主要スタッフの確保:
ハイテク労働者の発言と行動
サーベイ調査での人々の発言を真に受けてはいけない。ハイテク労働者に、どうしてその職にとどまっているのかを尋ねたところ、実際の要因とはかなりかけ離れた回答が返ってきた。
インターネット企業にとって、いい人材を獲得し、維持することは、大きな課題のひとつだ。最近のこの業界の落ち込みにも関わらず、インターネットを理解している人材はあい変わらず不足している。
「Javaプログラマ募集、経験10年以上」などというわけのわからない募集広告を、皆さんもきっとご覧になったことがあるだろう。こんな条件では、James Goslingでさえ応募資格を満たせない。本当の問題は年数の多寡ではなく洞察力やスキルの高さであって、これこそが真の経験に結びつくものなのだ。ヒューマンインターフェイスの分野では、経験とはもっぱらその人が関わったユーザテストの数と多様性にかかっている。ユーザビリティ専門家の中には、毎週1回はテストを運営している人がいる。それ以外の人が現実のユーザに接するのは、年にわずか数回といったところだろう。
優秀なスタッフが確保できたとしよう。では、どうやって彼らを引き止めるか?
スイスのダボスで2001年1月に開催された世界経済フォーラムで、Southern
California大学のDavid
Finegold博士は、ハイテク企業での従業員定着策について興味深い調査研究を発表した。
この調査でもっとも重要な結果は、従業員がその企業にとどまる理由として答えた回答が、実際に退職を思いとどまらせている要因とはかなり異なっているということだ。取り扱う問題にかなりの違いがあるが、これ以外の調査でも同じことがわかっている。サーベイ調査での発言は真に受けないように、と私が常々警告している理由はここにある。人々の発言を鵜呑みにしてはならない。彼らの行動に目を向けるのだ。現在の会社にとどまる理由として、従業員はこういう点が重要だと言っている。
- 仕事と生活のバランス
- 仕事の保証
- 経済的見返り
- 専門的キャリアの充足
- 自分の仕事の裁量範囲
確かに。いずれも重要そうだ。
しかし、この調査によれば、評価の高い従業員がハイテク企業にとどまる理由はこういうことではないのだ。
複合的な回帰分析にかけたところ、Finegold博士は、スタッフを維持する上で、仕事/生活のバランスは何ら積極的な影響力を持っていないことを発見した。家族と過ごす時間を持ちたいと言う人はいるかもしれないが、そういう時間を与えたからといって、企業への定着率が高まるわけではないのだ。自己申告の調査は、データの出所としては間違いなく弱い。だが、問題が微妙だったり、他よりも社会的に受け入れられやすい答えがあったりすると、特に信憑性が低くなる。
個人の業績によって給与(月給とボーナスに代表される)を決めるというやり方も、従業員定着の手法としてはそれほど高いスコアを得ていない。この例外は30歳以下の男性である。経済的報酬のうちで、他のグループへの移動を抑える上で有益なのは、(ストックオプションに代表される)企業全体の業績にもとづくものだけだった。
スタッフ定着のための重要要因としては、他にもキャリア向上、イノベーションとリスクなどが挙がった。イノベーションとリスクの評価が高かったのは、ハイテク職に特有の現象かもしれない。だが、このタイプの人材を確保したいのなら、彼らに最先端の任務を与えるしかない。
2001年3月4日