2001年 イントラネット・ベスト10

2001年ベストのイントラネットは反復デザインと標準化されたナビゲーションに重点を置き、コラボレーション用ツールやコンテンツ管理システムを装備している。ユーザビリティの再デザインがうまくいくと、企業のイントラネット利用は平均で98%向上する。

1990年代には、企業はイントラネットにごくわずかな予算しか割いていなかった。従業員の生産性向上につながるまじめなビジネスツールというよりも、遊び場のように見ていたのだ。その結果、ほとんどの企業のイントラネットは、まったくの混乱というしかない状況であった。インターフェイス・デザインの標準や、統一的な情報構造、それにコラボレーションやその他の活動のためのタスク・サポートを欠いていたのである。従業員が何か探そうと思うと、毎回何時間もかかるといった有様だった。コミュニケーション、コラボレーション、それに意識の向上というイントラネットの潜在的なメリットを従業員たちが享受することはなかった。デザインがおそまつで混沌としたイントラネットのページでは、情報を探そうという気にもならなかったからである。

2001年になっても、イントラネットは一般的にそれほど変わっていない。だが、生産性向上に重点を置き、テクノロジーの元を取ろうという傾向はますます強まっている。マーケティング指向のウェブサイトは、今やほとんどが「クールなデザイン」を捨てて、シンプルさを目標に掲げている(実際にこの目標が達成されているとは限らないが)。これに比べると、イントラネットの改善は遅れている。その主な理由は、イントラネットの管理が相変わらずおろそかで、再デザインに必要な予算が不足していることだ。このため、全社的な規模でアプリケーションや大量のオンライン・コンテンツの改編ができない。

受賞したイントラネット

2002年こそは、ほとんどの企業がイントラネットをまじめに考え、そのユーザビリティを改善して従業員の生産性を向上する年になるだろうと私は考えている。このトレンドを後押しするために、私たちはデザイン年報を出版した。これには、2001年の優れたイントラネット10のケーススタディが含まれている。

  • Andersen: Business Radar 3.0
  • BC Hydro: HydroWeb
  • Cisco Systems: I-deal (tristream)
  • Fidelity Investments Canada
  • Interactive Applications Group: Community [apps]
  • Lulea 工科大学、スウェーデン
  • Pearson Technology Centre
  • Science Applications International Corporation (SAIC): ISSAIC
  • silverorange
  • 合衆国運輸省(United States Department of Transportation): DOTnet

このリストからも明らかなように、よいイントラネットはいろんなところにある。巨大企業、小企業、ほとんど予算のない大学の一部門、公共機関、それに非営利団体(Community [apps])、また国外でもいくつかの事例が見られる。実際、他の二大陸からは、他にも惜しいところでトップ10入りを逃したサイトがあった。

50以上ノミネートした中から10の受賞者を選定したわけだが、おかげで多くのデザイン年報がグラフィック的な見た目のデザインに片寄っている理由がわかった。見た目のいいデザインを選ぶのは簡単だが、表面から一歩掘り下げて機能やユーザビリティを査定しようとすると、これはたいへんな仕事になる。選定プロセスに何ヶ月もかかったのは、見た目がよいだけでなく、従業員の役に立っているイントラネットを選び抜こうとしたからである。

デザイン・プロセス:迅速かつ反復

いいニュースがある。それは、たとえ予算は少なくとも、いい仕事をし、ユーザビリティに配慮することは可能、ということだ。だが、今回受賞した10のイントラネットでさえ、リソース面の制約のせいで、私たちが推奨する完全な形でのユーザ中心のデザイン・プロセスに注力できていないという悪いニュースもある。近道を行くことは珍しくない。私たちの推奨するステップ(例えば事前のフィールド調査など)の多くが飛ばされたり、簡略化されたりしている。

ケーススタディにも示されているとおり、反復デザインの利点は明らかだ。もっとも短く、もっとも安価なユーザビリティ活動にさえ、その効果が見られる。プロジェクトチームの多くは、デザイン・プロセス上の複数のフェーズでユーザからのインプットを集めるために、リソースをふんだんに使っている。締め切り間近で予算が限られている場合でさえ、例外ではない。

例えば、ISSAICでは10分間ユーザテストを実施して、従業員からのデータを手早く集めている。従業員たちには仕事があるから、従来の何時間もかかる調査に付き合っていられない。BC Hydroでは、従業員からのフィードバックを早期に集めるために早い者勝ちゲームを実施した。プロジェクトチームの中には、わざわざ遠隔地の従業員からもデータを集めたところがある。彼らには、本部スタッフとは違ったニーズのある場合が多いのだ。単純な例を挙げると、遠隔地の従業員にとっては、低速なモデム接続でも問題のないデザインであることが重要になってくる。

予算は限られていても、イントラネット・ユーザビリティでよい仕事をすることは間違いなく可能である。ここで取り上げた10のイントラネットはいずれも勝者であり、すばらしいデザインであることには間違いないが、私たちは全般的にみてベストのデザインと思われる企業をひとつ選出した。それは、カナダの小企業 silverorange である。彼ら自身がデザインファームであるというアドバンテージは公平を欠くものの、この小企業のイントラネットは、はるかに巨大なプロジェクトのそれと比較しても際立っていた。

また、Lulea 工科大学がトップ10に入ったのも特筆すべきことだ。なにしろ、最終学年の学生たちがデザインしたものなのだから。小規模で、多くのリソースを欠いていたにも関わらず、このデザイン・チームは執拗にユーザニーズに集中し、迅速な反復を通じてデザインの単純化に注力した。Lulea の中には、現在のユーザビリティ・レベルに達するまでに50反復を経た機能さえある。

デザイン・トレンド:単純化と標準化

私たちの2001年のデザイン年報では、ケーススタディの中から2つの重要なトレンドが浮かび上がった。すなわち、よいイントラネット・プロジェクトは単純化に注力し、複数の事業ユニットや部門を横断して統一したナビゲーションとユーザ・インターフェイス・デザインになっていることである。

もっとも重要なフィールドを目立たせるために、デザイナーたちは、以前のバージョンでわずらわしかったフォームをカットしている。検索も単純化し、目立つように配置した。ほとんどのユーザに関係のない機能はカットしたり、副次的な画面に追い込んだりしている。グラフィックも色調を落とし、一般的なルック&フィールがすっきりしたデザインになるように考えている。

コラボレーションとコミュニケーションのツールとしてのイントラネット

コラボレーション・ツールとしてのイントラネットには、飛躍的に大きな重点が置かれるようになった。ディスカッション・グループやその他の機能を通じて、従業員同士で情報交換できるようにするためのものだ。イントラネットではコミュニケーションにも重点が置かれていて、各部門が、他のグループに興味のあるニュースなどを投稿するよう推奨している。

かつては、特別な技術スキルのない人がイントラネットに情報を投稿するのは、とても難しかった。今回のトップ10プロジェクトのいくつかは、従業員からの貢献がたやすくできるような手法を導入している。

また、かつては、従業員や各部門が非構造的なやり方でイントラネットに情報を掲載するのが普通だった。このため、本人以外の誰にも見つけられないということが起こったのである。ここで紹介したプロジェクトの多くは、この貴重な情報をイントラネット内に統合し、見つけやすくするための手法を導入している。

コンテンツ管理

普通の従業員がイントラネットへ貢献できるようにする上でキーとなる手法のひとつは、よくできたコンテンツ管理システム(content management system = CMS)を利用することである。全員に自前のウェブページをデザインさせるのではなく、投稿を処理する仕組みはCMSに任せて、人間はコンテンツとメッセージに集中できるようにするのである。

コラボレーションが簡単になるだけでなく、こうしたソリューションによってデザイン標準が堅持され、ユーザ・インターフェイスの一貫性が強調できる。よって混乱の減少とトレーニングコストの削減につながるわけだ。全員が自分でページをデザインし、制作するということになると、間違いなくページはバラバラになり、相当混乱してしまうだろう。プラス、たいていはまともなデザインにもならないはずだ。ほとんどの従業員は、オンライン・インタラクティブ・メディア向けのデザインについて、あまりよく知らないからだ。

自動化ソリューションのケーススタディのうちでもっともドラマチックだったのは、Interactive Applications GroupのCommunity [apps] である。Community [apps] は完全なホスト型ASPソリューションであり、非営利組織向けのイントラネットを提供するものだ。Interactive Applications Groupが提供する「インスタント」イントラネットは、ターゲット・グループのニーズをサポートしているだけでなく、たいていの場合、リソースの限られた非営利組織が自前で構築するよりも優れたデザインになっている。

98%の利用向上

このレポートに掲載したイントラネットが、デザイン改善によって得たビジネス上の価値を評価するのは非常に難しい。価値の大部分は、決定事項の周知徹底から生まれるだろう。コラボレーション機能とニュースエリアのおかげで、知識の普及が進むことによる賜物である。アプリケーションの能率化から得られる生産性向上も大きい。この一例がCiscoイントラネットのセールス・フォース・ツールである。セールス担当者全員がシステムに入力するごとに数分を節約できるとすれば、年間では何百万ドル規模の節約になるだろう。とはいえ、セールス・プロセス管理の徹底と、取引内容の周知徹底によって得られる利益は、この額を簡単に上回るはずだ。残念ながら、これらの利益を定量的に計測した数値はない。ある程度の精度をもったデータを集めようと思うと、かなりのコストがかかるだろう。

だが、私たちの手元には、ユーザビリティ改善度の目安となるデータセットがひとつある。それは、いくつかのイントラネットで取られた利用統計だ。平均してみると、より使いやすいサイトを目指して再デザインしたイントラネットでは利用が98%増加している。言い換えると、投資額のうちのわずかな額を費やしてユーザビリティを改善すれば、イントラネット投資に対する見返りを約2倍に高めることができるのである。

くわしくは

72枚の画面ショットを含む111ページのイントラネット・デザイン年報がダウンロードできる。

2001年11月25日