正しいフィールド調査:
迅速かつ観察主体に
フィールド調査では、実ユーザの行動観察に重点をおくべきだ。単純なフィールド調査なら迅速かつ簡単に実行できる。しかも、人類学者が束になって取り組む必要もない。顧客へ訪問する際には、デザインチームの全員が参加すべきだ。
デザインプロジェクトの方向性を決め、満たされていないユーザのニーズを掘り起こす上で、もっとも有用な手法のひとつがフィールド調査である。だが、どんなにユーザを調査し質問したところで、こちらから回答を与えてしまっては意味がない。それでは本当には何も新しいことは学べないからである。
先週、The New York Timesに、顧客調査のために人類学のテクニックを応用する企業についての長い記事が掲載された。フィールド調査を奨励する記事が出るのは、無条件にすばらしいことだ。だが、Timesの記事情報には、相変わらずなくならない2つのミスが見受けられる。このため、データの質が低くなるばかりでなく、企業の調査予算も無駄になっているのである。
- 記事によると、この調査では質問インタビューに重点が置かれている。だが、静かにユーザを観察することの方がより大切であり、それこそがフィールドに足を運ぶ本当の理由だ。
- 話題を「人類学」に振ってしまうと忘れがちになるのだが、フィールド調査には開発チームの全員が参加すべきであり、調査はチームの人たちで実施できる。博士号保有者を大勢雇う必要はない。
誘導尋問に気をつけよう
この記事では、バーベキューグリルの顧客フィールド調査に関して以下のようなくだりがある。
Q: 「ということは、アウトドアでグリルをやると、家族のきずなが強まると感じるわけですね?」
A: 「もちろん」
Q: 「家族の中に、グリルが好きじゃないという人はいますか?」
A: 「お父さんです」
Q: 「にも関わらず、やはり紐帯儀礼だと?」
A: 「まあ、そうですね」
Q: 「あなたの生活文脈の中で、グリルはどういう役割を果たしていますか?炭火と社会的紐帯とは、何か関係あるんでしょうか?」
A: 「よくわかりません。ただ、どちらかといえばガスの方がいいですね」
おそらくこの調査担当者は、記者のために大げさにやって見せただけなのだろう。いずれにしろ、上記の個所では、基本的なインタビュー原則をいくつか踏みにじっている。
- 「イエス」か「ノー」で答えられるような質問をしないこと。オープンエンドの質問なら、回答者からもっとたくさんの情報を引き出せる。話しやすく、特徴的なディテールが得られるような質問を考えよう。
- オープンかクローズかに関わらず、絶対に誘導尋問はしないこと。多分こう感じただろうと思ったことを口にした瞬間、以降の回答にはバイアスがかかってしまう。誰しも、インタビュアーの「権威」には逆らいにくいものだ。
- 業界用語を使わないこと(ここでいえば「生活文脈」と「社会的紐帯」がわかりやすい例)。回答者と対話する場合には、彼らの言葉で話すこと。その方がより多くを引き出し、彼らの本心をよく理解できるようになる。
- あなたが知りたいと思う特定の問題に注意をひいてはいけない(この例でいうと「紐帯儀礼」がそれにあたる)。これをやると、彼らの行動を変えてしまい、あなたが強調した問題に回答が集中することになる。これは、インターフェイスデザイン調査で特によく見受けられる問題だ。特定のデザイン要素についての質問を一度でも繰り返すと、そうでなかった時よりも、それ以降、その要素が強く意識されるようになる。
インタビュー手法上の間違いに加えて、この記事ではさらに大きな問題が浮き彫りになっている。観察ではなく、インタビューばかりに片寄っているという点だ。わざわざ現地訪問の準備をした以上、そこで収集すべきもっとも重要なデータは顧客の行動である。言い換えると、発言ではなく、行ないに注目することなのである。彼らは結束していたか?お父さんはずっと家に閉じこもっていなかったか?実際には何が起こっていたのだろう?
自分でやるフィールド調査
フィールド調査に関する記事のほとんどは、それが恐ろしく複雑で、人類学者チームが欠かせないというような書き方をする。もちろん、普通のデザインチームにはそういう専門の人はいないので、自然にフィールド調査をあきらめてしまい、憶測(もしくはフォーカスグループ。これは、テーブルに寄り集まってデータをでっち上げるのと変わらないくらい悪い)を頼りに前へ進もうとする。
実際には、基本的なフィールド調査技術はかなりシンプルであり、折りを見て、デザインチーム全員が顧客訪問に同行すべきなのである。本物の顧客の現場を訪問するというのは、デザイナー、プログラマー、マーケッターにとって、非常に価値のある体験になる。
イントラネットプロジェクトにもフィールド調査は欠かせない。たいていは別の部署か別棟に行くだけで済むので、訪問のスケジュール取りも楽だろう。
私たちは、4日間コースのフィールド調査教育を行っている。デザインチームを引き連れて、顧客数名といっしょに短期の現地訪問を行うのだ。4日間やっても、フィールド手法を4年間研究した人間にはかなわないだろう。だが、4日間のイベント中に得た洞察は、そのプロジェクトに役立つはずだ。基本はやさしい(上に引用したインタビュープロトコルでは、見事に破られているが)。簡単な現場訪問なら誰にでもできる。
資金潤沢なプロジェクトなら、徹底的なフィールド調査手法を採用してもいい。何ヶ月も、何年もかけて、専門のスタッフを必要とするようなものだ。こういったプロジェクトなら、手早い手法を用いたプロジェクトより多くを学べるだろう。だが、だからといってより大きな成功を収めるとは限らない。その間に、市場機会を取り逃がしてしまう可能性があるからだ。また、短期の調査なら、プロジェクト中のより多くの段階で、より多くのデータを収集できるだろう。チームのメンバーは、それだけ生きたデータに触れられるわけで、そこには要約版のレポートにはない価値がある。
イントラネットデザインチームには、特に現場での実際の従業員の行動観察が欠かせない。これをやれば、タスクサポート向上のために、どこに着目すればいいかがわかるだろう。
フィールドデータを収集し、生の顧客を訪問することは、閉じられた専門家集団の特権ではない。他人に利用されるデザインを行う者すべてに要請される義務なのだ。
2002年1月20日