インタラクションとは何か

インタラクションという考え方は、コンピュータを応用した機器に限らず、もっと広範な対象に適用できるものという考え方が関係者の間では一般化しているが、ではどこまでがインタラクションに関わるモノ(人工物)なのだろうか。

インタラクション(interaction)という英語はinter+actionから合成されたものであり、相互作用とかやりとりと訳されることが多い。その基本は、人間が何かアクション(操作、行動)をすると、相手側の機器なりシステムがそのアクションに対応したリアクションをする、という点にある。つまり、アクションとリアクションの対、それが場合によっては反復されるということがインタラクションという概念の基本的要件だといえよう。

コンピュータヒューマンインタラクションという研究分野では、コンピュータないしその応用機器への人間の入力と、それらの機器やシステムからの反応との関係を最適化し、自動化し、向上させてゆくことが目的となっている。この分野では、コンピュータという人工物を対象にしているために、インタラクションという概念はとてもあてはまりが良い。

それならば、逆にインタラクションというのはコンピュータやその応用機器に特有の概念なのか、という疑問が起きてくる。ISO 13407という規格では、その対象をコンピュータを応用したインタラクティブ機器と限定しているが、関係者の間の認識では、その考え方はもっと広範な対象に適用できるものだ、という考え方が一般化している。

ではどこまでがインタラクションに関わるモノ(人工物)なのだろう。インタラクティブ機器というのは、どこまでのことを指すのだろう。実は、この問題はISOの規格策定委員会の中でもいまだに議論が続いている。

一つの考え方として、情報処理的に、すなわち電子的に構成されるインタラクティビティ(対話性)だけでなく、機械的に、あるいは電気的に構成されるものもインタラクティビティに含めようというものがある。したがって、自転車のような電子的装置ではないが、レバー操作によってスピードが変化するような機械は対話機器だということになる。またスイッチのオンオフによって電灯をつける仕掛けも対話機器ということになる。この考え方に従えば、車いすも、ライターも、ボールペンも、はさみも、傘も、衣類のジッパーやボタンも、ガスレンジも、対話機器だということになる。この考え方は、インタフェースの関係者の間では、広義の対話機器の定義として、比較的受け入れられやすいものである。

では、箸や鉛筆、椅子(座面を上下するためのレバーのついていないような単純な椅子)、鍋などの、いわゆる典型的日用品(everyday product)であり、かつ機械的な仕掛けも電気的な仕掛けも備えていないものはどうなのだろう。ここに来ると議論はグレーになる。人によっては対話機器だといい、人によっては非対話機器だという。

これらのものを対話機器として含めれば、少なくとも可視的対象物はすべてインタラクティブだということになるのだが、その立場を指示する考え方は次のようなものである。これらはそれ自体の中に対話性を内包してはいない。しかし、その利用法によって、そしてまたその対象や環境との関係においてインタラクティブなのだ、というように考えられるのである。

具体的にいうと、たとえば箸は、テーブルの上に乗っている時には、何ら対話性を内包していないただの2本の棒である。しかし、それをどのように持つか、あるいは操作するかによって、食べ物を乗せたり、切ったり、刺したり、挟んだりというような効果を生じることができる。つまり特定の操作によって特定の効果が生じるわけである。その意味で、これらはインタラクティブなのだ、というようにも考えられる。また鉛筆も、それだけではただの棒にすぎないが、それを手に持つという操作によって、そして紙という対象物に接することによって、その先端を移動するという操作によって、文字や絵が描かれるという効果を発生する。その意味でインタラクティブだ、ということになる。逆の見方をすると、その持ち方が不適切だったり、紙の上をなぞるという操作を行わなければ、所期の結果を得ることはできない。このように、こうした可視的対象物は、ある意味では操作の選択性によってそれによって生じる効果を選択していることになり、その意味では対話機器、というか対話的道具、というようにみなすことができる。

私はこのような広く捉える考え方をしているが、こうした概念規定は、特にISOのような規格を制定する際に、その対象を、たとえばインタラクティブな機器である、というように限定したときには、規格対象としてどこまでのモノが含まれるのかを規定することになるため、単なる机上の空論ではなく、非常に大切な議論なのである。

公開:2001年9月10日
著者:黒須教授

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