10の累乗:
ユーザーエクスペリエンスにおける時間スケール

ユーザーインタフェースのデザインには0.1秒から10年以上まで数多くの異なる時間枠があり、そこには各々、固有のユーザビリティの論点がある。

ユーザーエクスペリエンスの分野には、そのバージョンの『パワーズ オブ テン』(10の累乗)*がある。我々にとって、物が10倍以上に大きくなったり、10分の1以下に小さくなったりすることはあまりない。つまり、たいていのユーザーインタフェースの物理的大きさはほぼ同じである。なぜならば、人間の身体との連携が必要だからだ。例えば、BlackBerryのキーボードはPCのキーボードの約5分の1の大きさだが、10分の1になってしまうとうまく機能しないだろう。そして、壁サイズのディスプレイを除けば、PCのものよりも10倍以上大きなインタフェースはない。

* Powers of Ten:Ray & Charles Eamesによる1968年制作のドキュメンタリーの古典。

しかし時間という「四次元」で考えると、ユーザーエクスペリエンスはたくさんの10の累乗にわたって機能している。

0.1秒

知覚心理学の現象の多くが、この時間スケールで起きている。

Gitte Lindgaard博士の率いる研究チームが発見したのは、わずか50ミリ秒間、すなわち20分の1秒間見ただけで、人はウェブページの視覚訴求について、おおよその判断ができるということだった(50ミリ秒は0.1秒の半分に過ぎないが、「10の累乗」の分析の目的にはおおよそかなっている)。

Lindgaardの研究では、テスト参加者には0.05秒間、複数の画面をさっと0.05秒間ずつ見せたが、その後で彼らはそれぞれのデザインの魅力の多寡を見分けることができた。ここで重要なのは、このやり方は現実の利用時にユーザーがウェブページに実際に臨む方法とは違うということを了解しておくことだ。1つめの理由としては、ページというものは画面上にちょっとの間だけ出て、その後、消えてしまうものではない。それどころか、1秒以上にわたって(運が良ければ、さらにもっと長く)表示される。2つめには、人はそのページについてどうするかを決める前に、数秒間、そのページを眺めて過ごすものだからである。

それでも、この研究がまさに示しているのは、人は認知できるかどうかの限界においても、簡単な視覚的印象を非常に素早く得ることができるということである。

もし、ユーザー自身の行動が直接起因して画面上で何かが起きているのだとユーザーに感じてほしいのであれば、0.1秒がその応答時間の限界である。 例えば、拡張するメニューの上をクリックして、0.1秒未満でその拡張した部分を目にすれば、あたかも自分がそのメニューを開いたかのように感じるものである。ページが現れるための変更状態が0.1秒以上続けば、反応が「瞬間的」である感じはなくなり、代わりにコンピューターがメニューを開くために何かをしているように感じる。

したがって、直接操作していると思い込ませるためには、ユーザーインタフェースは0.1秒よりも速くなければならない。

アイトラッキング調査で追跡される視線の停留時間のほとんどは0.1秒そこそこである。事実、アイトラッキング調査を実施した際に人々が最初に気づくのは、人間の目というのはウェブページやその他の視覚刺激の上をなんという速さで移動するのかということである。ユーザーがものを見る時間というのはごく短い。これがコンテンツユーザビリティにおいて明瞭さが重視される大きな理由である。

1 秒

入力に対して0.1秒以上1秒未満でコンピューターからの応答があるとき、我々はその間にコンピューターが結果を表示しようとしているように感じる。ユーザーは多少遅いとは思っても、1秒間は進行中の一連の自分の考えに集中したままでいる

このことが意味するのは、1秒の応答時間の間は、たとえそれが(自分とコンピューターの間の)二方向のインタラクションであることに気づいてはいても、ユーザーはそのインタラクションをコントロールしているという感覚を保ちつづけるということである。逆に、応答時間が0.1秒のとき、ユーザーは単に自分自身で何かをしているように感じるのである。

ウェブユーザビリティに対してこのことが意味するのは、自分自身で自由にナビゲートしているようにユーザーに感じさせるには、新しいページは1秒以内に表示しなければならないということである。それが少しでも遅くなると、彼らはコンピューターに引き留められているように感じ、容易にはクリックしなくなってしまう。

ウェブの初期の時代には、このようなダウンロード時間を達成することは不可能だった。このため、ガイドラインの多くがページビューをできるだけ減らすようにアドバイスしていた。当時は新しいページに進むのは愉快なことではなかったのである。そうすると1秒以上かかっていたわけだから。

今日では、広範囲で利用できるブロードバンドによって、1秒未満のダウンロード時間を達成することはほとんど可能であり、間違いなくその値を目標とすべきである。今の時代、大きな画像や重い「ページの重さ」(ダウンロードするキロバイト数)が主要な問題になることは少ない。現在では、デザインを膨れ上がらせたりサーバーを遅くしたりする過剰なウィジェットやその他のダイナミックエレメントによって、応答時間が遅くなることのほうが多い。

(また、特に地方や発展途上国ではいまだにダイヤルアップを使っている人もいることを覚えておくことは重要だ。モバイル機器も接続速度は遅い。したがって、ウェブサイトのモバイル専用バージョンには真剣なダイエットが必要なことが多い)。

10秒

1秒経つと、ユーザーはしびれを切らしはじめ、反応の遅いコンピューターを自分が待っていることに気がつく。待ち時間が長くなればなるほど、彼らのイライラは募る。そして、平均して10秒経つと、彼らの注意持続時間は限界に達する。その時点で、ユーザーの心はあたりをさまよいはじめ、そして、コンピューターがようやく次の画面を読み込んだときには、これまでのインタラクションを容易に振り返るに足るだけの情報を短期記憶に保持できなくなっている。

10秒以上待たされることで、流れは途切れる。一旦、別のことを考えはじめると、ユーザーはサイトを離れてしまうことが多く、今までの流れをもう一度再現してみようとは思わない。

また、10秒というのは、出来の悪いページから離れるかどうかを決める際に、ユーザーが検討に充てることの多い時間でもある。

ユーザーのページごとの平均滞在時間は約30秒であるが、彼らの経験が増すほど、1つ1つのウェブページに割く時間は短くなる。インターネット上では人々は我慢しない。瞬時に楽しませることが出来なければ、彼らはいなくなる。

1分

簡単なタスクについては、ユーザーがおよそ1分以内で終わらせられるようにするべきである。定期預金の口座から当座預金の口座にお金を移すといった基本的なタスクに対して、1分を大きく超える時間がかかるような使いづらいサイトはいずれ見捨てられるだろう。

同様に、たいていのインターネット動画は1、2分以内に収めるべきである。というのも、人というのはインターネットサーフィンによるワクワクとした気分のときに、それより長い時間、何かを受動的に見たくはないものだからだ。

ウェブサイトでの滞在時間の大多数は約2~4分間である。

10分

10分というのはウェブサイトの滞在時間としては長いだろう。例えば、ある事例で、我々は25のサイトにわたるB2Bの購買行動についてのユーザー調査を追跡したことがある。そこで最も長かった滞在時間は7分だった。

1時間

ユーザビリティ調査は1時間から2時間の間のものがほとんどである。なぜならば、それ以上長くかかるテストに来てくれるようなユーザーをリクルートするのは難しいからである。実際、子供でテストしようとするのでない限り(彼らの場合は1時間が限度である)、我々はテストの時間を90分以内に設定することが多い。人は1、2時間も経つと疲れてしまうのである。

人はウェブでのたいていのタスクを1時間かからずに終わらせる。ある調査ではEコマースでの購入の半数はユーザーがそのウェブサイトに到着後、28分以内に起こっていた。もちろん、それ以外の半分はより長い時間数のところに分布していた。日にちを置いた複数回の訪問による購入もそこには多く含まれていた。

1日

カスタマーサービスへのリクエストに対する返答時間の最大値は1日である。それは、購入や住所変更のような自分の行なったことがきちんと届いたかどうかをユーザーが疑い続けなくてすむように、トランザクション通知メールや確認メッセージを1分以内に送ることになっていても変わらない。

先ほどとの違いは、カスタマーサービスには必ず人が介入するとユーザーが思っていることである。したがって、1分以内に返答がなくても、彼らはコンピューターが壊れたとは思わない。より迅速なサービスというのはいまだにもちろん喜ばれるのである。

ユーザーの多くは決まった情報源を毎日習慣的にチェックする。(この行動はモニタリングと呼ばれる)。したがって、もし確実に続けられそうなトピックなら、Eメールニュースレターを毎日発行するというのはうまいやり方かもしれない。(しかしながらご注意を。あまり動きのないトピックを扱っているのに発行回数が多すぎると、購読解除のお願いをする羽目になるだろう)。

1週間

週に1回(あるいは月に1回や年に1回、季節や休暇、納税申告に応じて)習慣的にチェックする場合もある。ソーシャルネットワーキングをどのように利用しているかという我々の調査では、FacebookとTwitterは毎日習慣的に利用される傾向があったが(中にはそれ以上の人もいる)、MySpaceとLinkedInは週ごとにチェックされる傾向にあった。

さらに調べたり、大きな決断が必要な場合、ユーザーの思考は徐々に進行することから、タスクの完遂に1週間かそれ以上かかることはよくある。したがって、どんなウェブサイトも、たとえ1回1回の訪問がたった数分であっても、全体のプロセスにはずっと長い時間がかかっている。

このことが意味するのは、サイトは、例えば、前回の訪問時にユーザーが行なったことを記録するなどして、再訪問の行動をサポートしなければならないということである。

週単位や月単位の行動はラボでのユーザビリティテストには持ちこめない。そのため、我々はそれらについては、ダイアリー調査などのより実地に基づいた方法論を通して調査をすることが多い。

1か月

ビジネスのプロセスは個人の意思決定よりもずっと長い時間がかかることが多い。なぜならば様々な人々に共通の理解を持たせる必要があるからである。B2Bサイトでも企業のコラボレーションでも、最初にアクションを起こしてから作業を完了するまでには1ヶ月以上かかるのが通常である。

1年

1年ほどウェブサイトを利用すると、人は、そのサイトがどのように機能するかについて何らかの知識を持つ熟練したユーザーにレベルが上がる。このような専門的な知識を構築するには長い時間がかかる。なぜならば、ユーザーのウェブサイトへの取り組み方は、表面的に出たり入ったりするようなやり方だからである。1回あたりの訪問時間は短く、目的を持って新しい機能を探し出したり、スキルを構築したりするための努力を彼らはほとんどしないのである。

にもかかわらず、頻繁に利用するサイトについて、人々は次第に間違いなく何かを学んでいく。これこそがなぜAmazon.comのたいへんに複雑な製品ページがうまくやりおおせているかの理由である。Amazonのページは私がたいていのサイトに推奨するよりも多くの機能で散らかっているが、顧客の多くはAmazonのサイトを長年使ってきているので、数え切れないほどの機能に対応するのに必要なバックグラウンドを持っているというわけだ。

組織の変化にはたいてい何年もかかる。例えば、ある企業がユーザビリティの成長の8つの段階において、次の段階に進むには、2~3年かかることが多い。

10年

Unixのような複雑なシステムに関わる深い専門的知識をユーザーが形成するにはほぼ10年かかる。したがって、通常学ぶシンプルな機能をまず理解するために、その学習曲線は何年にもわたって続く。その最初の10年を通して、人々はシステムを隅々まで徐々に探検して、スキルをゆっくりと構築していく。

データは何十年も残ることが多く、その寿命は、そのデータにアクセスするために人々が利用する個々のユーザーインタフェースよりもずっと長い。このことが意味するのは、ユーザーの古いデータを理解し、それを新しいシステムに移すことを手助けする移行ツールが必要だということである。例えば、写真のシェアサイトでは古い写真をインポートするためのツールをユーザーに提供すべきである。いずれ、こうしたサイトは、ものすごい量の何十年も前のデータのアップロードをうまく処理する必要が出てくるだろう。

100年

組織の変化に何年もかかるとしたら、社会の変化には数十年、場合によっては100年近くかかることもあり得る。それが、コンピューティングの多くの側面を我々がなぜいまだに予想できないでいるかの理由である。例えば、コラボレーションシステムによって、都市の人口が減ることはあり得る。また、どっぷり浸かるつながったものから、より短く表層的で細切れなものに情報が変わることで、人々がより難しい概念を学び、勉強する能力を失い、教育が弱体化する可能性もある。

我々はまだ、100年間有効なユーザーインタフェースを持っていない。というのも、人はまだ、生涯にわたったコンピューターの利用を経験していないからである。しかし、いずれ、これは現実になる。多くの人が小さな子どもだったころからコンピューターを利用しはじめる時代に入って、既に20年が経つ。そして、ウェブやその他のコンピューターに関わる活動が高齢者の間にますます広がるであろうことは確実である。

この2つのトレンドを合わせて考えると、生涯にわたってコンピューターを利用したり、あるいは人が今以上に長生きしたりするようになれば、100年にわたってコンピューターを使用したりする人もゆくゆくは出てくるだろう。それが何を意味するかって? それについては80年後に議論しよう。