消耗品からの脱却

PCは消耗品と決まったわけではない。クオリティに注力することで、製品も、サービスも差別化できるのだ。ソフトウェアには大いに改善の余地がある。あまり評価されていないが、その一例として、Windows XPに搭載されたある機能によってユーザは年間2000ドルの節約が可能になる。

パーソナルコンピュータは単なる消耗品であり、残された道は価格競争以外にない、とはよく聞く話である。これは真実とはいえない。だが、差別化のためには、大部分のベンダーが考えている以上の品質に対するアプローチが必要となる。

ひとつの対案として、Steve Jobsがやっているように、見た目の優れた新機種を次々に作って注目を集めるというやり方がある。この戦略は驚くほど簡単に真似できる。人気のあるインダストリアルデザイン会社に数100万ドル渡せば、Mac以外のコンピュータならどれにも負けないシェイプを考え出してくれるだろう。深い思考はまったく必要ない。小切手を切るだけでいいのだ。

見た目のいいコンピュータに対しては強い需要がある。現代のオフィスや家庭ではコンピュータは目立つ場所に置かれることが多いからだ。一日中眺めるのだとしたら、魅力的な方がいい。

だが、インダストリアルデザインは、コンピュータが向かうべき本筋ではない。ソフトウェアデザインを向上させる方がはるかに重要なのだ。これにはいくらか頭を使う必要があって、それはSteve Jobsの戦略ではない。だが、ハイテク製品であれウェブサイトであれ、差別化を考えるならソフトウェアのイノベーションこそが本筋だと私は信じている。

アンチエイリアス付き画面フォント

新型iMacの液晶パネルディスプレイについてはよく話を聞くが、今年の画面デザインで真の革命といえるのは、Windows XPにおけるアンチエイリアス付きフォントの採用である。XPに採用されたClearTypeテクノロジーによって、液晶画面ユーザが画面を読むスピードは、恐らく10%から15%ほど向上するだろう。残念ながら、従来型のCRTモニタではClearTypeは利用できない。もっと悪いのは、新規にインストールしたXPでは、たとえ液晶画面のユーザであっても、この機能がデフォルトでオフになっていることだ。Windowsのユーザ設定はそもそも出来がよくないので、初めからどこにあるか知っているユーザでない限り、この機能を見つけられる人は少ないだろう。

ClearTypeをオンにするには、コントロールパネルに行って > 画面 > デザイン > 効果 と開き、「次の方法でスクリーンフォントの縁を滑らかにする」のチェックボックスをオンにする。ポップアップメニューが「ClearType」になっているか確かめよう。

これで、Alertboxを読んだ見返りに2000ドルが節約できたことになる。

アンチエイリアス付きの画面フォントでどれだけコストが削減されるかを推定するにあたって、年収5万ドルのビジネスプロフェッショナルを例にとろう。このユーザが、電子メールやイントラネット、その他の文書をコンピュータ画面上で読むのに勤務時間の20%を費やしているとする。すると、企業にとって、この画面は年間2万ドルのコストとなる(社会保障や間接費などを考慮して従業員コストは給与の2倍とする慣例に従っている)。ClearTypeによって、このユーザが画面を読んでいる時の生産性は、少なくとも10%向上するだろう。よって、利得は2000ドルとなる。

Windows XPには、他にも興味深いユーザビリティ上のイノベーションがみられる。ユーザがその時必要とするであろうコマンドや機能が選び抜かれて、タスクペインに一体化されているのだ。このデザインによって、進んだ機能がより見つけやすくなるだろう。しかも、悪名高いペーパークリップのように目障りになることもない。最終的な判断はもう少しユーザデータを見てからにしたいが、タスクペインはユーザ効率の漸近線を打ち破る上でいいアプローチだ。ユーザ効率の漸近線とは、基本的なことができるようになると、人々はとたんにユーザインターフェイスについて学ぶのをやめてしまうという事実を指している。

ソフトウェア: 差別化の要諦

ソフトウェアやウェブサイトを改善しようとしない企業が、どうしてこんなにたくさんあるのだろうか?私の説はこうだ。他の大部分の業界では、顧客サービスを向上するには大変なコストがかかる。よって、実際に改善するよりは、それらの製品がいかに優れているか語る方が楽なのだ。

ソフトドリンクのCokeとPepsi、あるいはレンタカーのHertzとAvisの間には、実際にはそれほどの違いはない。優良顧客がクルマを求めて行列しなくても済むようにする方法を導入すれば、そのレンタカー企業は競争力で優位に立てるだろう。だが、これには信じられないほどのコストがかかり、専用のスタッフや、レンタルバスには専用のワイアレス端末、それに何千もの拠点には専用の駐車枠も必要だ。

何年もの間、ほとんどの「アナリスト」は、検索エンジンは消耗品であり、検索機能提供者として差別化しようと思うなら画像やギミックを使うべきだと主張してきた。よりよい検索デザインのために投資する必要はない。そんなことはユーザは求めていないのだ、と。これが間違いだったことは、今なら誰でも知っている。検索機能を改善することは明らかに可能であり、実際にウェブ上に優れた検索エンジンが登場すると、そこがこの分野を制覇してしまった。

ウェブサイトは非常に使いにくいので、ユーザビリティとプログラミングに比較的少ない投資を行うことで、ほとんどすべての企業は差別化できる。一番のメリットは、一度だけ創案し実装したものが、オンラインでは全顧客に向けて展開できることである。優良顧客だけに限定する必要がない。

同様に、PCでも、現在バンドルされているグレードの低いアプリケーションの代わりに、デジタルメディアの取扱いが本当に優れていて、しかも使いやすいソフトウェアを添付するというやり方が考えられる。

ハードウェアとサポートで差別化

本当に役に立って、しかも、故障しても簡単に修理できるシステムなら、値段が高くても買ってくれるユーザはたくさんいるはずだ。ベンダーは、目標を高く持って最良のコンポーネントを使ってPCを組み立てるのだ。必要なのは、マーケティングをうまくやって価値提案をきちんと伝えること。どのPCもみんなダメ、と思い込んでいる人たちの住まう消耗品の領域を突破することだ。

ほとんどのコンピュータ企業は、低品質なハードウェアを売りつけておいて、それで自分たちが節約した何倍ものコストをユーザに支払わせている。例えば、私が以前持っていたラップトップには低コストのモデムがついていた。これで、ベンダーは1ドルほど節約できたかもしれない。だが、このひどいモデムのおかげで、私は200ドルは損をしている。電子メールを拾おうとして、世界中のホテルで余計な通話料を払うはめになったのだ(回線に接続すらできなかったにも関わらず、1回で1ドルという場合も珍しくない)。さらに、低速でしかつなげないために、通話時間も長引いた。いいモデムなら、もっと高速で接続できたはずだ。

差別化を考える時、技術サポートは見落としがちなポイントだ。コンピュータがトラブルを起こすことをユーザは承知している。だが、製品の後ろ盾となって優良なサポートを提供してくれる企業の製品なら安心だ。有用で、あなたの抱える問題を解決してくれるサポートなら差別化ポイントになる。メインフレーム分野でのIBMは、長い間ここを評価されてきた。マシン自体はたいしたものではないかもしれない。だが、サービスは確実によかった。今日、ベンダーのウェブサイトに優れたサポートエリアを設けることは、ブルーのスーツを着たサービス要員群を抱えるよりも価値が高い。

2002年2月3日