参入障壁としてのユーザビリティ
ウェブユーザには年々忍耐力がなくなってきている。新しい操作を学んだり、プラグインをダウンロードしたり、遅いダウンロードに耐えるといったことができなくなってきたのだ。すぐに満足が得られるサイトでなければ、どこかよそへ行ってしまう。
ユーザーに忍耐力がないということは、新しいウェブサイトを立ち上げるのがそれだけ難しくなったということを意味する。どんなものであれ、新たに余計な学習時間が必要になるということがわずらわしいからである。ユーザビリティが参入障壁になるのだ。ユーザが数秒で理解できなければ、新しいサイトは失敗するだろう。
私たちが最近助言した2種類のまったく違ったプロジェクトでも、新しいサイトが直面するユーザビリティ障壁ははっきり見られた。
- あるサイトは、非常に安定した分野のサイトで、基本的な機能はよく知られていて、すでに一定水準のサービスがウェブ上にいくつか存在している。サイトをテストする際にも、ユーザは1、2分ほどで「これじゃあ、時間を使う値打ちはない。もしこれがテストでなければ、このサイトはやめて、Xに戻るね」といって、競合サイトの名前を挙げた。ユーザによって出てくるサイトの名前は違ったが、テスト中のサイトについて学習するよりは、すでに知っているサイトに誰もが戻りたがった。私の判断では、そのサイトXはぜんぜん使いやすくないのだが、すでにユーザは、お気に入りのそのサイトの使い方を苦労して身に付けてしまっている。
- 別のサイトでは、まったく新しいタイプのサービスを提供していた。インターネットがあって初めて提供できるこれまでにないサービスだである。私の判断では、そのサービスは多くの人の役に立つ可能性があり、ネットワーク経済のすばらしい実例だと思った。だが、テストでは、これまでやったことのないことをやると、どんないいことがあるのか、そのホームページからは理解できなかった。それ以降のページを調べてみることもなく、彼らはサイトを離れてしまった。
どんなウェブサイトであっても、成功したいと思うなら非常に高いユーザビリティが求められるというのが私の結論だ。残念ながら、現在のインターネット起業ブームの中では、よいデザインがおろそかになっている。ウェブマーケティングには重要な点が2つある。
- まずはあなたのサイトに来てもらうこと。広告予算というのは、このためにある。
- サイトに定着させ、一見客をレギュラーユーザにすること。ユーザビリティ予算は、このためにある。
ウェブサイトでのビジネスは、2つの数字の積で表される。
訪問者数×転換率
ビジネスを2倍にするには、いずれかの数値を倍にすればいい。転換率(そのサイトへの乗り換え率)はたいてい1%程度なので、私なら、まずこれを向上させるために投資するだろう。
このアドバイスとは反対に、インターネットの起業家たちは、たいてい広告費にユーザビリティの300倍ほどの金をつぎこむ。結果として、こういった新しいサイトはユーザをつなぎとめることができず、長期的には成功できない。ベンチャー投資家はポートフォリオ会社に予算配分を聞いて、十分なユーザビリティプロセスのないサイトに投資して資金を無駄にしないようにすべきだ。
ユーザビリティ理論によれば、ユーザに忍耐力がないせいで、ユーザビリティが参入障壁になるということは予見できたはずだ。
- ユーザビリティのひどい古いサイトが、新しいサイトに勝つというのは不公平に思えるかもしれない。だが、人間は学ぶということをせず、たとえ最初のうちとてもわかりにくいものだったにしても、すでに知っていることにしがみつくものだ。
- 同様に、たとえそれが革命的な新機能であっても、そのために十分な時間を割いてくれないというのは、不公平なように思える。だが、12年前から、積極的ユーザーのパラドックスということが知られている。マニュアルを読んで勉強したり、システムを設定したりして「非生産的」な時間をすごすよりは、いきなり飛びついて何かやってみたくなるものだ。
ユーザの短気さは、解消しない。ウェブが成長し、より多くのサービスが利用できるようになり、より多くのドットコム企業のコマーシャルが電波にのるにつれ、ユーザーはますます短気になるだろう。となれば、私のアドバイスはこうだ。
すでに確立したカテゴリーへ新規参入する場合、少なくとも、先行する主要サイトの2倍のユーザビリティを備える必要がある。幸い、ほとんどの既存サイトは非常に悪いので、この目標を達成するのはたやすい。
新しいカテゴリーを創造しようというサイトは、ホームページ上でそのポジショニングを鮮明に提示し、そのサイトを利用することでユーザにどんなメリットがあるのか、どうしてそのサイトでなくてはならないのか、に集中しなくてはならない。価値提案の記述は2行に納めなくてはならない。それ以上ではだめだ。AutoTrader.comのようなサイトなら、これは難しい話ではないだろう。言うべきことはこれだけだ。「インターネット最大の中古車在庫リストを検索しよう。総数125万台以上。毎日更新」これ以外のサイトは、ユーザの注目を集めるために、さらに努力が必要だ。他に1000万ものサイトがあるのだから。私に、どんな得があるのだろう?
1999年11月28日