UXデザイン用AIツールはまだ実用段階ではない:
最新状況

我々の調査と評価によると、UXデザインのワークフローを実質的に向上させる、デザインに特化したAIツールは今のところほとんどない。

AIツールがUXデザイナーにすぐに取って代わることはないだろう。現在入手可能なLLMベースのツールはまだ、デザインプロセスのステップを省略できるものではないからだ。

調査概要

AIに関する大げさな広告宣伝が横行しているため、どのツールや戦略が「今すぐ」UXに役立つのかを見極めるのは容易ではない。

そこで、UX実践者がAIを業務に取り入れる有益で具体的な方法を見つけるために、我々は2024年初頭にUX実践者(リサーチャー、デザイナー、マネージャー)を対象にデプスインタビューを実施した。

参加者には、業務で現在どのようにAIを使用しているかを説明してもらい、実際に使用している様子を見せてもらった。本調査では、生成AIおよびAIと銘打たれたツールの利用に焦点を当てている。調査参加者は、AIのアーリーアダプターであり、AIの強力な支持者で、業務でさまざまなAIツールをしばらく前から利用している人たちである。

我々が話を聞いたUX実践者の中で、AIを業務で利用できる範囲が最も限られていたのはUXデザイナーだった。AIベースのデザイン製品は数多く存在するが、UXデザイナーが積極的に活用しているデザインに特化したAIツール、または、今回の参加者が他者に勧めたいと思うようなものを、我々は1つも確認できなかった。

デザイナーはAIを利用しているが、デザインには用いていない

UXデザイナーは、ChatGPTのようなテキストベースのAIツールをブレインストーミングやアイデア出しのために積極的に活用していた。しかし、我々が話を聞いたプロのUXデザイナーが本格的に使用しているデザイン専用のAIツールは1つもなかった。

AIツールは不足しているスキルを補うことができるので、UX実践者はそれによってUXチームのメンバーやステークホルダーと協力することなく作業を続けられるようになる。たとえば、UXデザイナーはテキストベースのAIツールを駆使すれば、コピーライターに連絡してその返答を待たなくても、プロトタイプ用のUXコピーを生成することができる可能性がある。

また、AIツールはブレインストーミングのパートナーとしても有用だ。というのも、AIツールは機能の名称や調査方法など、絶対的な精度や信頼性が不要な事柄について提案してくれるからだ。我々の調査によると、UXデザイナーはデザイン以外のさまざまな業務にAIを活用していた。たとえば、メールの作成、情報伝達方法の構築、困難なタスクを管理可能な単位に分割して整理することなどである。

UXデザイン用の既存のAIツールは不十分である

UXデザイナーへのインタビューから得た知見と、既存のAIベースのUXデザインツールに対する我々自身の評価を合わせてみると、我々の評価とインタビューしたUX実践者の印象は一致していた。デザイン用として宣伝されている既存のAIツールは機能的に十分ではなく、その大半はデザインのワークフローで使える状態にないのだ。

我々が話を聞いたUXデザイナーは、(Figmaプラグインのような)デザイン専用のAIツールを積極的には利用していないと述べていた。そして、人気のプラグインやAIツール(次章で具体例を挙げる)についての我々によるエキスパートレビューでも、そうしたツールはデザインプロセスにあまり価値をもたらしていないことが確認された。

これらの新しいツールをめぐる問題は、中~大規模の組織に導入されるとその影響が深刻になることが多い。ある参加者は、Midjourneyでエージェントを設定しようとした際に、カスタマーサポートや使用方法のガイダンスが不足していることに特に失望していた。さらに、自分のチームがデザインにAI生成コンテンツを使用した場合の著作権の問題から生じる倫理的および法的リスクも危惧していた。

「これらのツールが勝手に利用しているコンテンツを、過去数十年にわたり制作してきた人々がいるわけです。出典を明らかにせず、ライセンス料や使用料を支払わずにそうしたコンテンツを利用するのは正しいことでしょうか。私たちは、倫理上問題のないその利用方法を検討しているところです」。

現在、AIツールは、特にUXデザインの文脈においては、解決する問題を探しているようなものである。UXデザイナーの業務の効率や生産性を低下させる問題や摩擦はいろいろとあるが、それらの問題に対する解決策を生み出そうとしても、その解決策が必ずしもAIに行き着くとは限らないだろう。

AI開発者は、既存のデザイン上の課題や非効率な部分にAIを適用することで、デザインプロセスにAIを組み込みたいと考えている。しかし、ツールをワークフローに継続的に組み込むには、そのツールとのインタラクションの結果は常に一貫したものでなければならない。

だが、残念ながら、現時点ではAIベースのツールは常に同じ結果を出すとは限らない。たとえば、ChatGPT 4にGoogleのマテリアルデザインコンポーネントを使用したフロントエンドデザインの例を求める1つのプロンプトで、3つのまったく異なるデザインが生成されるという結果が出た。出力のこうした多様性はアイデア出しには有益だが、一部のAI製品が謳うエンドツーエンドで再現可能なAIベースのデザインソリューションにはあまり有用ではない。

同じプロンプト3回でChatGPT 4が生成した3つのHTMLファイルのスクリーンショット

AIの不透明で信頼性に欠ける性質が、このテクノロジー固有の特性なのか、それとも今後の製品で克服できるのかはまだわからない。現在のAIチャットボットは、大規模言語モデルに基づいており、確率的に応答を生成している。統計的なサイコロの振り出しの結果に依存して、プロンプトへの応答を構成する言葉の順序を決定しているからである。

現状のAIツールは、テキストベースであろうとなかろうと、デザイン上の既存の問題を解決する手段としては、一貫性がなく、信頼性に欠け、実用性に乏しい。しかし、

AIツールのプロンプトエンジニアリング、コミュニティの知識、実装が進歩するにつれ、これらのツールが可能にする制御と精度の向上が見られるかもしれず、それによって専門的なワークフローにおける信頼性と信用性のしきい値を超える可能性がある

UXデザイン用AIツールの例

UXデザイン用のさまざまなAIベースのツールを評価した結果、そのほとんどが現状ではデザインプロセスにあまり付加価値をもたらさない基本レベルのアウトプットしか生み出さないことがわかった。

以下では、そのようなツールを3つ取り上げる。これらのツールは、調査対象者やデザインコミュニティで頻繁に言及されていたものである。

Wireframe Designer:Figmaプラグイン

AIベースのワイヤーフレーム作成ツールは、非常に具体的なプロンプトを与えても、創造性に欠け、役に立たない一般的なレイアウトを生成することが多かった。

Chenmu WuによるFigmaプラグインのWireframe Designerの無料版は、デザインのニーズとコンテキストが与えられると、低忠実度のワイヤーフレームを生成する。このツールの限界を試すために、我々は長さや詳細度が異なるさまざまなプロンプトを用いて画面を生成した。

デザインニーズやターゲットユーザーに関する十分なコンテキスト情報を提供した場合でも、このプラグインはテンプレート化されているかのように一般的な出力しか生成しなかった。

異なるコンテキストや企業ニーズに合わせてさまざまなプロンプトを試してみても、生成される出力はどれもほぼ同じで、主な違いはプロンプトから取り込むプレースホルダーテキストの部分だけだった。また、このWireframe Designerプラグインでは、1つのプロンプトから複数のバリエーションを生成するためのわかりやすい方法も提供していないため、さまざまなアイデアを導き出すことが困難だった。

FigmaプラグインであるWireframe Designerを使って異なるプロンプトで生成された低忠実度の画面

Uizard:AI支援型デザインツール

Uizardは、AIを使用したワイヤーフレーム作成、画像生成、テーマ生成、UIコピーの作成支援を統合したAI支援型のデザインツールである。

Wireframe Designerプラグインとは異なり、Uizardではテキストプロンプトを300文字以内に抑える必要がある。Uizardの画面生成機能の出力も基本的なものだが、Wireframe Designer Figmaプラグインに比べて、より多くのバリエーションとオプションが提供されている。

UizardのAutodesignerによって生成された画面は、Wireframe Designerで作成されたものよりもプロンプトとの整合性が高かった。しかし、それでもなおそのAIベースの出力は品質にかなりのばらつきが認められた。UizardのほうがAI支援のプロトタイプ作成およびデザイン用アプリケーションとして、より有望に思われたが、そのインタフェースはFigmaのようなよく知られたデザインツールよりも使い勝手が悪かった。

Uizardの画面生成ツールは、1つのプロンプトから、選択できる5つの低忠実度のオプションを作成し、さらに結果を再生成するオプションも提供している。

UX Pilot:AI駆動型ツールキット

UX Pilotは、デザイナーが、カラースキームやワイヤーフレーム、ユーザーやステークホルダーへのインタビューの質問の作成、さらにはワークショップの計画や分析を行う際に役立つ、サブスクリプション制のAI駆動型ツールキットだ。

このツールキットはUX調査に役立つ可能性を秘めているが、デザインに特化したタスクにはあまり役立たない。たとえば、このツールキットのColor & Gradient AI Figmaプラグインは、インタフェースデザインには適していないカラースキームを生成した。

UX PilotのFigmaプラグインが生成したこの3つのカラーパレットでは、一番上のパレットが出発点としては最も使いやすい。一方、他の2つの結果はインタフェースデザインに適しておらず、大幅な調整が必要だ。

このプラグインはカラースキームのすばやいアイデア出しには適しているが、色を絞り込む際にはデザイナーが色彩理論をある程度理解している必要がある。

AIを利用するUXデザイナーへのアドバイス

今回の調査では、デザイナー用の具体的なツールを推奨することはできなかった。しかし、新たに登場したAIツールを使いこなそうとするUXデザイナーへの有益なアドバイスを数多く導き出すことができた。

アイデア出しやブレインストーミング、コピー作成のタスクにおいて、AIがもたらすであろうメリットを理解しておく。人工知能ツールは、現時点では、テキスト関連のタスクに最も効果的であり、適切なプロンプトを提示することで、アイデア出しやブレインストーミングの作業において有益なパートナーとなる。UXライティングやコピーの作成も、AIが業務を効率化できる可能性の高い分野である。

デザインタスクには既存の手法を活用する。現在のAIツールでは、ビジュアルやデザインに重点を置いたワークフローを実質的に向上させることはできない。現状では、AIデザインツールから高品質な結果を得るためには、その作業にあまりにも時間がかかるので、ツールを使用する意味が認められないからだ。ビジュアルデザインやワイヤーフレーム作成、プロトタイピングには、確立されている手法を引きつづき採用しよう。

AIを使ってユーザーデータやユーザー調査の結果、ユーザーペルソナを生成してはならない。AIを使って人工的に調査データを生成することは、倫理に欠け、人を欺く行為であり、最終製品やあなたの専門家としての評判に悪影響を及ぼす恐れがある。

AIに乗り遅れることを心配しすぎる必要はない。開発者や企業は、AIがUXデザイナーとしての体験を実質的に改善できるかどうかについてまだ模索中であり、現時点では「キラーアプリ」と呼べるようなものはない。AIツールをじっくり試しながら、最新動向を把握しておくことが大切だ。ただし、現時点では、AIツールが大きな価値をもたらすことは期待しないようにしよう。