブルクリックされたら、それは前面に出てくるべきなのだ。もしウィンドウがまったく開いていないのなら、新規のまっさらな文書を開くべきだ。ウェブそのものとは何の関係がないが、ユーザにとっては「ウェブが動かない」と考えるのも無理からぬ面がある。

これらの実例を見て笑うのはたやすい。このコラムの日付がたまたま4月1日になっているので改めて言っておくが、この実例は事実だ。システムに不慣れなユーザは、実際にこういう行動を取ったのである。さらに、これらのユーザは、特に頭が悪かったわけではない。コンピュータの経験を欠いただけの、ごく普通の人たちである。

ウェブのユーザインターフェイスを開発する際には、ぜひこれらの実例を心にとめておいてほしい。インターネットが毎年2倍の成長を続ける限り、経験1年未満のユーザが、常に50%存在することになる。あなたのユーザの中にも、この手の疑問を持つユーザがある程度いるはずだ。あらゆるエラーの可能性を、デザインから取り除いたというのでない限りは。

インターネットの利用は、長い鎖をひっぱるようなものだ。ひとつでもリンクが切れれば、試み全体が崩壊する。熟練ユーザなら、鎖の中のリンクの見方を知っているから、壊れたところを見つけて、そこを迂回するために他のやり方をいくつか試してみるということもできるだろう。鎖の構造を知らないユーザは、引っ張ったのに何も出てこないと思うだけである。問題はユーザのコンピュータの設定、モデム、話中の回線、ISP、インターネット、相手側ウェブサイト、あるいはそこに至るまでの手順説明が不明瞭でわかりにくいせいなのかもしれない。すべてが完全にうまくいくのでない限り、初心者ユーザにとって復活のチャンスはない。長期的には、もっと建設的なエラーメッセージを出し、簡単に問題を解決できる方法を提示できるような、優れた自己診断システムを作らなくてはならない。短期的には、初心者ユーザ向けのウェブソリューションの開発者は、ユーザインターフェイスに磨きをかけて、ホコリひとつ残さないくらいに磨き上げておく必要があるだろう。

1997年4月1日