長期的ユーザビリティのとらえ方

ISO13407に長期的モニタリングの必要性が指摘してある。何のため、長期にわたってモニタする必要があるというのだろうか。もし、人工物のユーザビリティが最初に利用した段階で決定されてしまうものなら長期的モニタリングは必要ないかもしれない。しかしユーザビリティは時間的に変化する。だからこそ長期的なモニタリングが必要だし、長期的ユーザビリティという概念が必要になるのだ。

ISO9241-11の定義するユーザビリティの概念を用いるなら、効率に関しては、少なくとも単調に上昇していくといえるだろう。ハードやソフトの性能に変化がなくても、人間は操作に習熟することができる。その上昇の勾配が大きいほど良いともいえるが、ユーザビリティは勾配だけでは決まらない。初期値があまりに低いようではいけない。したがって、ある程度の初期水準にあり、それが早期に高い水準にまで向上できるようなインタフェースの設計が求められているわけだ。

有効さに関しては、やはり習熟性が関係してくる。多少設計に不具合があっても、使っていくうちにそれを学習し、それを回避した使い方を学ぶことができるからだ。しかし、これは本来望ましいことではない。人間の適応力に過度に依存した設計は人間中心設計とはいえない。もう一つ、新しい使い方や知らなかった機能に気が付き、それを利用することでその人工物の有用性が高まる、という場合が考えられる。一般にユーザは習熟するにつれて、次第に高度な使い方ができるようになる。そうした時、熟練したユーザに対する適切な機能や使い方が用意されていること、これもまたインタフェース設計でのポイントといえるだろう。

もう一つの要素概念である満足感というものは部分的に効率と有効さに従属している。もちろんそれ以外の感性的な側面、たとえば審美性なども関係はしてくるため、満足感というのは総合的なユーザビリティの指標として重要なものである。この満足感は時間とともに変化する可能性がある。それを幾つかのパターンに分けて考えてみたい。

1. 水平

最初からほとんど変化しない。良くもならなければ悪くもならない。こうしたものは結構多いかもしれない。

2. 単調増加

時間の経過につれてだんだんと使い勝手が増してくる。たとえばFEPのカナ漢字変換辞書などは、ユーザ登録をしたり、学習機能を働かせたりすることで、時間とともに使いやすくなってくる。

3. 単調減少

時間の経過につれてだんだんと使いにくくなる。たとえばWindowsのディレクトリーの表示。ファイルが多くなるにつれて、下の方にあるファイルを選択するために、沢山のスクロールをしなければならなくなる。

4. 短期的ステップアップ

およそ一週間から一ヶ月程度使っているうちに、初期の評価よりも高い評価になり、以後その水準が維持される。最初のうち、ちょっと使い方にとまどっていた新しい携帯電話が、ちょっと使っているうちに慣れてきて使いやすくなるような場合。

5. 短期的ステップダウン

およそ一週間から一ヶ月程度使っているうちに、初期の評価よりも低い評価になり、以後その水準が維持される。最初のうちはいいなあと思っていたのに、使い始めるとだんだんと気に入らないところが出てきて印象がわるくなるような場合。

6. 長期的ステップアップ

半年以上使っていて、ある時期、その使いやすさの評価が格段に高くなる。案外事例としては少ないかもしれない。

7. 長期的ステップダウン

半年以上使っていて、ある時期、その使いやすさの評価が格段に低くなる。たとえば、ソーラー式の腕時計を春に買ったとする。夏の間は半袖だったので十分に充電されていたが、秋になってジャケットを着けるようになると、袖に隠れて充電が不十分になるような場合。

8. 上に凸

最初は低い評価だったが、それがだんだんと向上し、しかし途中からまた低くなってしまう場合。パソコンなどで、使い慣れてゆくにつれて評価は上がってゆくが、一年もたつと新製品の機能や性能に目移りし、評価が下がってしまうような場合。

9. 下に凸

最初は高い評価だったが、それがだんだんと低下し、しかし途中からまた高くなってゆく場合。事例としては少ないかもしれない。

満足度の時間的変化はこのようなパターンに分けられる可能性がある。そして、それは機能性や信頼性、習熟性など、複数の要因のグラフの合成として考えることが出来る。

長期的ユーザビリティをこのように考える時、その全体の推移を高い水準に保つためには設計の段階でどのような点に配慮すべきかを考えること、それが大切なポイントだ。もし複数の要因への分解ができ、全体的評価を押し下げる要因を改善することができれば、それによって全体的な評価を高く維持することが可能となる。

こうした意味で、長期的なユーザビリティという考え方は必要なものであるし、また長期的なモニタリングは必要な作業であるといえよう。いずれにせよ、単にそれをモニタするだけでなく、ユーザビリティ、特に満足度の水準を高く維持するために、設計段階でどのような点に配慮すればよいかを明確にすること、これが課題といえるだろう。

公開:2005年12月13日
著者:黒須教授

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