長期的利用と品質特性

  • 黒須教授
  • 2008年1月30日

ユーザビリティ、すなわち利用品質は、多数ある品質特性のひとつである。この多様な品質特性は、そのすべてがユーザによって最初から認識されているわけではなく、時間軸に添った展開がある。そして時間的に期待値から現実評価へと変化を遂げてゆく。

製品を購入する以前の段階では、多くの品質特性は期待値の水準にある。例外的に機能や性能、価格、審美性(デザイン)などは現実評価の水準にあり、ユーザは、これらの特性をカタログやネット、店頭表示などで確認することによって評価を行う。そして、これらの特性が製品購入の決定因子として大きく作用する。

それ以外の多くの品質特性は、製品購入時点では漠然としており、平均値かそれより多少高めの期待をもって水準設定されているだろう。ただしここにはブランドイメージが作用している。ブランドイメージはそれまでのそのブランドの他製品についての利用経験によって特定の水準になっており、製品購入の決定因子となっていると思われる。

製品購入時点ではよく分からない品質特性の一つがユーザビリティである。購入時点では、ユーザビリティは期待値がまだ漠然としている。しかし、その製品を使いはじめ、使い続けてゆくことによって徐々にそれが現実評価となってくる。

自分ではあまり期待していなかったことができると分かって喜んだり、関心を持っていなかった機能が実は結構使い勝手のいいものだと分かることもあるだろう。

反対に、カタログにリストされている機能を使おうとしたら、画面インタフェースの中でどうやってそこにたどりつけばいいのかが分からない、ということもあるだろう。そこにたどり着くまでの操作手順が予想より多く、効率的な作業ができないとがっかりすることもあるだろう。期待していた機能だったのに、取扱説明書を読むと但し書きが書いてあって、期待通りの使い方をするのは大変であることが分かるかも知れない。

こうしたプラスとマイナスの経験によって、ユーザビリティに関する現実評価は、利用経験を積むにつれ微妙に変化してゆく。そのため、瞬間値だけでユーザビリティを判断しようとするユーザビリティテストでは一面的な評価しかできないわけでもある。ただ、現実評価値の変化は、その機器の使い方がだいたい決まってきた段階である程度安定する。それが数日でできてしまう場合もあるだろうし、数ヶ月必要な場合もあるだろう。それは製品カテゴリーや機能の数、ユーザの使い方の多様性などによって異なる。

そのような段階になっても、信頼性や互換性、安全性などの品質特性については現実評価がまだ漠然としていることが多い。こうした特性は、何かコトが起きてみないと分からないからだ。ただ、特に問題なく推移してくれば、それなりに現実評価は高くなってゆくだろう。しかし、万一故障したり、あるいは他機種へのデータ移行の必要性がでてきたり、加熱や発火があったりすると、ドラスティックに変化する。

このように多様な品質特性に関する評価は、時間的に変動し、その(過重)累積値がそれぞれの時点での製品評価となる。それは満足度の指標ということもできる。モデル的にはそこに閾値を設定することができるだろう。その累積値が満足度の閾値を超えていれば、ユーザはその製品に満足している、ということになる。そして、製品のライフサイクルで買い換えや廃棄のタイミングに来た時点でどの程度の満足度を得ているかが、同一ブランドへの買い換えか、他社ブランドへの買い換えになるかを決定する。

このように、長期的利用においては、品質特性に対する現実評価は時間につれ、また関連イベントの発生によって変動し、各時点での(過重)累積値が満足度の指標と考えられる。また、そうした満足度の値は他製品の満足度と併せてブランドイメージの形成に影響するといえる。

なお、各品質特性に対する現実評価の(過重)累積値が一時結合の形で満足度の指標となるというのは単純モデルであり、より精緻なモデルであれば、「あの値段なのにこのざまか」といった形での複合評価も組み込む必要がある。

ここに書いた考え方の一つのポイントは、当初は機能、性能、価格などの客観的特性(製品固有の特性)が中心となっていたものが、利用開始にともなってユーザビリティのような対話的な特性(製品とユーザの相互作用に関わる特性)にシフトし、最終的には満足度という主観的特性に移行する、という点である。いまだに機能、性能、価格等の客観的特性に力を入れているメーカが多いが、こうした評価構造を頭に描きながら、最終的な評価(満足度)を高めるような対応を取るべく努力する必要があるだろう。