MaaS受容性調査(3):東京23区で自家用車は必要ない?
東京23区において、高い駐車場代を払ってでも「車を保有する価値」はあるのでしょうか。アンケートを通じて見えてきた車保有の実態について紹介します。
イードでは、生活者の視点から「必要とされているMaaSとは何か」を探るため、また都市型MaaSの受容性を明らかにするため、東京23区居住者を対象にアンケート調査を実施しました。数回にわたり、その結果の一部を紹介していきます。
- 手法
- インターネットアンケート(アンケートパネルに配信)
- 回答者条件
- 東京23区に住む15-79歳男女
- サンプル数
- 1,998s
- サンプル構成
- 23区在住者の性年代構成比と同じになるように回収
前回の記事では、東京23区における電車の利用率の高さと電車利用におけるペインポイント、そこから考えられる移動サービスの可能性について紹介しました。今回は「東京23区における車の保有」について考えるために、車の保有率や世帯年収との関係、車を保有しない理由、カーシェア利用意向などを見ていきたいと思います。
そもそもMaaSの背景には、世界中の都市で問題になっている深刻な交通渋滞と排ガス問題に対する課題意識があり、“自家用車以外の移動手段の利便性を上げることで自家用車の利用率を下げる”という発想があります。前々回の記事で紹介した国土交通省のMaaSの定義でも「マイカー以外のすべての交通手段」を1つのサービスとして捉えると明記しており、「対・自家用車」という発想があることが分かります。
MaaSは、ICTを活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を1つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ新たな「移動」の概念である。
出典:MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス) について – 国土交通省 国土交通政策研究所(pdf)
こういった背景もあり、MaaSを考える上で現状の自家用車の使われ方や必要とされ方を理解することは外せない条件です。よって23区におけるMaaSについて考える上でも、車保有の実態をおさえておくことは重要でしょう。
車を保有している家庭は約4割
株式会社イードが実施した東京23区在住者を対象にした「MaaS受容性調査」で、家庭での車の保有率を聞いたところ、車を保有しているのは4割弱という結果となりました。
この車の保有率については、世帯年収が大きく関連していました。世帯年収別に見た車の保有率が以下のとおりです。
世帯年収が高くなるほど、車の保有率も高くなります。保有率が半数を超えるのは、世帯年収1,000万円を超えてから。一方、世帯年収が1,400万円以上でも保有率は6割にとどまっており、4割は保有していないことも分かります。この結果から推測できることは、23区における車の保有には金銭的な事情が大きく関わっていそうであること、一方で金銭的な事情以外にも車を保有しない理由がありそうだということです。
なお車保有者に車の利用頻度を聞いたところ、以下の結果となりました。
「週4日以上」利用するのはわずか1割。「週2-3日」「週1日」が合わせて5割、「それ以下」が3割。つまり23区在住者で車を保有している人は、“週末しか車を使わない”もしくは“車を使わない週もある”というケースが大半であることが分かります。
23区の駐車場代の高さは、“車を保有する価値”に見合わない
車保有をめぐる金銭的な事情について、もう少し詳しく見ていきたいと思います。車を保有していない人に「車を保有しない理由」を聞いたところ、以下の結果となりました。
最も多いのが「車がなくても困らないから」。電車の利便性が高く、基本的に電車でどこへでも行けてしまう23区ならではの傾向だと言えそうです。この理由に続くのが「駐車場代が高いから」。さらに「維持費やガソリン代が高いから」「購入価格が高いから」と、金銭的な理由が続きます。この結果を世帯年収別に見たのが以下のグラフです。
どの世帯年収の場合でも車を保有しない理由1位は「車がなくても困らないから」。続いて世帯年収1,400万円以上の場合のみ、「使う機会が少なさそうだから」が2番目の理由となっていますが、(世帯年収1,000万円以上を含む)それ以外の場合は全て「駐車場代が高いから」が2番目の理由となっています。
23区内で駐車場を借りようとすると月3-4万円のケースも多く、月5万円以上することも珍しくありません。つまり絶対的に見て「駐車場代が高い」のは確かです。しかし、例えば車を毎日使うのであれば、多少高くても仕方ないと考える人が多いのではないでしょうか。
前述のように、23区では車を保有していても週に1回乗るか乗らないかというケースがほとんどです。また1位の理由のように「車がなくても困らない」環境です。こういった状況の中で、月数万円の駐車場代に見合うだけの“車を保有する価値”を見いだせないことが「駐車場代が高い」という回答につながっていると考えられます。
“車の所有”へのこだわりのなさ
では今、車を保有していない6割のうち、今後、車をほしいと考える人はどのくらいいるのでしょうか。
車を保有していない人に今後の保有意向を聞いたところ、以下の結果となりました。
「必ず保有したい」と「どちらかと言えば保有したい」、合わせて3割の人が「保有したい」と答えました。
なお今回、MaaSサービスの1つとしてカーシェアの利用意向もアンケート内で聞きました。この結果で目をひいたのが、この“車を保有したい” と答えた人たち(=保有意向者)のカーシェア利用意向です。
実に7割の人がカーシェアを利用したいと答えています。その「利用したい理由」を聞いた結果は以下です。
最も多い理由が「車を買うまでもないが、たまに利用したいと思うので」でした。
つまりこれらの人たちは、車をたまに利用したいと思っているけれどそれほど保有にはこだわっておらず、効率的に使えるカーシェアに魅力を感じていることが分かります。以前であれば車を買ったであろう人でも、今後は一度も車を購入せず、「初めからカーシェアを選ぶ」という選択をするケースが増えていく可能性がありそうです。
車保有者の半数が、カーシェアを「利用したい」と回答
一方、車保有者のカーシェア利用意向にも着目すべき結果が出ています。半数の人が、カーシェアを利用したいと答えています。
車を持っていても「カーシェアを利用したい」とは、どういうことでしょうか。こう答えた人たちの、カーシェアを利用したい理由は以下のとおりです。
最も多いのが「必要なときだけ使えるのが効率的なので」。裏を返せば、利用頻度が低いにも関わらず車を保有していることを「効率的でない」と考える人が一定数いるとも言えます。そう考えると、今後車を手放し、カーシェアにスイッチしていく人が出てくることは想像に難くありません。
全体の半数近くは、車の保有にも利用にも興味がない
なお、全体の半数を占める「車を持っていないし、ほしいとも思わない」人たちのカーシェア利用意向は以下です。
利用したいと答えたのは約3割。先に見た二つのグループと比べ、低いことが分かります。これらの人たちの多くは車の保有はもちろん、そもそも車を利用したいとも思わない“車無関心層”であると言えそうです。
23区での車の保有率は減っていく?
ここまで、23区における車の活用度の低さと、車の現保有の有無に関わらず「必要なときだけ使える」カーシェアに魅力を感じる人が多いという結果を見てきました。これらの結果を総合して考えると、今後23区においては車の保有率は減っていき、使いたい時だけ使えるカーシェアが普及していく可能性があると言えます。
MaaSとの関連で言うと、車への依存度が低い23区では、車への依存度が高い国や地域に比べ、MaaSが理想とする「自家用車以外のモビリティの活用」をスムーズに受け入れる素地があると言えるかもしれません。
東京は例外的であり、全国的に見ると車への依存度は高い
ちなみに忘れてはならないのは、これはあくまで東京23区における傾向であり日本全体の傾向ではないということです。
以下は都道府県別の車の保有率(棒グラフ)と、通勤・通学で車を使う人の割合(折れ線グラフ)を組み合わせた表です。
これを見ると、東京における車の保有率と低さと通勤時の利用率の低さは例外的であることが分かります。ほとんどの都道府県で車の保有率は8~9割にのぼっており、かつ通勤・通学の手段として車を使う人も多くいます。つまり全国的に見ると日本は車社会であり、車への依存度が高いと言えるでしょう。
23区には23区の交通事情があり、求められる移動サービスがあるのと同様、車が移動のメインとなる地方には、その地方ならではのニーズがあると言えます。今回は都市型MaaSの受容性を調べるため23区在住者を対象にアンケートを行いましたが、今後地方型MaaSをテーマにしたアンケートも行い、地方でのニーズも調べていきたいと思います。
まとめ
今回の調査では、23区においてコストに見合うだけの“車を保有する価値”が見出しづらいということが分かりました。そして、今後23区では、車保有者が減っていき、カーシェア利用者が増えていく可能性も紹介しました。
次回は、アンケートで集めた自由回答をもとに、「新しいMaaSサービスのアイディア」について考えてみたいと思います。
MaaSレポート販売のお知らせ
株式会社イードでは、生活者の視点から「必要とされているMaaSとは何か」を探るため、アンケート調査を企画・実施しました。初回となる今回の調査では、都市型MaaSをテーマに、東京23区在住者を対象としました。この調査結果をまとめたレポートを販売いたします。また、今後、地方型MaaS、観光型MaaSをテーマにした調査も行う予定です。
なお、本調査結果の一部は、第46回東京モーターショー2019で開催されたシンポジウム「CEATECリレーカンファレンス 生活者が求めるMaaSとは何か」(主催:一般社団法人 日本自動車工業会、共催:株式会社イード)で紹介いたしました(シンポジウムの模様)。
このレポートにご興味のある方は、以下のボタンから、弊社のWebサイト(iid.co.jp)で価格などの詳細をご確認の上、お問い合わせください。
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イードについて
株式会社イードは、日本最大級の自動車情報サイト「レスポンス」や、長年自動車業界の製品開発をサポートしてきたリサーチ事業、自動車業界のトレンドCASE・MaaSをテーマにキーマンが登壇するセミナーを多数企画・開催するイベント事業などを抱えており、自動車業界への複合的な知見を有しています。
これらの知見を活かし、来るべき新時代のモビリティについてみなさまと一緒に考え、より良いサービスの実現につながるようサポートいたします。